心に響く蔵元──醤油を巡る旅
第2回

関東の蔵元を訪ねる

『醤油本 醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本』では、先人や周りの人に敬意を払い、熱心に勉強し、日々の経験の積み重ねから多くの人に愛される醤油を造る全国の蔵人達を紹介しています。

本連載の第2回では、関東地方で魅力的な醤油を作り続ける蔵元をご紹介します。

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■弓削多醤油(ゆげたしょうゆ)
兄弟二人三脚で地元を重んじて歩む

麹造りと経営担当の兄の弓削多洋一さん[右]と、品質管理担当の弟の真寿さん[左]。2 人が共通して目指すのが「安心でうまい醤油」。有機原料・無添加物・木桶仕込みの三要素にこだわった「吟醸純生しょうゆ」や「有機しょうゆ」など次々と形にしている。

のどかな田園風景に車を走らせると、「醤遊王国」なる建物が姿を現わす。1階の直売店を横目に階段をあがると飲食スペースが広がり、名物の醤油ソフトクリームや卵かけご飯を楽しむ観光客の姿で賑わっている。壁一面ガラス張りの向こうには醤油が仕込まれている桶が並び、熟成期間の異なる諸味が個性的な表情を見せる。
「工場見学をはじめます」という声についていくと、大豆を蒸したり小麦を炒る原料処理の工程が広がり、日本の大豆事情も交えた流暢な解説が続く。この20分ほどのツアーを1時間ごとに開催する。
同時に売店では「しぼりたて生醤油」という加熱もろ過もしていない品を提供している。極めて新鮮で、ここでしか味わえない醤油だ。
醤油を気軽に楽しく経験できる「醤遊王国」ができたのは2006年。顧客を蔵の中に迎え入れるスタイルは、当時の醤油業界では珍しく、同業者も見学に訪れたという。きっかけは、もう一度原点に立ち戻ろう。そう思ったから。判断した4代目の弓削多洋一さんは社長業と共に杜氏業もこなす。特に醤油造りの要になる麹造りは最前線で陣頭指揮を執る。
朝4時から大豆を蒸し、そのままスーツに着替えて海外出張に出かけることもあるという。「製造の大変さを実感している分、下手に安売りしなくなります」と話す。
実弟で工場長の真寿さんの存在も大きい。圧搾後の醤油の管理を担う。工程の上流を兄、下流を弟で分担する。最高の醤油を目指して両面から意見を戦わせることもある。「昔も今もお客様の多くが地元の人。造る醤油の9割9分が地元の食に根ざす濃口醤油です」。そう話す表情がなんと生き生きしたことか。今日も地元に愛される醤油屋を目指し、兄弟で挑む。

木桶で仕込んでいる様子はいつでも見学可能。
洋一社長の指揮のもと、麹造りが行われる。
誰でも気軽に楽しめる「醤遊王国」。
社長も関わったヤマロク醤油で製作した新桶が到着!桶にはロマンがある。醤油の完成が楽しみ!

【製品紹介】
醤油の菌が生きている醤油
吟醸純生しょうゆ…濃口醤油

無加熱・無ろ過・無調整と、搾ったままの醤油。優しい色と柔らかな甘さが特徴で、食材の繊細な風味も活きる。商品になった後も菌が活動するため、製造日を記載している。国内産有機原料を使用。

360㎖ビン ¥648(税込)
原材料 : 有機大豆、有機小麦、食塩

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有機しょうゆ…濃口醤油

国内産有機栽培大豆、国内産有機栽培小麦を使用し、木桶で発酵・熟成させた弓削多醤油の代表格。色鮮やかで香りが高く、旨味が強いので、つけ醤油にも煮物にも最適。

300㎖ビン ¥518(税込)
720㎖ビン ¥1,015(税込)
原材料 : 有機大豆、有機小麦、食塩

醤油で学ぼう!遊ぼう!食べよう!

醤油を五感で体験できるアミューズメント施設。醤油造りを見学したり、木桶で仕込んだ諸味の搾り体験ができる。飲食スペースでは、和食だけでなく、ソフトクリームやロールケーキなど醤油を使ったスイーツもいくつかあり、味わうと醤油はあらゆる料理に合うことに気づかされる。

埼玉県日高市田波目804-1
TEL 0 42 -985 – 8011
営業時間 9 :00~17:00
定休日 なし。土日祝も営業しているが、年始休業や臨時休業があるのでホームページで確認しよう。

 


弓削多醤油
本社 埼玉県坂戸市多和目475
TEL 049-286-0811 / FAX 049-286-0828
http://yugeta.com/
見学可(予約不要)


