心に響く蔵元──醤油を巡る旅
第3回

北陸・信州の蔵元を訪ねる

『醤油本 醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本』では、先人や周りの人に敬意を払い、熱心に勉強し、日々の経験の積み重ねから多くの人に愛される醤油を造る全国の蔵人達を紹介しています。

本連載の第3回では、北陸・信州地方の個性的で魅力的な蔵元をご紹介します。

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■大久保醸造店
醤油を造る微生物に最良の環境を考え抜く

木桶の表面に漆を塗り、雑菌を住みつかせないよう工夫する。

「お父さん今日のご飯は何にします?」「任せるよ」 いつも通りのやりとりをした食卓には旬の食材が溢れ、自家製の醤油と味噌汁が並ぶ。そしてお孫さんも一緒に親子三世代で囲む。「贅沢をしたいわけじゃないんだ。ありのままを食べたいんだよ」。それが幸せだと大久保文靖さんは微笑む。素材が美味しければ余計な味付けは不要になる。このような本質的な美味しさを追求する姿勢は、醤油を造るときも同じだ。

原料は等級がつく良質なものを全国から集める。「醤油造りの主役が微生物ならば、彼らが最も活躍できる環境を整えることが人の仕事」と既成の設備に改良を重ねる。蔵の中は大久保さんの哲学の宝庫だ。例えば、醤油を美味しくするのは桶の内側に住む微生物で、他の場所には雑菌が繁殖してしまう可能性があると考える。すると、仕込場はオゾン水で洗浄して風が吹き抜ける構造に。さらに湿気がたまらないように壁には炭を、桶の表面には漆を塗る。そして、業務用途で出荷する時には醤油専用樽とビンを使い、全てリサイクルする。「自然の微生物の力を借りて醤油を造れているのだから、自然に負担をかけてはいけない」。大久保さんの探求と改良は終わることを知らない。

外観
大豆を蒸すNK缶。
大久保文靖さんから今後バトンを引き継ぐ勝美さん。

【製品紹介】
料理人・料亭・蕎麦屋が惚れ込む
紫大尽…淡口醤油
原材料の丸大豆、小麦、食塩、米、全て国産を使用。澄んだ色合いと香りの醤油で、懐石料理をはじめ、色をきれいに仕上げたい料理、めん類などのつゆ物に最適。

360㎖ビン ¥475(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩、米、アルコール

大久保醸造店
長野県松本市大字里山辺2889
TEL 0263-32-3154 / FAX 0263-35-2488


■鳥居醤油店
女将さんの丁寧な手仕事醤油

全て麹蓋を使って麹を造る。右の女性が鳥居正子さん。

「子供の頃、風邪をひくと母親がおでこに手をあててくれるでしょ。おなかが痛い時も。手をあてると痛みが和らぐように、人間の手には不思議な力があると思うの」と手仕事を重ねる女将さん。仕込みの前にはそっと手を合わせてお祈り。自動で動く機械は使わず、手で動かす昔ながらの道具を使う。造れる量は限られる。けれどそれでいいと、心身を癒す手の力を1 本の醤油に詰め込んでいく。

趣ある店舗兼仕込み蔵。
昔ながらの舟。手で棒を回して圧をかけて醤油を搾る。

【製品紹介】
木樽天然仕込醤油…濃口醤油
石川県珠洲産大豆と中能登産小麦を木桶で2年間熟成。三温糖を加え、柔らかな舌あたりに。

500㎖ビン ¥640(税込)
原材料 :大豆、小麦、食塩、三温糖

鳥居醤油店
石川県七尾市一本杉町29
TEL 0767-52-0368 / FAX 0767-52-0406
http://po5.nsk.ne.jp/~shouyutorii/
見学可(要予約)


■谷川醸造(屋号「サクラ」)
おしどり夫婦が自社醸造を再開

毎年材料や配合を変えながら、最良の醤油を追求。

能登半島の輪島市の醤油と言えば「サクラしょうゆ」。谷川醸造のロングセラー商品だ。甘口好みの北陸の中でも特に甘い醤油が好まれるこの地で支持されてきた。そんななか、若き4 代目谷川貴昭さんが「およねさん」の愛称で親しまれる女将の感性を活かしながら地元の原材料を使った無添加の醤油に挑む。諸味から自社で造る蔵元が少ない中、あえて15 年間止めていた諸味造りを再開させる本気ぶり。

4 代目の谷川貴昭さんと女将・千穂さん。

【製品紹介】
能登産丸大豆のお醤油…濃口醤油
石川県珠洲産で幻の大豆と呼ばれている大浜大豆、珠洲の釜あげの塩と、能登の素材を使った醤油。

145㎖ビン ¥463(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

谷川醸造
石川県輪島市釜屋谷町2-1-1
TEL 0768-22-0501 / FAX 0768-22-5270
http://tanigawa-jozo.com/
見学可(要予約)


■直源醤油
挑戦を続けて今がある

街並みに合わせて蔵を改装した店舗「直江屋源兵衛」。

石川県一の出荷量を誇り、「直っぺしょうゆ」は地元では知らぬ人がいない存在。時代に応じた挑戦を続けるのが常で、加賀野菜などを使ったドレッシングシリーズも評価が高い。

