心に響く蔵元──醤油を巡る旅
第5回

関西の蔵元を訪ねる

『醤油本 醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本』では、先人や周りの人に敬意を払い、熱心に勉強し、日々の経験の積み重ねから多くの人に愛される醤油を造る全国の蔵人達を紹介しています。

本連載の第5回では、関西地方の個性的で魅力的な蔵元7軒をご紹介します。

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■末廣醤油
天然醸造の淡口醤油にこだわる

色の濃化を極力抑えるためFRP を使い、四季の温度変化を活かして発酵させる。

淡口醤油の一番の条件は「淡い色」であること。末廣醤油は四季の気温の中でゆっくりと仕込む「天然醸造」でこの淡い色を出す全国的にも数少ない蔵元だ。醤油は発酵熟成が進む程に色が濃くなる特性があり、多くの淡口は温度を人工的にコントロールできるタンクで仕込まれる。

「温度調整するのでも水を加えて薄めるのでもなく、種麹の種類、ろ過や火入れ、仕込み時期や醸造期間で淡い色を出そうと、あらゆることを繰り返し研究して改良してきました」と末廣卓也社長は振り返る。きっかけは、昭和40年頃に無添加の醤油を造ってほしいと依頼されたこと。依頼主が国産大豆や小麦を持ち込んだものの、当時は脱脂加工大豆を原料に添加物を加える一般的な造り。自然食品を大切にする想いに沿うよう一から淡口醤油の製造を見直し、難題と向き合う日々となる。この積み重ねによって今では天然醸造の淡い色の醤油を手掛ける数少ない蔵元として厚い信頼が寄せられ、多くの顧客に囲まれる蔵元となった。

最近は「淡口醤油の良さは食材の色と香りと味を引き立てること」という考えを軸に、塩味を和らげたかけ醤油向きの「淡紫」など、長年で得た気づきと技術を基に世にない淡口醤油も生み出している。

播磨の城下町に佇む。
淡い色を出すべく長年研究されてきた熟成中の諸味。
木村俊一工場長[左]と末廣卓也社長[右]

【製品紹介】
「淡口の本道」を貫く龍野本造り
うすくちしょうゆ…淡口醤油
国産大豆と小麦を100%使用し、天然醸造で淡く造り上げた。日本経済新聞日経プラスワン、「お気に入りの醤油」(2005 年1 月22 日)でランキング2位に選出されている。

1ℓビン ¥810(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩、アルコール

末廣醤油
兵庫県たつの市龍野町門の外13
TEL 0791-62-0005 / FAX 0791-62-4151
http://www.suehiro-s.co.jp/
見学可(要予約)


■ヒガシマル醬油
淡口醤油メーカー最大手

諸味タンクの攪拌風景。

「いいお出汁ですね」関西風のうどんつゆを口にした人はこう感想を述べる。出汁にスポットがあたるのは、淡口醤油が素材の魅力を引き出して自身は裏方に徹しているからこそ。淡口醤油発祥の龍野(現・たつの市)でトップメーカーとして淡口醤油を牽引する。創業から400年以上、精進料理や懐石料理、全国の和食料理人はもちろん一般消費者も愛用する。調味料の味が変わることはプロにとっては死活問題。『変えないこと』にこだわり、和食を支えてきた。

製造部の高橋和宏さんは研究部門から製造部門に移った時の光景が忘れられないという。「充填される醤油に光が差してワインレッドに輝いていたんです」。業界用語で赤橙色。充分な旨味と香りを醸し出す上で色を淡くするのは容易ではない。原料処理から充填までの工程で少しでも色を淡く仕上げることができないか考え続けていて、社風はまじめと評される事が多い。「細かい改善を積み重ねていますから、自然とそうなりますよね」と高橋さんは笑う。『産地から食卓まで』にこだわり、地元契約農家と淡口醤油に最適な原材料作りに挑み、業界で唯一農商工連携88選に認定された。小麦は、今後も農研機構と共同研究を進めていく予定になっている。

地元契約農家が小麦を収穫する光景。
醤油の諸味を発酵熟成させるタンク。外側も綺麗に保っている。
「特選丸大豆うすくちしょうゆ」の充填ライン。

【製品紹介】
素材の色と味が生きる
特選丸大豆
うすくちしょうゆ
…淡口醤油
国産の大豆・小麦・米を醸造し、まろやかでコクのある淡口醤油。同社のレギュラータイプより20%色を抑えたヒガシマルの技が光る商品。

750㎖ペットボトル ¥410(税込)
原材料:大豆、食塩、米、小麦、米発酵、調味料、小麦たんぱく

ヒガシマル醬油
兵庫県たつの市龍野町富永100-3
TEL 0791-63-4567 / FAX 0791-63-4585
http://www.higashimaru.co.jp/
見学可(要予約)


