被写体としての「空」は、誰もが見上げればいつでも目にすることができ、その時々で様々な表情を見せてくれる、身近で手軽な存在です。しかし誰が撮っても「それなり」の絵になる一方で、写真映像作品として「それなり以上」を目指すのであれば、技術を磨き、機材を整えるだけでは足りず、さらにひと工夫もふた工夫も必要になる奥深さがあるジャンルでもあります。
「四季の空 撮り方レシピブック」では、日本の四季に見られる気象現象を中心として、「空」にまつわる様々な作例と、撮り方のコツを解説しています。また、機材選びやカメラ設定についても言及しており、様々な条件がありうる気象撮影における勘所を掴むのにも役立つ一冊となっています。
本記事では「四季の空を撮る・不思議な空」の章より、「浮島現象」の作例を抜粋して紹介します。
浮島現象
浮島現象は下位蜃気楼の一例で、冬になり空気が冷たくなると全国的に頻繁に見られる。朝の時間帯が最もわかりやすく、じっくりと観察できる。
下方に反転する船と遠くの浮島
船と遠方の岬が反転して、海面から離れて浮かんで見える光景を撮影した。下位蜃気楼は浮島現象になるとその原理がわかりやすい。
海岸から、遠方の島や岬を眺めた時にそれらが海面から離れて見え、まるで宙に浮いているように見えることから浮島現象と呼ばれる。下位蜃気楼の一例で、海面にあるやや温かい空気の上に、冬の冷たい空気が入ると、その境界付近で急激な温度変化が起こり光が屈折する。島や岬の上空部分も反転するため、まるで宙に浮かんでいるように見えるわけだ。12月前後の、水がまだやや温かい海や湖で頻繁に見られる。20~30km程度離れた場所で、朝に見られることが多い。
下方に反転して浮いた岬と遠方の景色
近くに見える岬と、遠方の景色が浮いて見えた。工場の煙突は40~50km先にあるが、地球が丸いために、その先端は水平線の下に隠れてしまった。
空気が澄んでおり、風景がクリアに見える場所がオススメだ。島や岬のほかに、海上を通過する船などを構図に入れるとよりわかりやすくなる。撮影では、望遠レンズや超望遠レンズを使用し、カメラを三脚に載せて水平線がまっすぐになるように撮影したい。上位蜃気楼よりも規模は小さいことが多いが、それほど急激に変化することはないので、じっくりと観察し撮影することができる。だるま太陽と呼ばれる、水平線上で朝日や夕日が歪んで見える現象も同じ原理で現れる。
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