西洋絵画入門! いわくつきの美女たち
第9回

『シモネッタ・ヴェスプッチの肖像』ピエロ・デ・コジモ(1462〜1521年)

絵画に描かれた「いわくつきの美女」や、さまざまなエピソードを持つ「いわくつきの美女絵画」など、280点の西洋絵画を美術評論家の平松 洋氏の解説で紹介する本書「西洋絵画入門! いわくつきの美女たち」。神話の女神から、キリスト教の聖女や寓意像の美女、詩や文学に登場するヒロイン、王侯貴族の寵姫や貴婦人、そして高級娼婦まで、いろいろなバックストーリーに彩られた「美女たちの名画集」としても楽しめる一冊となっています。
ここでは、本書から、いわくつきの美女たちをご紹介していきます。
第9回は「肖像画〜美女たちのプロフィール〜」から『シモネッタ・ヴェスプッチの肖像』(ピエロ・デ・コジモ作)をご覧ください。

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西洋絵画入門! いわくつきの美女たち

蛇のネックレスが示すのはメディチ家の思い人?!

ピエロ・デ・コジモ
『シモネッタ・ヴェスプッチの肖像』

1480年頃
板にテンペラ 57×42cm
コンデ美術館

この絵は、盛期ルネサンスの画家ピエロ・デ・コジモが、『ヴィーナスの誕生』のモデルとされた絶世の美女シモネッタを描いたものだといわれています。

昔から蛇のネックレスが謎とされ、澁澤龍彦はこんな風俗が実際に流行していたのかもしれないと言い、美術史の碩学フェデリーコ・ゼーリは死を表すと言います。

筆者は、約20年前から、蛇のネックレスは、メディチ家を表し、女性はメディチ家に愛されたシモネッタを示していると考えています。その根拠は、このネックレスを外して、まっすぐに置くとわかります。一本の棒に巻き付く蛇の図像は「アスクレーピオスの杖」(右図)と呼ばれるもので医神を表します(WHOのマーク参照)。医学はイタリア語で「メディチーナ(medicina)」で、薬を語源とする「メディチ(medici)」家に愛された女性を意味していたのです。

『アスクレーピオスの像』
新カールスベア彫刻館
写真:Nina Aldin Thune

西洋絵画入門! いわくつきの美女たち

著者プロフィール

平松 洋

美術評論家、フリー・キュレーター。
1962年、岡山県生まれ。早稲田大学文学部卒。企業美術館キュレーターとして活躍後、フリーランスとなり、国際展のチーフ・キュレーターなどを務める。現在は、早稲田大学エクステンションセンターや宮城大学などで講師を務めるかたわら、執筆活動を行い、その著作は、海外3ヵ国地域での翻訳出版を含めると50冊を超える。主な著作としては、『誘う絵』(大和書房)、『「天使」の名画』(青幻舎)、『名画の謎を解き明かすアトリビュート・シンボル図鑑』、『クリムト 官能の世界へ』、『名画 絶世の美女』シリーズ(以上、KADOKAWA)他多数。

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