本屋さんは宝箱〜写真家 鹿野貴司の書店めぐり〜
第3回

幕張 蔦屋書店〜ここでしか手に入らないものがあるワクワクの百貨店〜

よく息子を連れて千葉の実家へ里帰りするのだが、車の場合、幕張新都心を抜けていくことが多い。そのたびに、いつも気になるのがどデカいイオン、「イオンモール幕張新都心」である。生活圏にイオンというものがないので、そもそも寄るという発想がないのだが、でもきっといろいろ楽しいお店があるに違いない。

と少々前置きが長くなったが、書店を巡るこの不定期連載。今回はその楽しいお店のひとつを取り上げることになった。グランドモール1階の幕張 蔦屋書店だ。2013年、イオンモール開業と同時にオープン。既存のTSUTAYAではない「蔦屋書店」としては、千葉県初出店となる。そしてさんざん横を素通りしてきた僕自身も、初めての訪問だ。

その第一印象は「広っ!」。とにかく広いし、ゆとりがある。
今回案内してくださった幕張 蔦屋書店の大久保和江さん(右)と柴田拓哉さん。

僕も蔦屋書店はフラッグシップともいえる代官山のほか、最近ではGINZA SIXの店舗に寄ることも多い。迷路のような構造と、一般の新刊書店にはない写真集も豊富に取り揃えている。洋書のほか、小さな出版社や自費出版のものもあり、探す楽しみや出会う喜びがある。しかし東京の宿命か、棚と棚の間が狭く、混み合う時間帯だとゆっくり本を吟味するというわけにもいかないのだ。その点、幕張 蔦屋書店は周囲を気にせず、本選びに没頭することができる。気をつけなければいけないのは、広すぎてあちこち眺めているうちに、時間が経つのを忘れてしまいそうなことか。

客層は家族連れが多いそうだが、2023年3月に幕張豊砂駅が開業してからは学生や仕事帰りの個人客が増えたという。取材は平日の昼下がりで、来客は高校生からシニアまでさまざま。これが幕張メッセで大きなイベントがあると、前後に来場者がどっと押し寄せる。そこでイベントに関連するアイテムを展開するという。

店舗の中央は広めの通路が、商店街のように伸びている。通路の中央には話題やいち推しの本を平積み。両側にはジャンル別に雑誌や文庫が並ぶ。
売上に占めるコミックの割合も高いとか。広さを活かしてPOPや掲示もひと工夫。
ご近所・ZOZOマリンスタジアムを本拠地にする千葉ロッテマリーンズのほか、Bリーグ屈指の人気チーム・千葉ジェッツふなばしや、Fリーグ(フットサル)・千葉フットサルのバルドラール浦安のアイテムを揃えた“ホームタウン”のコーナーも。
千葉ロッテマリーンズの吉井理人監督は球界屈指の理論派。著書も多く、コーナーの一角を占める。

さらに進んでいくと、本ではなく生活雑貨や食品が。いつの間に隣のテナントへ入ってしまったんだろう…と思ったら、そこもれっきとした店舗の一部だった。さらに文具コーナーに行くと、文具マニアの僕からみても実に素晴らしい品揃え。単にいいものを集めているのではなく、欲しくなるものを集めているという、いわば“買わせ上手”な印象だ。たとえば万年筆やペンは5〜10万円するものも珍しくないが、ショーケースの中にあるのは1万円前後の手に取りやすいものばかり。この値段なら一目惚れして衝動買いということもあるだろう。また文具には実物を手にしないとピンとこないものも多く、ネット通販が普及した今でも実店舗の果たす役割は大きいと思う。

スタッフが厳選した逸品がたくさん!文房具、生活雑貨・食品、ネイルのコーナーにワクワクが止まらない!

生活雑貨・食品のコーナー。ここだけ見れば違う店のようだ。
もちろん雑貨や食品と同時に、関連する書籍や雑誌も陳列。ここは書店の強みだ。
文具コーナー。ここは高級なペンが揃う一角だが、もちろんリーズナブルで一般的なアイテムも揃っている。
趣味の世界に入りそうになる文房具マニアの鹿野氏
そんな文具コーナーで、僕がもっとも欲しくなったのが、読みかけの本をおさえるアイテム。上のクリップはその形状から「ウカンムリクリップ」。下はさらにそのものスバリな「本に添う形状の文鎮」。
一角にはネイル関連の商品も。これが結構売れるらしい。

充実の品揃えの芸術書コーナー

蔦屋書店といえば、どの店舗も芸術書の品揃えが豊富。ここ幕張蔦屋書店も同様で、画集・写真集・美術書などが充実している。またファミリー層が多いこともあって、絵本コーナーはかなりの面積をとっている。僕自身もショッピングモールなどに行くと、6歳の息子と一緒に絵本を探したりするのだが、狭い通路を子供が駆け回ったりしてヒヤヒヤすることも多い。しかしここなら土日でもゆったり息子と本を選べそうだ。というわけで次の里帰りのときは、きっと寄ることになると思う。

ちょっと入り組んだ場所にある芸術書コーナー。静かに選べる環境だ。
そんな芸術書コーナーから、大久保さんと柴田さんに選んでいただいた3冊を。左から

『ものがたりの家 -吉田誠治 美術設定集-』
吉田誠治著
パイインターナショナル・2200円+税
物語に登場しそうな空想の家を33点収録。

『キボリアル』
キボリノコンノ著
玄光社・2000円+税
SNSで話題の、リアル過ぎる木彫りアーティスト・キボリノコンノの初作品集。制作過程や道具の紹介、インタビューなど内容盛りだくさん。