■藤野醤油
主婦の視線から生まれた醤油

熊野古道への参拝者の目を引く趣ある醤油蔵。

「どんなに忙しくてもご飯はしっかり作ります」と那須さんは言う。「添加物で旨味は増すけど、出汁をとって新鮮な食材で料理をしたら味のバランスはとれます。そして何よりいい香りがするんですよね」。ここでは主婦の視線が醤油造りに活かされていて、毎日徹底的に掃除をするのは当たり前。丸大豆醤油も早い時期から手掛け、有機JAS 認証の醤油は藤野醤油の顔となっている。

香りこそが大切と、掃除は毎日隅々まで行う。
感謝する気持ちと愛情溢れる那須矩三世社長。

【製品紹介】
有機こいくち しょうゆ…濃口醤油
亡きご主人の意志を引き継ぎ、有機JAS 認定を取得し開発。1 年半発酵・熟成させる

300㎖ビン ¥680(税込)
原材料 : 有機大豆、有機小麦、食塩

藤野醤油
和歌山県東牟婁郡那智勝浦町天満1573
TEL 0735-52-0277 / FAX 0735-52-1371
http://fujino-syouyu.jp/
見学可(要予約)


■堀河屋野村
300余年、国産丸大豆で造り続ける

全て木桶に仕込む。

堀河屋野村ほど「昔ながら」の醤油蔵は極めて少ない。薪を燃料に和釜で大豆を蒸して小麦を煎り、全量麹蓋で麹を育てる。元禄元年創業後300 余年、伝統を頑なに守り抜き、国産丸大豆と小麦を使い続けてきた。「丸大豆醤油」という表現を初めてしたのも同社。2011年に戻った当時30 歳の圭佑さんは「我々のものづくりには、歴史と文化とロマンがある」と、意義と誇りを胸にさらに歴史を深めている。

大豆を蒸すのも、火入れするのも直火で行う。
全て麹蓋を使って麹を育てる。
朱塗りの蔵。中には売店もある。

【製品紹介】
三ツ星醤油…濃口醤油
昔ながらの「手麹」という製法にこだわり、火入れも全て薪。「三ツ星」は堀河屋代々の家紋。

300㎖ビン ¥1,080(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩、本みりん※

※火入れの際の焦げ付き防止用で味付けや艶出し目的のものではない。

堀河屋野村
和歌山県御坊市薗743
TEL 0738-22-0063 / FAX 0738-22-9500
http://horikawaya.com/
見学可(要予約)


■角長
醤油の発祥地「湯浅」の誇りを担う

最低1 年半木桶で寝かせて濃口を造る。

醤油の発祥地「湯浅」で最も古い歴史を持つ蔵元。「他に手を出すな。こじんまりきっちりと醤油だけをすればいい」という代々の教えを守り通す。現在は2人の息子も入り、「湯浅という名に恥じない品質を絶対に守る」と意気込む。さらに「知恵の結集である醤油民具を残すことも湯浅醤油職人の責任」と蔵のそばに資料館を設け、実際に使っていた道具を一般公開している。

実際に使っていた道具が並ぶ資料館。
加納 誠専務[中]と息子の恒儀さん[右]と隼人さん[左]

【製品紹介】
濁り醤 3 年熟成「匠」…濃口醤油
3 年熟成の諸味から圧搾も火入れもせずに液体のみを取り出した醤油。創業170 年の記念商品。

300㎖ビン ¥1,550(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

角長
和歌山県有田郡湯浅町湯浅7
TEL 0737-62-2035 / FAX 0737-62-4741
http://www.kadocho.co.jp/
見学可(要予約)


■カネイワ醤油
気持ちのキャッチボールが軸

岩本行弘さんは醤油造りにも人にも直球で愛情たっぷり向き合う。「醤油を造る菌も生き物。一生懸命造るという僕らの想いが伝わって初めて醤油を美味しくさせる」と、麹の管理には寝る間も惜しんで接する。飲食店などの業務用途で出荷する際も使い手との心通い合う関係を望む。蔵を訪ねてくる見学者にも全力で対応し、岩本さんの魂のトークに心震える料理人も多いという。

岩本行弘専務。美しい赤色の諸味は舐めると柔らかな甘味が広がる。
良質な水と温暖な気候に恵まれた場所に蔵を構える。

<CAP>
左)岩本行弘専務。美しい赤色の諸味は舐めると柔らかな甘味が広がる。
右)良質な水と温暖な気候に恵まれた場所に蔵を構える。

【製品紹介】
天然醸造醤油…濃口醤油
二年から二年半かけて木桶で熟成。2%ほどのみりんを加えて塩角をおさえてまろやかに。

300㎖ビン ¥540(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩、本みりん

カネイワ醤油
和歌山県有田郡有田川町小川357
TEL 0737-32-2149 / FAX 0737-32-3157
http://www.kaneiwa.net/
見学可(要予約)