キッコーマン
日本シェアNo.1 海外へも進出

醤油業界を代表する最大手。海外にも7つの生産拠点を持ち、 100ヶ国以上で愛用されている。いつどこで造っても一定の品質に。質を上げつつもお財布に優しい価格へ。
今や世界のスタンダードとなる醤油を先陣を切って研究開発してきた。実は全国各地の蔵元もキッコーマンが長年かけて生み出した機械や技術を多かれ少なかれ使っている。大豆を蒸煮する機械で最も多くの蔵で使われているNK缶も同社が開発したもの。開封後の酸化を防ぐ密封ボトルを出したことも記憶に新しい。まさに業界の旗手。また、デルモンテのトマト製品やマンズワインなど多種多様の商品も製造・販売している。

醤油造りの一連の工程が学べる見学ツアー。
宮内庁に納める醤油を仕込む「御用蔵」。
御用蔵では木桶で仕込む。できた醤油は野田工場売店で購入可能。

【製品紹介】
特選丸大豆しょうゆ…濃口醤油

大豆の旨味を丸ごと引き出した特選醤油。

750㎖ペットボトル¥411(税込)
原材料 :大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩

キッコーマン もの知りしょうゆ館(野田工場)
千葉県野田市野田110 キッコーマン食品野田工場内
TEL 04-7123-5136(休館日以外の 9 :00~16: 00)
http://www.kikkoman.co.jp/
見学可(要予約)


ヒゲタ醤油
濃口の製法を確立 関東最古の蔵元

昭和4年築の工場。

江戸幕府成立13 年後の1616 年創業で関東最古の蔵元。元禄時代に5 代目田中玄蕃が当時の江戸の食味に合わせ、それまでの大豆主体の溜醤油から小麦の配合を多くするなど醸造法を改め、ヒゲタ濃口醤油の製法を確立。主力製品の本膳はもとより、蕎麦屋の多くに愛用されているそば膳など業務用醤油にも力を注ぐ。

限定醸造の高倍と玄蕃蔵。
醤油醸造の神が祀られた敷地内の高倍神社[見学不可]。
生産統括部の榊原明さんと富山恭秀さん。

【製品紹介】
本膳…濃口醤油

“旨味が多く塩分は低く素材の味を引き立たせる醤油を”懐石割烹・つきぢ田村の要望から開発。

200㎖密封ボトル ¥289(税込)
原材料 : 脱脂加工大豆、小麦、食塩、大豆

ヒゲタ史料館
千葉県銚子市八幡町516 番地
TEL 0479-22-5151
http://www.higeta.co.jp/
見学可(要予約)


ヤマサ醤油
勘頼りの醤油醸造に化学の力を導入

7 万坪の広大な敷地に立てられた銚子工場。

創業370 年余。醤油発祥の地である湯浅の隣町出身の濱口家が醤油の製造法を学び、醸造に適した気候の銚子でヤマサを創業。屋号の「上」は江戸幕府が最上醤油※として認めたお墨付きの印。また、勘頼りだった醤油造りを化学的に解析し、そのノウハウを医療など多面にわたって活用している。

※最上醤油はキッコーマン、キハク、ジョウジュウ、ヤマサ、ヒゲタ、ヤマジュウ、ジガミサの7銘柄。

大正4 ~ 12 年築の仕込み用のレンガ蔵。
工場限定販売の生醤油・甕[かめ]仕込み醤油。

【製品紹介】

ヤマサしょうゆ…濃口醤油
370年以上品質を磨き上げ、今や日本中で愛用されているヤマサを代表する本醸造醤油。

1ℓペットボトル ¥398(税込)
原材料 : 脱脂加工大豆、大豆、小麦、食塩、アルコール

ヤマサ醤油 工場見学センター
千葉県銚子市北小川町2570
TEL 0479-22-9809
http://yamasa.com/
見学可(要予約)