『美術の物語』
エルンスト・G・ゴンブリッチ著
河出書房新社・4990円+税
壮大な美術史をまとめた名著のポケット版(といってもそこそこ厚いけど)。取材時点では刊行記念特価で3990円+税。そのせいか置けば売れるという。

人気の児童書コーナー

絵本や知育玩具のコーナー。このゆとりある店舗空間は、東京の書店ではなかなか難しいだろうな…と思う。

そんな幕張 蔦屋書店のセールスポイントを柴田さんに伺うと
「他の書店にあるものはほとんどありますが、さらに他店にないものも頑張って揃えています。たとえば私の担当のひとつがライトノベルですが、売れ筋や定番だけでなく、新人作家の作品も長く置くようにしています。またお客様目線で考えて、手に取りやすい1〜3巻で収まる作品も選んでいます」
またゲーム関連の書籍は流行もあり、発行から少し経つと入手困難になってしまう。そんな書籍もしぶとく棚に残しているが、それを知って遠くから買いに来るファンもいるという。

大久保さんも
「サイン本を積極的に扱っているのは強みですね。書店にとっては返品できないというリスクが気になるアイテムなのですが、ファンの方もここに来ればサイン本があると認知してくださっているので、私たちも心配せずどんどん仕入れています」
と熱く語っていた。

特設コーナー「ももこ画集 arpeggio」パネル展

*2024年11月取材時の展示です。展示は入れ替わります。

この日は玄光社から発売中の、人気イラストレーター・ももこさんの新刊「ももこ画集 arpeggio」が特設コーナーで販売されていた。サイン本はすでに完売していたが、幕張 蔦屋書店限定の特典として線画ペーパーが付く。
蔦屋書店といえば相棒ともいえるのがスターバックス。ここ幕張にも併設されている。本を選びながらコーヒーブレイクといきますか。

また柴田さんはTSUTAYAでレンタル商品を担当していた経験から、書棚の中を頻繁に入れ替えている。DVDでは旧作の回転率を上げるための工夫だそうだが、関連性や類似性のあるものが隣り合うことで、格段に探しやすくなる。新刊書店ではあまり馴染みがないらしいが
「自分が不在のときでも担当外のスタッフがわかりやすいようにしています。それはイコールお客様もわかりやすいということになります」
大久保さんも「柴田が担当になったコーナーは、確かに探しやすくなりました」と太鼓判を押す。ただしそれは商品知識がないと難しい。柴田さんは新刊を読むだけでなく、作者とも積極的にSNSで交流。情報をいち早くチェックしている。

そんな柴田さんが個人的におすすめの4冊。左から

『中世実在職業解説本 十三世紀のハローワーク』
グレゴリウス山田・著
一迅社・2700円+税
同人誌で話題になり、待望の商業出版が実現。中世ヨーロッパに実在していた職業を、ゲーム攻略本のように紹介。

『色の物語 青』
ヘイリー・エドワーズ=デュジャルダン著/丸山有美・翻訳
翔泳社・3000円+税
ひとつの色を美術史から掘り下げていくシリーズの第一弾。

『渡り鳥たちが語る科学夜話』
全卓樹・著
朝日出版社・1600円+税
理論物理学者が綴る科学エッセイ集。寺田寅彦記念賞を受賞した話題作の続編。

『誰が勇者を殺したか』
駄犬・著/toi8・イラスト
KADOKAWA・680円+税
ライトノベルだが大人も楽しめる本格推理小説。

『渡り鳥たちが語る科学夜話』はあちこちで書評を読んで気になっていたので取材後に購入。そして美術書コーナーで紹介した『美術の物語』も。柴田さんの「時間があるとパラパラめくって、目に止まった章を読んでいます。厚さにたじろいでしまいがちですが、どこから読んでも楽しめる本なので」という言葉を聞いて、なんだか猛烈に欲しくなった(たぶん買う)。

そんな良書との出会いがあった幕張。やはりここは日をあらためて近々再訪せねば。里帰りのついででは時間も足りなくなりそうだ。

<店舗情報>

幕張 蔦屋書店
住所〒261-8535
千葉県千葉市美浜区豊砂1-1
イオンモール幕張新都心グランドモール1F
電話043-306-7361
https://store-tsutaya.tsite.jp/store/detail?storeId=1548

SNS・X
幕張 蔦屋書店 BOOK
https://x.com/tm_book

幕張 蔦屋書店 CD/DVD
https://x.com/TM_SELLRENTAL

幕張 蔦屋書店 文具/雑貨
https://x.com/TM_STATIONERY

著者プロフィール

鹿野貴司

1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、フリーの写真家に。広告や雑誌の撮影を手掛けるほか、ドキュメンタリー作品を制作している。写真集『感應の霊峰 七面山』『日本一小さな町の写真館 山梨県早川町』(平凡社)ほか。著書「いい写真を撮る100の方法(玄光社)」

ウェブサイト:http://www.tokyo-03.jp/
X(旧Twitter):@ShikanoTakashi
Instagram:@shikanotakashi

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