心に響く蔵元──醤油を巡る旅
第1回

東北の蔵元を訪ねる

日本の食卓に欠かせない醤油。
我々の生活に溶け込んだ調味料でありながら、全国にはおよそ1400にも及ぶ醤油蔵があり、それぞれが独自の商品を販売していることは実はあまり知られていません。

『醤油本 醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本』では、先人や周りの人に敬意を払い、熱心に勉強し、日々の経験の積み重ねから多くの人に愛される醤油を造る全国の蔵人達を紹介しています。

本連載の第1回では、東北の地で魅力的な醤油を作り続ける蔵元をご紹介します。

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醤油本 醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本

 

■石孫本店
社員が全てに愛着を持つことが第一

醤油造りの要となる麹を、全てこの麹蓋に入れて室(むろ)に並べ、木炭で暖めて麹菌を育てる。昼夜問わず2 時間おきに交代で管理する。

石材と木材でできた蔵に、暖かな光が差し込んでは風情ある美しさを作り上げている。景色のように溶け込んでいる道具の多くは大正時代から代々使い続けられたもの。6代目石川裕子社長は、その 一つひとつの道具を見ながら「石炭が赤く熱されるのはきれいよ」「麹を混ぜる度に小麦の粉がふわって広がるのは幻想的」「藁が高く燃え上がる雰囲気に、毎回感動するの」と、愛おしそうに話す。

効率が良いとは言えない製造法にこだわる理由

「これから麹造りなんです」と目をやる先には、お盆のような形の「麹蓋」が壁のように積み重なっていた。現代の麹造りは機械制御で一定品質を目指すのが一般的。しかし石孫本店では全量麹蓋を使い、人の目と手だけで世話をする。昼夜問わず数百枚の麹蓋の管理をするのはとにかく手がかかるもの。それでも昔のまま続ける理由を石川さんは微笑んで答えた。

「難しい事は抜きに、何度も触って『自分達がおいしく造った』という実感を持って、全ての作業に愛着が湧くことが第一です。それを求めた結果が手造り。仕事は楽しくて喜びがないと寂しいでしょ」

大正時代から使っていたレンガ造りの麦炒り機。2014 年末に修繕され、100 年近く使われている。
愛情いっぱいの石川さん。
蒸した大豆と煎った小麦をここに敷き、種麹をかけて人の手で混ぜる。小麦などがふわりと舞う姿が美しいと石川さんが教えてくれた。

一人ひとりの仕事が見えて自主性が生まれる

石孫本店に並ぶ道具はどれも手仕事用のもので今では見なくなったものばかり。設定通りに動き、均一な仕上がりの機械制御ではなく、人の手が頼りな昔ながらの道具を使うから、醤油造りとの蔵人一人ひとりの関わりが見える。

「だから互いに口を出し合い、もし自分のほうが正しければ『ほらみろ!』と言ったり笑)。そんな関係がいいですね」
また、社員は様々な局面で自発的。掃除も自分達で話し合って、自らの手で雑巾がけ。仕事の空き時間にはそら豆で味噌を造ってみたり、休憩室にあるストーブで料理をしてみたりと好きに動く。

「しかも私が休憩室に入ると、社長の分はないですよとか言われるんですよ(笑)。そんなのしばしば。日頃の仕事も私から指示はせず、自分達で相談して動いています。逆に私がどうなっているか聞いて把握していますよ。もうね、うちは若者が一番偉そうなの」

子育て上手の母親のような石川さんに見守られて生まれた醤油は、家族を想って作られた家庭料理のように心和らぐ香りがする。

数少ない煉瓦を積む職人と一緒に、長年使い続けた麦炒り機を修繕した。

【製品紹介】
昔ながら造りで産む柔らかな香り
百寿(ひゃくじゅ)…濃口醤油

石孫本店の蔵の中と同じ心和らぐ香りが広がる。秋田産の丸大豆と小麦を使い、麦は石炭で熱して煎って仕込む。材料も製法も昔ながらにこだわり造り上げた一本。

300㎖ビン ¥453(税込)
1ℓペットボトル ¥1,028(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

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醤油感覚で使える味噌の上澄み
みそたまり…加工調味料

長期熟成の味噌の上澄みをさらし袋に吊り下げ、自然に滴り落ちた「旨味」エキス。澄んだ琥珀色とコクが特徴。豚の生姜焼きやオリーブオイルとあえてソースに。

300㎖ビン ¥679(税込)
1ℓペットボトル ¥1,543(税込)
原材料:米、大豆、食塩

石孫本店
秋田県湯沢市岩崎字岩崎162
TEL 0183-73-2901 / FAX 0183-73-8131
http://ishimago.main.jp/
見学可(要予約)


■八木澤商店(屋号「ヤマセン醤油」)
地元と一体となり、地域の共に成長

200 年余の歴史を刻む震災前の蔵。木桶で昔ながらの造りをしていた。

陸前高田で200年以上に亘り醤油業を営む八木澤商店。2011年の東日本大震災で町も蔵も丸ごと流されてしまっても、震災当日に「従業員は解雇しない! 絶対に蔵は復活させる」と途方に暮れる従業員達に約束した。本社を陸前高田に残して、翌年には少し内陸に入った一関市に蔵を建てて製造を開始。一人の従業員も解雇せず、見事2013年から醤油の出荷を再開させた。