宮醤油店(屋号「タマサ」)
江戸で選ばれる「いい醤油」

桶の口を床より高くし、掃除をする時に汚れが桶に入らないようにしている。

「千葉では東京に近い土地柄か『郷土料理』という概念で醤油を造っていません。昔からとにかく江戸に売る醤油を造ってきたんです」。そう教えてくれたのは宮 敬一郎社長。国内最大の生産地で生産量の約35%を占める千葉県。昭和8年には400軒の蔵が軒を連ねたが、自社で仕込みをする蔵元はわずか
13軒に減ってしまった。そんななかでも宮醤油店が続いているのは戦前も戦後も東京の品質重視の人に選ばれてきたから。第二次大戦後の食糧難でもアミノ酸液を極力使わない醤油造りにこだわった。
蔵の中は床も桶の側面もまめに掃除をする。桶の口の高さを床よりも高くして異物が入らないようにするなど、蔵中に品質を高める工夫が散りばめられている。
「桶には長年根付いた菌がいるので、ちょっとやそっとじゃ雑菌は入りません。しかし、もし悪い菌が入ってしまったらその菌だけを取り除くのはもう無理。とにかく日頃の桶の管理が大切です。だから諸味を混ぜるとき諸味が飛び散ったら丁寧に削いでいきます。これをするとしないでは醤油の出来が全然違うんです」
代々続く地道な管理の成果は、蔵と商品に漂うすっきりとした心地の良い香りが表している。

櫂入れで諸味を混ぜる際に、飛び散らないようにするための道具。
50 石[9000ℓ]の桶が25 本並ぶ。
常に業界や日本全体を見渡しながら自社を考える宮 敬一郎社長。

【製品紹介】

コクのある超特選醤油
さしみ醤油…濃口醤油

同社の他の濃口醤油より旨味成分が高く、刺身や寿司に合う濃口醤油。赤身と白身、両方の刺身の味わいを引き立てるバランスの良さを持つ。イカとネギの炒めにもお勧め。

360㎖ビン ¥720(税込)
原材料 : 脱脂加工大豆、大豆、小麦、食塩、アルコール

 

宮醤油店
千葉県富津市佐貫247
TEL 0120-383-861 / FAX 0439-66-1615
http://www.miyashoyu.co.jp/
見学可(要予約)


笛木醤油
愛社精神に溢れる造り手たち

寛政元年創業。220 年以上の歴史を刻む。

12 代目が家業に戻って感じたのは社員の深い愛社精神。我が子を育てるように醤油に接しながら、時代に応じた挑戦も忘れない社風がある。天然醸造の減塩醤油を手掛けたのも昭和50 年代と早い時期だ。旨味の分析装置も自社で保有し、諸味の発酵状態や搾る時期に分析数値を活用するなど、伝統と挑戦が共存している。

醤油を仕込む桶は見学も可能。
12 代目の笛木正司さん[左]と品質管理室長の有田竜也さん[右]。

【製品紹介】

金笛減塩醤油…濃口醤油
旨味成分はそのままに塩分のみを半分カットして約8.7%と低いので、塩分に気をつけている人にも。

600㎖ビン ¥680(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩、アルコール

笛木醤油
埼玉県比企郡川島町上伊草660(本社工場)
TEL 049-297-0041/FAX 049-297-5978
http://www.kawagoe.com/kinbue/
見学可(要予約)


柴沼醤油醸造
茨城県で320 年余支持される

諸味蔵は清潔を保ち、風味良く造る。

茨城県土浦市は江戸時代には千葉県の野田・銚子と並んで三大産地とされていた。この地で将軍家に納める醤油を造る「御用蔵」として始まり、320年余18 代直結で蔵を育て上げてきた。木桶が並ぶ蔵見学の積極的な受け入れや海外への輸出など、若社長と同じ大学出身の農学博士が時代に即した醤油の質を追求している。

元禄元年(168 8年)創業は320 年以上の歴史を刻む。
18 代目柴沼社長[右]と農学博士の中井さん[左]

【製品紹介】
お常陸 卓上ビン…濃口醤油
原料として茨城県産大豆と小麦、「伯方の塩」以外は何も加えず、木桶で一年以上かけて熟成。

100㎖ビン ¥432(税込)
原材料 : 大豆(遺伝子組み換えでない)、小麦、食塩

柴沼醤油醸造
茨城県土浦市虫掛374
TEL 029-821-2400 / FAX 029-823-5033
http://www.shibanuma.com/
見学可(要予約)


タイヘイ
関東に根付く巨大な桶で質を追求

130 年余受け継がれた60 石の木桶がずらりと並ぶ。

高さと直径が3m ほどある60 石の木桶の所有数は117 本で関東屈指を誇る。全て現役という木桶の佇まいは壮観。木桶で仕込んだ醤油の評価は高く、生協の食材配達「生活クラブ」で40年以上も使われている。創業125 周年を期にタイヘイの経験を集約して造った限定醤油「平左衛門」は原材料や製法にこだわった人気醤油。

