キヤノン RFレンズ × photographer 荒木勇人「女性ポートレートで新次元の描写性能を堪能する」

“キヤノンのミラーレスカメラ「EOS Rシステム」用の交換レンズ「RF70-200mm F2.8 L IS USM」と「RF85mm F1.2 L USM DS」がついに発売された。卓越した描写性能を備え“新時代のポートレートレンズ”とも言われるこのレンズの実力を確かめるべく、プロフォトグラファー荒木勇人氏による撮り下ろしを敢行! 2019年6月にリリースされた「RF85mm F1.2 L USM」を加えたRFレンズ3本の実写レビューをお届けする。”

この記事は「フォトテクニックデジタル2020年1月号」より転載しております

フォトテクニックデジタル2020年1月号

2018年10月に誕生したキヤノンのフルサイズミラーレスカメラ「EOS R」システム。専用のRFレンズは描写性能や操作性、堅牢性などにおいて最高水準を誇る「L(Luxury)レンズ」からラインナップの拡充が進んでいる。この冬発売されたのが大口径望遠ズームレンズのRF70-200mm F2.8 L IS USMと、ポートレート派が注目するRF85mm F1.2 L USM DSだ。普段はキヤノンEOS-1D X Mark IIにEF70-200mm F2.8L IS III USMを装着してぶんぶん振り回し男性を撮ることが多い僕だが、どちらも気になっていたレンズだ。

本特集では2019年6月に発売されたRF85mm F1.2 L USMを加えた3本のレンズで、一人のモデルで異なる4人の女性を表現した。その撮影をとおして感じたRFレンズの描写性能について語っていきたい。

 

キヤノン RF70-200mm F2.8 L IS USM 焦点距離:70mm
キヤノン EOS R f2.8 1/2500秒 ISO800
今回の撮影ではスタイリストやメイクスタッフ協力のもと、衣装ごとにがらりとイメージを変えた。自分としては「4人の女性」を撮ったという感じ。この衣装のパートは“強く生きる女性の美しさ”がコンセプトだった。

 

キヤノン RF85mm F1.2 L USM
キヤノン EOS R f2 1/1000秒 ISO160
アップはとにかく美しく撮りたいと思いRF85mm F1.2 L USMを選択。優しいまなざしを見せたくてf2まで絞って奥側の目をぼかしすぎないようにしている。f2まで絞っても硬すぎることはなく、窓越しの光が直接当たる肌の質感描写も良好だ。

 

コンパクトなサイズで小回りがきく 硬くなりすぎない描写は女性ポートレートで使いたい

キヤノン RF70-200mm F2.8 L IS USM

キヤノン RF70-200mm F2.8 L IS USM

35mmフルサイズ用としてクラス世界最短※・最軽量※の大口径望遠ズーム

※35mmフルサイズの撮像素子を搭載したレンズ交換式カメラ(一眼レフカメラ・ミラーレスカメラ)用の焦点距離70-200mm F2.8の交換レンズとして。2019年10月24日発表時点。キヤノン調べ。

まずはRF70-200mm F2.8 L IS USM。実は僕にとって70-200mmが“標準レンズ”で、愛用しているEF70-200mm F2.8 L IS III USMはなくてはならない相棒。この一本さえあればいくらでもバリエーションが撮れるくらい、70-200mmの使いこなしには自信がある。

新しいRF70-200mm F2.8 L IS USMは全長が約146mmと短くコンパクトになり、ズーム全域で最短撮影距離約70cmを実現。手ブレ補正効果も最大5段分に向上し、機動性がさらによくなった。全身からクローズアップまで、感じた瞬間、感じたままに撮ることができるのが70-200mmのいいところなんだけど、望遠ズームレンズともなると寄り引きの変化をついズーム操作に頼ってしまいがち。でも、このレンズは足を使って撮らなきゃもったいない!

僕はEF70-200mmの描写を、どちらかといえば硬質なものと捉えているため、男性ポートレートには最適でも女性の撮影にはなかなか持ち出すことはなかった。しかしRF70-200mm F2.8 L IS USMは、ピント面はとてもシャープだけれど決してカリカリしたものではないし、コントラストも適度。女性のポートレートにも積極的に使っていきたいと思わせてくれた。

キヤノン RF70-200mm F2.8 L IS USM 焦点距離:147mm
キヤノンEOS R f2.8 1/2500秒 ISO800
上はこの女性のストーリーが見えてくるワンカット。あえてAFが迷いやすい壁やガラス戸(の線)を入れてフレーミングした。最新のファームアップで検出精度が向上したEOS Rの「瞳AF」は画面内で顔が小さくともしっかり瞳を捉えて、迷うことなく追従してくれた。

 