■足立醸造
木桶造りのオーガニック醤油を世界に

手前が昔から使ってきた30 石桶、奥が新しく作った120石桶。

2012 年春、待望の新蔵が完成した。何十年と使い続けてきた30石桶の隣に、2 万ℓ以上入る120 石の大桶を設置し全量丸大豆醤油に特化する。さらに半分以上はオーガニック原料だ。足立達明さんは実際に海外にも足を運び、「Soy Sauce ではなく、Shoyu として認知してほしい」と、木桶仕込みの有機醤油の販売に意欲を見せる。社長の自慢は後継者の兄弟3 人が蔵をけん引していること。

高さ4 m、直径3 mの迫力ある120 石桶。
常に現場に立つ足立達明社長。

【製品紹介】
国産有機醤油…濃口醤油
金沢河北潟の井村さんが作った国産有機大豆と小麦を使い、木桶で発酵・熟成させる。

200㎖ビン ¥470(税込)
原材料 : 有機大豆、有機小麦、食塩

足立醸造
兵庫県多可郡多可町加美区西脇100-1
TEL 0795-35-0031 / FAX 0795-35-0281
http://adachi-jozo.co.jp/
見学可(要予約)


■片上醤油
醤油への愛と知識は底知れず

何百通りもの仕込方法が試される諸味蔵。

片上さんの話は面白い。「乳酸菌は大人しいお兄さんで、酵母菌は食欲旺盛な弟…」と、わかりやすく伝えてくれる。淡口・濃口・再仕込・溜など異なる種類の醤油を同時に造るのは、この規模の蔵では敬遠されがちだが、あえてやってみるのが片上さんだ。通常混ぜずに造る溜醤油を混ぜてみたりと常識に囚われない造りを試みる。失敗も成功も経験豊富なので、同業者から頼られる兄貴分的存在だ。

つきっきりで麹を管理し、黄色くしっかり醸す。
身振り手振りで楽しく醤油の話をする片上裕之社長。

【製品紹介】
淡色天然醸造醤油…濃口醤油
淡い色を保ちつつ、旨味を高めることに挑戦。白身魚や豆腐へのかけ醤油としても使える。

360㎖ビン ¥756(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

片上醤油
奈良県御所市森脇329
TEL 0745-66-0033 / FAX 0745-66-1933
http://www.asm.ne.jp/~soy/
見学可(要予約)


■遠藤醤油
生涯現役で醤油造りを担う

30 本の30 石木桶で2 年以上熟す。

21歳で醤油造りを始めた遠藤さんは60 年近く経った今も生き生きと仕事に励む。子供のころは体が弱かったけれど、今では同窓会で「一番元気やなぁ」と言われるほど毎日ひたむきに現場に立ってきた。全量木桶で仕込む今の蔵は家族総出で土地も広げ、建物を増築し、機械を入れて諸味を造る体制を強化した家族の絆の証。みんなで模索するのが嬉しかったと、今なお感じながら造り続けている。

大正5 年に建てられ、100 年近く佇む蔵。
醤油造りが大好きで、醤油の話になるといつもニコニコ顔になる遠藤善和社長。

【製品紹介】
琵琶のしずく…濃口醤油
地元産の大豆、小麦を使用して純粋の地しょうゆ造りに挑戦。遠藤さんの念願が形になった。

500㎖ビン ¥426(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

遠藤醤油
滋賀県守山市中町162
TEL 077-582-2125 / FAX 077-582-9554


■井上本店(商標「イゲタ」)
ストレートつゆを造れる実力

醤油蔵の隣に売店を設けている。

実家を継ごうと帰ってきた女将が直面したのは無添加「ストレートつゆ」の雑菌汚染問題。先代たっての希望で開発をはじめたものの、低塩分のため殺菌設備を持たない小規模メーカーでは難しいとされていた。元大手酒造メーカーの研究職だった経験を活かし一夏かけて研究所に通い詰め、ついに雑菌の繁殖ルートを解明して抑え込みに成功。つゆの製造技術向上は、醤油の品質向上にもつながった。

ストレートつゆを詰める設備。
夫婦漫才のように面白く仲の良いご夫婦。

【製品紹介】
イゲタ黒豆醤油 濃口…濃口醤油
国内産黒豆・小麦にこだわり、天日塩を原料にレンガ造りの蔵の中で二年の歳月をかけて熟成。

360㎖ビン ¥346(税込)
原材料 : 小麦、大豆、食塩

井上本店
奈良県奈良市北京終町57
TEL 0742-22-2501 / FAX 0742-27-3095
見学可(要予約)


<玄光社の本>

醤油本 醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本

著者プロフィール

高橋 万太郎&黒島 慶子


高橋 万太郎(たかはし・まんたろう)

日本全国選りすぐりの醤油を100mlで統一して販売する「職人醤油」代表。各地の醤油蔵の訪問件数は300を超える。伝統産業・地域産業の中で「つくり手」と「使い手」の「つなぎ手」となる組織を目指して日々挑み続ける。1980年群馬県前橋市出身。

 


黒島 慶子(くろしま・けいこ)

醤油とオリーブオイルのソムリエでwebとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳の時に体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけている。

 

書籍(玄光社):「醤油本


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