被写体としての「空」は、誰もが見上げればいつでも目にすることができ、その時々で様々な表情を見せてくれる、身近で手軽な存在です。しかし誰が撮っても「それなり」の絵になる一方で、写真映像作品として「それなり以上」を目指すのであれば、技術を磨き、機材を整えるだけでは足りず、さらにひと工夫もふた工夫も必要になる奥深さがあるジャンルでもあります。
「四季の空 撮り方レシピブック」では、日本の四季に見られる気象現象を中心として、「空」にまつわる様々な作例と、撮り方のコツを解説しています。また、機材選びやカメラ設定についても言及しており、様々な条件がありうる気象撮影における勘所を掴むのにも役立つ一冊となっています。
本記事では「四季の空を撮る・冬の空」の章より、「けあらし」の作例を抜粋して紹介します。
けあらし
けあらし寒い朝に海などから発生した水蒸気が、霧状になって広がる光景だ。朝日にあたって輝く姿が美しいが、短時間で終わってしまう。
朝日とけあらし
朝日に対して手前のけあらしを逆光で撮影。前方に岩があるため写真にメリハリが出た。押し寄せる波しぶきには注意したい。
けあらしは気嵐とも書き、秋の終わりから冬のはじめに大陸から冷たい空気がやってくると、水面から湯気のような霧が一時的に発生する現象だ。日本各地で冬の風物詩として知られている。海や湖、川などの水がまだ温かく、冷たい空気との温度差が大きいと現れやすい。朝早く見られる現象であり、太陽の光が水面を温めると、すぐに終わってしまうことが多いので、見ることができるチャンスは意外と少ない。風が弱く冷え込んだ晴れた早朝が狙い目だ。
岩場のけあらし
岩場では、砂浜の海水から発生するけあらしの存在がわかりやすい。シャッター速度を上げて岩場にやってくる波も構図に取り入れた。
けあらしが現れそうな時は、太陽が昇る前から現地へ行き、日の出のタイミングで太陽がよく見える場所から撮影する。逆光で撮影すると霧が輝くので、けあらしの雰囲気を表現しやすい。また低い角度から撮影すると、けあらしが何層にも重なるので、より幻想的な光景となる。冬の朝の寒さは厳しく、太陽はとても眩しいので、撮影するのは意外と大変だ。液晶ファインダーを使ってフレーミングしよう。段階的に露出を変えて、複数枚の写真を撮影するといい。
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