キヤノン RF85mm F1.2 L USM

なめらかにぼけていくボケ像が秀逸 空間を活かした絵づくりがしたくなる85mm

キヤノン RF85mm F1.2 L USM

シャープな描写と美しいボケ味を両立

RF85mm F1.2 L USMのレンズ構成

レンズ構成は非球面レンズ1枚、UDレンズ1枚を含む9群13枚。キヤノン独自開発のUDレンズやBRレンズ(BR〈Blue Spectrum Refractive〉光学素子を凸・凹各1枚のガラスレンズで挟んで密着させた複合レンズ)が色収差を抑制し鮮明な描写に大きく貢献している。

 

キヤノン RF85mm F1.2 L USM
キヤノン EOS R f1.6 1/3200秒 ISO100
シーンは替わって二人目の女性。外の世界へ行ってみたいけど、でも…と逡巡する女性をイメージしながら撮った。上はRF85mmF1.2 L USMで近距離から撮影。2人目の女性のイメージをRF85mmF1.2 L USMで近距離から撮影

 

キヤノン RF70-200mm F2.8 L IS USM 焦点距離:147mm
キヤノン EOS R f2.8 1/320秒 ISO160
このカットは、RF70-200mm F2.8 L IS USMで5mほど離れて、そっと見守るような気持ちで撮影している。

 

キヤノン RF85mm F1.2 L USM
キヤノン EOS R f1.8 1/200秒 ISO100
少しあどけなさを残す女性の、目で何かを訴えようとしている表情が印象的だ。あえて茶色の壁を選び奥にはライトスタンドを配置して空間を演出。RF85mm F1.2 L USMのぼけ方に魅了されたシーンで、空間を立体的に、モデルをしっとりと見せてくれた。

RF85mm F1.2 L USM には、フレアやゴーストを低減するASC(Air Sphere Coating)に加えてBRレンズという、大口径レンズに出やすい色収差を補正するキヤノン独自の複合レンズが採用されていることもあって、逆光による撮影を試みた。

画面にハレーションが広がるものの、瞳に合わせたピントには芯がある。コントラストが強いシーンも、色のにじみが発生しにくいので、こうしてモノクロにしても描写が鮮明だ。

キヤノン RF85mm F1.2 L USM
キヤノン EOS R f2 1/500秒 ISO500
あえてハレーションを入れてみた。光がモデルを包み込み、まるで映画のワンシーンを見るよう。この日、「85mm の描写ってこんなにドラマチックだったっけ?!」と何度思ったことだろう。逆光でもピントの芯はしっかりと掴んでいて、AFの優秀さを改めて実感した。

写真を見返しながら思ったのは、このレンズは空間を活かした作画によくはまるということ。たとえ人物の背景に何もなくても、空気の層をもちゃんと描写してくれているように感じられる。それだけぼけ方がなめらかだということだと思う。

一昔前は、開放F1.2のレンズはピントの歩留まりが悪くポートレートの現場ではなかなか使おうとは思わなかったが、今は「瞳AF」という、強力に撮影をサポートしてくれる機能がある。開放からどんどん使っていきたいレンズであることは間違いない。

キヤノン RF85mm F1.2 L USM
キヤノン EOS R f1.6 1/8000秒 ISO500
撮影時の状況。コントラストの出方を見たくて作った状況。15時すぎ、窓から差し込む光を直接顔に受けている。ハイライトからシャドウへのグラデーションがとても自然だ。今回は撮影時にピクチャースタイルでモノクロ化。撮って出ししてもいいくらい良好な仕上がりだった。

 

キヤノン RF85mm F1.2 L USM DS

DSコーティングでボケ像はさらに柔らかく被写体を印象的に際立たせる

キヤノン RF85mm F1.2 L USM DS

ボケの輪郭を柔らかくなめらかにぼかす

RF85mm F1.2 L USM DSのレンズ構成

レンズ構成はRF85mm F1.2 L USMと同じ。DS(Defocus Smoothing)コーティングはレンズ中心部から周辺に向かって徐々に透過率を下げながら光を遮る効果を持ち、RF85mm F1.2 LUSM DSでは2面にこれを施している。写真はDSコーティングをしたレンズ。
キヤノン RF85mm F1.2 L USM DS
キヤノン EOS R f1.2 1/125秒 ISO2000
4人目の女性はハリウッドのスター女優風にかっこよく。あえて背景をグレーやシルバーでまとめ、モデルの正面の開口部から入る、夕暮れの光のみで撮影している。背景のシルバーがギラつかず、上品に見える。