体感が大切と、必ず食べて麹の出来を確認する。
工場の外観。できた醤油の多くは生協に卸す。

【製品紹介】

平左衛門…濃口醤油
国産100%原料を専用の杉木桶で熟成。自然垂れの醤油に独自の火入れを施した年一度の限定醸造。

720㎖ビン ¥1,867(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

タイヘイ
千葉県匝瑳市八日市場イ2614
TEL 0479-73-1110 / FAX 0479-73-1119
http://www.taiheig.co.jp/shoyu/
見学可(要予約)


近藤醸造(屋号「キッコーゴ」)
人情味ある東京都内に残る蔵元

2012 年に工場を新設し更なる品質向上を目指す。

醤油のことになると笑顔で語り続ける近藤社長の人柄は人々の心を惹き、お店に直接買いに訪ねてくる人も多い。1ℓビンでの販売が主流で、使い終わったビンを抱えてくる客で店内は活気があり、外には回収された空ビンが積まれている。原材料は国産の大豆と小麦にこだわり、濃厚な仕込みの「五郎兵衛醤油」も人気。

工場併設の直売所の内装には多摩産材が使われている。
近藤功社長[右]と4 代目の寛さん[左]。

 

【製品紹介】
丸大豆しょうゆ…濃口醤油
東京都内で造られる丸大豆の天然醸造醤油。地元では「キッコーゴ醤油」として親しまれている。

1ℓビン ¥540(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

近藤醸造
東京都あきる野市山田733-1
TEL 042-595-1212 / FAX 042-596-4151
http://www.kondojozo.com/
見学可(要予約)


岡直三郎商店
蔵を訪ねた人々の心をつかむ

木桶が並ぶ蔵の中は静まり返り、かすかに光がさす。

220 年余の歴史ある蔵元。約100 本の木桶を現役で使い全て木桶で仕込み、年末年始以外は土日も気軽に見学できる。桶が悠然と並ぶ姿や蔵人の真摯な姿を目の当たりした訪問者から歓喜の声があがり、蔵併設の店舗スペースでは醤油ソフトクリームも人気。有機認証の大豆・小麦を原料とした「にほんいち醤油」や、消費者と共に醤油を造る「My醤油オーナー」制度にも取り組む。

煙突と瓦屋根が印象的な登録有形文化財の建物。
中には店舗が広がる。醤油ソフトクリームも人気。

【製品紹介】
日本一しょうゆ 二段仕込…再仕込み醤油
北海道産の有機大豆と小麦を使用し、できた醤油をベースにさらにもう一度仕込んだ贅沢な醤油。力強く華やかな味わい。

500㎖ビン ¥1,234(税込)
原材料 :有機大豆、有機小麦、食塩

岡直三郎商店
群馬県みどり市大間々町大間々1012
TEL 0277-72-1008 / FAX 0277-72-1016
http://www.nihonichi-shoyu.co.jp/
見学可(要予約)


有田屋
醤油自身の力で美味しい醤油へ

元々の事務所はお洒落な店舗に。醤油のお団子が名物。

天保3 年創業。「ちゃんとしたものを造り続けたい。それは、人の手がかかりながら、人の都合で造っていないもの。だって、自然じゃないって、不自然ってことでしょ!」と信念を貫く。

湯浅康毅社長。

【製品紹介】
さいしこみ醤油…再仕込み醤油

720㎖ビン ¥1,339(税込)
原材料 :大豆、小麦、食塩、アルコール

群馬県安中市安中2-4-24
TEL 027-382-2121
FAX 027-382-2516
http://www.aritaya.com/
見学可(要予約)


松本醤油商店
濃口のように使いやすい再仕込

川越の街中にある蔵には、日々見学者が訪れる。

珍しくも再仕込醤油が主力商品。人気の秘訣は色や香りが濃口のように品がありながら、味わいは濃口よりふくよか。高級スーパーや自然食品のお店でも人気商品として取り扱われる。

松本公夫社長

【製品紹介】
はつかり醤油…再仕込み醤油

1ℓペットボトル ¥767(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

埼玉県川越市仲町10-13
TEL 049-222-0432
FAX 049-226-3501
http://www.hatsukari.co.jp/
見学可(要予約)


<玄光社の本>

醤油本 醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本

著者プロフィール

高橋 万太郎&黒島 慶子


高橋 万太郎(たかはし・まんたろう)

日本全国選りすぐりの醤油を100mlで統一して販売する「職人醤油」代表。各地の醤油蔵の訪問件数は300を超える。伝統産業・地域産業の中で「つくり手」と「使い手」の「つなぎ手」となる組織を目指して日々挑み続ける。1980年群馬県前橋市出身。

 


黒島 慶子(くろしま・けいこ)

醤油とオリーブオイルのソムリエでwebとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳の時に体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけている。

 

書籍(玄光社):「醤油本


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