デジタルでフィルムを再現したい
第5回

デジタルフォトから硬めな味わいの「無補正」風プリントを再現する

2000年代以降、デジタルカメラを内蔵する携帯端末が広く普及し、私たちの日常生活は「写真撮影」と共にあるといっても過言ではありません。その一方で、近年になってフィルム写真も再評価されており、「古くて新しい写真表現」を評価する価値観の中で、写真表現に新たな広がりが訪れています。

写真は「現像」作業によっていかようにでも変化します。その性質は、デジタルでもフィルムでも変わりません。しかし根本的な部分で、デジタル写真はフィルム写真とは似て非なるものです。そしてそれは、デジタルがアナログに近づく余地を残しているということでもあるのです。

書籍「デジタルでフィルムを再現したい」では、デジタル写真現像ソフト「Lightroom」を用いて、デジタル写真をフィルムの風合いに近づけるテクニックを紹介しています。まったくのゼロからフィルムの色合いを再現するのは大変な作業ですので、本書で色調やトーンなど、各種パラメータコントロールの基本を身につけるのも一つの手でしょう。

本記事では第2章「シーン別フィルム再現 屋外編」より、ネガをDPE店に出した仕上がりに近づける調整方法を紹介します。

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デジタルでフィルムを再現したい
嵐田大志オリジナル フィルムルック・ プリセット(5点セット)

「無補正プリント」の硬調さを再現

Before

作品タイトル:「トンネルの先に海」
シチュエーション:朝、晴れ、逆光/斜光、自然光

After

Step0:仕上がりをイメージする

海に抜けるトンネル、という明暗差が大きいシチュエーションです。通常であればコントラストを落とすなどして、明暗差を和らげる編集を行うところですが、今回は「35mmフィルムをチェーン店にて無補正でプリントする」イメージで、あえて硬さを残した仕上がりを目指します。

Step1:写真を整える

水平がかなり傾いているので、ベースプリセットを適用したのち、水平をしっかり補正します。

水平がかなり左に傾いていたため、プラス方向に補正。

水平の補正は便利ですが、上の画像を見てもわかるように、元の写真と比べるとフレーミングの範囲が狭くなります。撮影の段階でできるだけ水平を取ることを意識するのはいうまでもありません。なお、人それぞれどちらかに傾くクセがあるので自分のクセを把握しておきましょう。

Step2:基本補正を行う

ライト
コントラストや黒レベルを調整して、硬めのトーンにしていきます。

露光量:+094→+1.44
コントラスト:-16→+20

チェーン店のミニラボを使った無補正プリントはコントラストが高くなることが多い。これを再現すべく、コントラストを思いっきり上げた。

黒レベル:0→-40

写真の最も暗い部分(この写真ではトンネルの壁など)の明るさを下げる。ピーキー感を出すことに加え、トンネルの壁の暗い部分がより暗くし、フレームの中央に視線を集中させるねらいがある。

ポイントカーブ
ベースプリセットのポイントカーブは、中間調を明るくしてありますが、今回は中間調をそのままに修正します。

ベースプリセットと異なるトーンになる。

Step3:カラーを調整する

ミニラボ無補正はアンバーな仕上がりになることが多いですが、今回はあえて寒色寄りにします。

色温度:-12→-17
色かぶり補正:-16→-22

色温度と色かぶり補正を使って、全体的にブルー、グリーン寄りにした。

彩度:0→+9

全体的に彩度が低すぎると感じたため、最後に調整した。

街角の写真店で仕上げたようなやや硬調なトーンが、懐かしい雰囲気の写真とマッチした。


デジタルでフィルムを再現したい
嵐田大志オリジナル フィルムルック・ プリセット(5点セット)

著者プロフィール

嵐田 大志

嵐田 大志 (アラシダ タイシ)
東京を拠点に、家族写真やスナップなどを中心に撮影。Instagramにてハッシュタグ「# デジタルでフィルムを再現したい」を発案、デジタル写真をフィルム風に編集することをライフワークのひとつとしている。Adobe Stock Premium がモバイル編集アプリVSCO と共同展開する「VSCO Collection」の公式クリエイター。
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