地元の人と連携して育てた大豆が高々と積み上げられている。
震災からわずか1 年で新蔵を築き、製造を開始した。

そんな河野社長は醤油造りの傍ら、人口流出が続く陸前高田に人を根付かせる活動に力を注いできた。震災前から地元の小学生と大豆を栽培して醤油を仕込んでいる。

「子供達が地域の大人の働く背中を見る。その視線や『かっこいい!』という憧れが、大人の頑張る原動力になるんです。子供たちが成長した時に体験した日々を思い出して故郷に戻ってくる。このサイクルを作ることが地域にとって重要なんです」

震災直後には地元企業の経営者らと「なつかしい未来創造株式会社」という法人を立ち上げた。これは起業家志望の学生をインターンシップとして受け入れ、新たなビジネスプランを考えさせる取り組みだ。「いつか再び陸前高田で醤油を仕込みます」。未来を見つめる河野さんの目は力強い。

どんな壁も先陣切って突破し、周りを盛り立てる河野通洋社長。

【製品紹介】
震災前の「諸味」から搾った醤油
奇跡の醤…濃口醤油

いくつもの偶然が重なり奇跡的に震災前の諸味が見つかる。その奇跡の諸味から搾った醤油。震災後、東北の夏を2度経過させ、ゆっくりじっくり熟成させた。

150㎖ビン ¥540(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

八木澤商店(屋号「ヤマセン醤油」)
岩手県陸前高田市矢作町字諏訪41
TEL 0192-55-3261 / FAX 0192-55-3262
http://www.yagisawa-s.co.jp/
見学可(要予約


■佐々長醸造
ふるさとの自然を活かす

自然に囲まれた土地で岩手県産の大豆、小麦、米を原料に水にもこだわる。早池峰山麓一帯の雪解け水が地下に浸透し長い年月をかけて、ろ過されたものを仕込み水に使う。

明治39年創業。仕込水の早池峰霊水の販売も手掛ける。
大自然に囲まれたロケーション。
醤油が仕込まれている桶。

【製品紹介】
生醤油…濃口醤油

500㎖ビン ¥918(税込)
原材料 : 大豆、小麦、米、食塩

佐々長(ささちょう)醸造
岩手県花巻市東和町土沢5-417
TEL 0198-42-2311
FAX 0198-42-2204
http://sasachou.co.jp/
見学可(要予約)


■小玉醸造
秋田を代表する醸造所の1つ

味噌醤油と日本酒の醸造元。ヤマキウ味噌は秋田県一の生産量を誇り、清酒「太平山」は秋田を代表する銘酒。地元の秋田杉で作った木桶が並ぶ姿は壮観で見学も可能。

秋田杉で作った25 石〜45 石の桶が72 本も並ぶ。
小玉 真一郎社長。

【製品紹介】
ヤマキウ杉桶 仕込み三年醤油…濃口醤油

720㎖ビン ¥1,080(税込)
原材料 :小麦、食塩、脱脂加工大豆、大豆、アルコール

小玉醸造
秋田県潟上市飯田川飯塚字飯塚34-1
TEL 018-877-2100
FAX 018-877-2104
http://kodamajozo.co.jp/
見学可(予約不要)


■丸十大屋
郷土料理に必須の甘口だし醤油

地元で愛されるだし醤油は山形県名物の芋煮に欠かせない。スーパーにも1.8ℓがずらりと並ぶ。

天保15 年創業。
ISO-9001・22000 認証、しょうゆJAS-A システム認定工場。第三者評価による標準化で品質も商品開発もレベルアップを目指す。

【製品紹介】
味マルジュウ…加工調味料

1.8ℓペットボトル ¥1,360(税込)
原材料:しょうゆ、糖類(砂糖、ぶどう糖)、食塩、宗田かつお削りぶし、さば削りぶし、煮干、かつお削りぶし、アルコール、調味料(アミノ酸等)、カラメル色素、甘味料(甘草)、香辛料(原材料の一部に大豆、小麦を含む)

丸十大屋
山形県山形市十日町3-10-1
TEL 023-632-1122
FAX 023-623-5815
http://www.marujyu.com/
見学可(要予約)


■玉鈴醤油
福島で愛される蔵元

「地元に愛されるNo.1 に」を掲げ、変化する消費者の好みを察知してゆっくり商品ラインナップを拡充する。

人気の「かけじょうゆ」がアイコンとなる本社。
諸味はじっくり時間をかけて熟成させる。
鈴木利春会長[左]と 利幸社長[右]。

【製品紹介】
かけじょうゆ…加工調味料

500㎖ペットボトル ¥459(税込)
原材料:しょうゆ(脱脂加工大豆、小麦、食塩)、糖類(砂糖、異性化糖)、風味原料(かつおぶし)、米発酵調味料、こんぶエキス、アルコール、調味料(アミノ酸等)、甘味料(甘草、ステビア)、カラメル色素、ビタミンB1

玉鈴醤油
福島県伊達市保原町泉町23
TEL 024-576-2355
FAX 024-575-0928
http://tamasuzu.co.jp/
見学可(要予約)

 


<玄光社の本>

醤油本 醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本

著者プロフィール

高橋 万太郎&黒島 慶子


高橋 万太郎(たかはし・まんたろう)

日本全国選りすぐりの醤油を100mlで統一して販売する「職人醤油」代表。各地の醤油蔵の訪問件数は300を超える。伝統産業・地域産業の中で「つくり手」と「使い手」の「つなぎ手」となる組織を目指して日々挑み続ける。1980年群馬県前橋市出身。

 


黒島 慶子(くろしま・けいこ)

醤油とオリーブオイルのソムリエでwebとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳の時に体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけている。

 

書籍(玄光社):「醤油本

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