RF85mm F1.2 L USMレンズの光学計を踏襲し、ボケの輪郭を柔らかくして、よりなめらかなボケ描写を実現するDSコーティングを施したのがこのRF85mm F1.2 L USM DSだ。RF85mm F1.2 L USMのボケ自体、好感の持てるものだったけれど、玉ボケが出るような状況だとその効果がわかりやすい。

ポートレートの場合、くっきりとした玉ボケが顔の近くに出てしまうと、「うるさいな」と思ってしまうこともあるので、こういうコンセプトのレンズは大賛成だ。大きくぼけた背景に玉ボケは溶けるように馴染んでいくので目立ちにくい。より柔らかなボケが表現できるため、映画的な絵づくりもできそうだ。DSコーティングによって絞り開放時の明るさが1.3段分ほど暗くなるが、実用上はさほど気にならない。

キヤノン RF85mm F1.2 L USM DS
キヤノン EOS R f1.2 1/400秒 ISO1250
玉ボケの描写を見たくて暮れなずむ町を背景に撮影した。玉ボケは縁取りがなく周囲にすっと溶けていく。日中のシーンでも使ったが、RF85mm F1.2 L USM同様、肌の質感は精細に描写する。

RF85mm F1.2 L USM DSを使ってみると、このレンズから「背景は俺がうまく処理する。あとはお前がいい顔撮れよ」と言われているような気がしてならないのは僕だけだろうか。でも、こういうレンズとの出合いは大事にしたいもの。今までとは違うアプローチを模索したり、新しい表現方法やテーマにチャレンジするきっかけになると思うからだ。

 

RF70-200mm F2.8 L IS USM
発売中 /
オープン価格(キヤノンオンラインショップ参考価格:310,000円〈税抜〉)
画角(対角線)…34°~12°
レンズ構成…13群17枚
絞り羽根枚数…9枚(円形絞り)
最小絞り…32
最短撮影距離…0.7m
最大撮影倍率…0.23倍(200mm時)
フィルター径… 77mm
最大径×長さ…約Φ89.9×146.0mm
質量…約1,070g(三脚座含まず/三脚座質量 約130g)
手ブレ補正効果(CIPAガイドライン準拠)…5段分(CIPAガイドライン準拠。焦点距離200mm、EOS R使用時)
対応アクセサリー…レンズキャップE-77 II(同梱)、レンズフードET-83F(WIII)(同梱)、レンズケースLP1424(同梱)
キヤノン RF70-200mm F2.8 L IS USM
https://cweb.canon.jp/eos/rf/lineup/rf70-200-f28l/
RF85mm F1.2 L USM
発売中 /
オープン価格(キヤノンオンラインショップ参考価格:332,500円〈税抜〉)
画角(対角線)… 28° 30′
レンズ構成…9群13枚
最小絞り…16
絞り羽根枚数…9枚(円形絞り)
最短撮影距離…0.85m
最大撮影倍率…0.12 倍
フィルター径…82mm
最大径×長さ…約Φ103.2×117.3mm
質量…約1,195g
対応アクセサリー…レンズキャップE-82 II(同梱)、レンズフードET-89(同梱)、レンズポーチLP1424(同梱)
キヤノン RF85mm F1.2 L USM
https://cweb.canon.jp/eos/rf/lineup/rf85-f12l/
RF85mm F1.2 L USM DS
発売中 /
オープン価格(キヤノンオンラインショップ参考価格:375,000円〈税抜〉)画角(対角線)…28° 30′
レンズ構成…9群13枚
最小絞り…16
絞り羽根枚数…9枚(円形絞り)
最短撮影距離…0.85m
最大撮影倍率…0.12倍
フィルター径…82mm
最大径×長さ…約Φ103.2×117.3mm
質量…約1,195g
対応アクセサリー…レンズキャップE-82 II(同梱)、レンズフードET-89(同梱)、レンズポーチLP1424(同梱)
キヤノン RF85mm F1.2 L USM DS
https://cweb.canon.jp/eos/rf/lineup/rf85-f12l-ds/

 


<プロフィール>


荒木 勇人(あらき はやと)
東京都出身。2009 年より写真家として活動を開始。これまでに約400冊以上の雑誌カバーを、また約1,500人以上の人物を撮影している。男性ポートレートを得意とし、活動10周年作品として、1対1の撮影バトルで男性を撮り下ろした「SESSION」を写真集、写真展で発表。
https://arakihayato.com/


松岡那夏(まつおか なか)
1994年8月15日生まれ、大阪府出身。特技はクラリネットと料理で、管理栄養士と調理師免許を持つ。2018年に芸能界デビューし、女優、モデルとして活動。現在、AbemaTV人気恋愛リアリティショー『こじらせの森の美女』に出演中。TRUSTAR 所属。
Twitter @naka_matsuoka
instagram @naka_matsuoka


フォトテクニックデジタル2020年1月号

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