「私もたくさんの挑戦をした。売れない商品も多かったなぁ」と直江茂行会長は笑う。

【製品紹介】
丸大豆醤油「もろみの雫」…濃口醤油

720㎖ビン ¥1,620(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

直源醤油
石川県金沢市大野町1-53
TEL 076-268-1113
FAX 076-267-4446
http://www.naogen.co.jp/
見学可(要予約)


■ヤマト醤油味噌
体験を通じて発酵を伝える

北前船航路の廻船業から創業。

本社工場を含めた「ヤマト 糀パーク」には、直売店はもちろんキッチンスタジオや発酵食美人食堂などがあり、訪問客が発酵の魅力を体験できる店作りを心がけている。

この町が大好きという山本耕平さん。「一汁一菜に一糀」を掲げ発酵調味料を使った伝統的な和食をお洒落に提案。

【製品紹介】
香る生醤油「 ひしほ」…濃口醤油

180㎖ビン ¥540(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩、アルコール

ヤマト醤油味噌
石川県金沢市大野町4 丁目イ170
TEL 076-268-1248
FAX 076-268-1242
http://www.yamato-soysaucemiso.co.jp/
見学可(要予約)


■畑(はた)醸造
醤油造りも地元もふれあいを大切に

レンガ造りの室の中に、麹蓋が積み重なる。

極寒の地の温度変化に対応するレンガ造りの蔵。それでも起きる温度変化に人がつきっきりで麹蓋を動かし、手を入れながら麹を造る。この全国的にも珍しくなった伝統的な造りに驚く人は多い。圧搾も一週間そのままの状態で自然に滴るのを待ち、圧力を加えるのは少しだけ。わざわざ醤油を買いに来る人のためにと惣菜やご近所さんが作った旬の野菜を店頭に並べており、朝から地元客で賑わう。

蔵の前で野菜を売り、地域の交流の場にする。
四代目の畑彰専務。

【製品紹介】
北陸…濃口醤油
大豆と小麦は地元富山県産、塩は沖縄県産のシママースと全て国産の材料を使う。

500㎖ビン ¥810(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

畑醸造
富山県小矢部市浅地800
TEL 0766-61-2111 / FAX 0766-61-4024
見学可(要予約)


■野村醤油
醤油屋を活かして地元をPR

木製ケースに納められた一升瓶。現役で活躍中。

県下醤油醸造場で唯一、曹洞宗の大本山・永平寺御用達の認可を得ている蔵元。地元に親身な姿勢は代々続き、地元産の青大豆を使った醤油を造ろうと生産者と3 年かけて取り組み、地元ならではの醤油を生み出した。最近は醤油をアピールしつつ、地元を更に活気付かせようと福井の名物「ソースカツ丼」ならぬ「醤油カツ丼」を提案。地元の飲食店と連携しながらカツ丼維新を起こしている。

地元福井県産の青大豆。
野村明志社長

【製品紹介】
青豆しょうゆ…濃口醤油
地元産大豆で醤油を造りたいという想いを込めて、青大豆の全てを引き出すために2 年間熟成。

360㎖ビン ¥1,080(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

野村醤油
福井県大野市日吉町10-1
TEL 0779-66-2072 / FAX 0779-66-2916
見学可(要予約)


■コトヨ醤油醸造元
女性醸造家が柔軟に美味しさ提案

清潔に保たれたコンクリートの上に並ぶ桶。

「昔の醤油と今の醤油は本当に同じなのかと思うんですよ」と小林江利子さん。郷土料理があるように郷土の醤油であろうという先代の想いを受け継ぎ、地元の学校給食で使われることを誇りに感じるという。時流に乗るのはイヤだけど、時代の変化を受け入れるスタンスは持ちたいと取り組んだ、だし醤油の開発は甘さ控えめでバランスの良さを追求。そこにワインを加えるのは女性醸造家ならでは。

小林さんご夫妻。江利子さんはいつもパワフル。

【製品紹介】
コトヨ和院

720㎖ビン ¥902(税込)
原材料 : しょうゆ、だし(かつおぶし、宗田かつおぶし、さばぶし)、食塩、ワイン、みりん、魚介エキス、昆布エキス、調味料(アミノ酸等)、ビタミンB1、酸味料(原材料の一部に大豆、小麦を含む)

コトヨ醤油醸造元
新潟県阿賀野市笹岡1119
TEL 0250-62-2416 / FAX 0250-62-0264
http://www.kotoyosyoyu.jp/
見学可(要予約)


<玄光社の本>

醤油本 醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本

著者プロフィール

高橋 万太郎&黒島 慶子


高橋 万太郎(たかはし・まんたろう)

日本全国選りすぐりの醤油を100mlで統一して販売する「職人醤油」代表。各地の醤油蔵の訪問件数は300を超える。伝統産業・地域産業の中で「つくり手」と「使い手」の「つなぎ手」となる組織を目指して日々挑み続ける。1980年群馬県前橋市出身。

 


黒島 慶子(くろしま・けいこ)

醤油とオリーブオイルのソムリエでwebとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳の時に体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけている。

 

書籍(玄光社):「醤油本


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