「身近なものを作品にする」大村祐里子さんの撮り方辞典、第9回のテーマは「コップとカップ」。いずれも飲み物を口にするときに必ず使う、あまりにも日常的な道具ですが、それだけに、写真に写す際には明確な意図をもたないと、凡庸な写真になってしまいます。
「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」が書籍にまとまりました。本連載で取り扱ったテーマに加えて、新たに「クレーン」「炭酸」「排水溝」など合計100テーマを収録。日常の中で目にする、しかし被写体としてはあまり気に留めない様々なモノたちを記録する一つの視点を提案します。
撮影のポイント
1. 「何が気になったのか」を明確にしてから撮影する。
2. 画面全体を暖色・寒色どちらに寄せるか考えて撮る。
もつ鍋屋さんに行った時、コップに注がれた梅酒ロックが運ばれてきました。その水面が、黄色い白熱灯に照らされて、ぬるりと妖しく光る感じが気になったので思わずシャッターを切りました。水面以外の露出を思いっきりアンダーにして、光る水面だけを強調しました。
何が気になったのかを大切に
コップとカップの写真を情感豊かに仕上げるには、それらの「何が気になったのか」を明確にしてから撮影することが大切です。ただ撮影してしまうと、どうしても無機質な写真になりがちです。暗い場所で「冷たそうに光る」コップが気になったのであれば、全体的な露出はアンダーにして、水面のテカリを強調しましょう。また、コップの「圧倒的な透明感」が気になったのであれば、自分なりに、コップの透明感が伝わるような表現方法を考えましょう。
モノクロも効果的
コップやカップは動かないので、それらに表情をつけたい場合、演出はすべてこちらで行う必要があります。わたしが最も大切にしているのは「色み」です。色次第で、温かさ、冷たさ、質感などの伝わり方が異なります。画面全体を暖色・寒色どちらに寄せるか考えて撮りましょう。コップとカップの撮影で、意外と使えるのが「モノクロ」です。あえて色みをなくすことで、光と影がより強調され、コップの圧倒的な透明感を演出することができます。
日中、カフェのオープンテラスで水の入ったコップを撮影しました。この光景を見た時、ガラスに入った水の圧倒的な透明感、そしてテーブルに反射したコップと木漏れ日が美しいと感じました。印象的だったのは色ではなく「光と影」だったので、その感動をシンプルに表現したいと思い、モノクロフィルムを詰めてシャッターを切りました。光と影だけを強調することで表現できるものもあると思っています。
柔らかい光が差し込むカフェの窓際で、カフェラテをいただいていました。その時、カップから昇り立つ湯気がなんとも優しい雰囲気を醸し出していたので、シャッターを切りました。全体的に青っぽい部屋でしたが、冷たさではなく温かさを感じる青だと思ったので、色みをシアン系に寄せてやわらかさを演出しました。空間の穏やかさも見せたかったので、カップだけに寄るのではなく、部屋の感じもわかる程度に離れて撮影しました。
パーティーにて、ぶどうジュースの注がれたコップが、グリッドの入ったテーブルクロスの上に点々と置いてあり、その様子がボードゲームの駒のようだなと感じたので、そこでシャッターを切りました。「ボードゲームの駒っぽさ」は、横から眺めるのではなく、俯瞰で捉えた方が伝わると思ったので、真上から撮影をしました。コップが複数並んでいる時は、全体的な視点でその配置を捉えて、色や形の面白さを表現してみるのも一興かと思います。