浮世絵の一種として広く知られる「春画」は、浮世絵の中でも特に性風俗を題材とした絵のこと。印刷技術の発展で普及・流行した江戸時代においても多くの人気絵師に描かれた作品の裡には、時代が下って現在にも通じる表現、その原型とも呼ぶべき工夫が凝らされていました。
「春画コレクション 絵師が描くエロスとユーモア」では、春画が描かれた時代背景から、作品を鑑賞する際に押さえておきたいポイント、シチュエーションやテーマ、「笑い絵」としての見方など、春画が持つ様々な側面を解説。「江戸時代のエッチな本」というだけで片付けるにはあまりにもったいない、春画の面白さを知ることができます。
本記事ではPART3「同性」、PART5「動物&怪物」より、代表的な春画を抜粋して紹介します。
えっ!? ○○コがヒッチャリヒッチャリ
葛飾北斎「津満嘉佐根」(つまがさね、1818~30年)
葛飾北斎の名作といえる春画。「おんな島」生まれの2人の女性が仲よくむつみ合っているという春画……なのですが、プレイの仕方がとても個性的。なんと、性具として使っているのは、あの“ナマコ”なのです。独特の触感がたまらないらしく、書入れのほうにも「びちゃびちゃ、ヒッチャリヒッチャリ」などの擬音がたっぷりです。のちの名作『冨岳三十六景 神奈川沖浪裏』へとつながる、背景の波の描写にも注目してみましょう。
鳥居清長「あづまかがみ」(発行年不明)
美人画で知られる鳥居清長の作品ですが、ここでは右の男女ではなく、衝立の奥にいる男2人に注目しましょう。定番通り僧侶と若衆の組み合わせです。若衆はまだ経験が浅いようで、僧侶に「痛くともちっとの間じゃ」といわれて「和尚様の人殺し。裂けます」などと返しています。ただし、それも営業トークなのかもしれませんね。
西村中和「京都肉筆春画巻」(1800年頃)
僧侶と若衆の交合シーンです。上方にも陰間(かげま)はおり、京の宮川町、大坂の道頓堀などが有名でした。ただし、本作では読書中の若者を無理やり襲っているように見えるので、ひょっとすると素人なのかもしれません。描かれている本は儒教の『中庸』(ちゅうよう)ですが、僧侶の性欲に中庸はなかったようです。
月岡雪山(?)「欠題上方艶本」(けつだいかみがたえほん、発行年不明)
こちらは僧侶でなく一般庶民と若衆との交合図。書入れのほうに「僧俗まさに尻のために金銀財宝を失う」とあり、若衆が、僧侶にも一般人にも大人気だったことが記されています。頭につけている紫色の「野郎帽子」は歌舞伎の女形が、剃った前髪を隠すためにかぶったもの。初々しい表情と男根の描かれ方に注目しましょう。
奥村政信「伊勢物語俳諧まめ男/夢想頭巾」(延享・寛延期。1744~1751年の間)
本作は『伊勢物語』のパロディで、美男の業平豆男(なりひらまめおとこ)がはじめて男と寝るという場面です。さて、「若衆と女性は区別がつきづらい」のですが、実は簡単に見分ける方法もあります。頭頂部が剃られている(白くなっている)のは基本若衆髷(わかしゅまげ)なので、男性です(この図では下側の人物)。ほかの図も見直してみてはいかが?
葛飾北斎「喜能会之故真通」(きのえのこまつ、1814年)
北斎の名作『喜能会之故真通』の中でも有名な一図。タコが海女を襲うという設定自体は、北斎のオリジナルではありませんが、タコの赤い体と緑系の岩、そして海女の白い肌がなすコントラストが素敵です。大タコは前からこの海女を狙っていたらしく、「いいボボ(女陰)だ」などといっています。ねっとりと吸いつく口元や、乳首にまで絡んだ触手などの描写が細かく、見事のひと言。「次は俺が」と小ダコがやる気満々なのも笑いを誘います。