「身近なものを作品にする」大村祐里子さんの撮り方辞典、第8回のテーマは「金魚」。様々なシーンで見かける身近なペットのひとつですが、工夫次第で様々な顔を見せる魅力的な被写体でもあります。
「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」が書籍にまとまりました。本連載で取り扱ったテーマに加えて、新たに「クレーン」「炭酸」「排水溝」など合計100テーマを収録。日常の中で目にする、しかし被写体としてはあまり気に留めない様々なモノたちを記録する一つの視点を提案します。
撮影のポイント
1. 見た瞬間の印象を伝えるにはどう演出すればいいかを考える。
2. 「やりすぎかな?」というくらい極端な露出とWBでOK。
よく晴れた夏の日に、金魚すくいのプールを撮影しました。強烈な日差しに照らされた青いプールと、そこを泳ぐ白とオレンジ色の金魚に、言いようもない「清涼感」を感じ、その場の爽やかさを少しでも伝えられるように、露出は3段くらいオーバーに、ホワイトバランスは寒色系に調整しました。
対峙した瞬間の印象を大切にする
わたしは、金魚を撮る時、まず被写体と対峙した瞬間の印象を大切にするようにしています。爽やかなのか、可愛いのか、ダークなのか、神秘的なのか…。そして、どう演出したらその印象が見る人に伝わるのか常に考えるようにしています。爽やかな印象だったら、青くハイキーに仕上げた方が伝わるでしょうし、ダークな印象だったら、黒くローキーに仕上げた方が伝わるでしょう。金魚はカラフルで撮りやすいので、「演出」の練習にはもってこいの被写体だと思います。
露出とWBを極端に振ってみる
自分の受けた印象をわかりやすく演出するには、露出とホワイトバランスを極端に振った方がよいと思います。その方が見ている側に伝わりやすくなります。両方を中途半端にすると、変に生々しい、ただの魚の写真になってしまいます。爽やかさを印象づけたいのであれば、露出はオーバーぎりぎりに、ホワイトバランスは強めの寒色に振ってみましょう。ポイントは、極端に振ってみることです。やりすぎかな? と疑問に感じるくらいが、実はちょうどよかったりします。
水槽の中を泳ぐ金魚を撮影した一枚です。正面を向いた時の金魚の顔が、ぷっくりとしていて、愛嬌のあるとてもかわいらしい感じだったので、それを伝えたいと思いました。水槽には他にも金魚が泳いでいたのですが、この子の魅力を伝えたかったので思い切って一匹だけを大きく写しました。そしてかわいらしさを表現するため、ホワイトバランスを温かみを感じる色である黄色系に寄せました。
赤いレースの背後に泳ぐ、黒い金魚を撮りました。見た瞬間、赤と黒の対比が「アダルトな感じ」だなと思いました。その妖しい感じを伝えるには、金魚だけを撮るよりも、赤いレース越しに撮影した方が「覗き見」をしているようで効果的なのではと思い、あえてレースを前面に入れてシャッターを切っています。
水槽を漂うこの大きめの金魚は、どういうわけか尾ヒレ背ビレをひらひらさせずに、水面の方を向いてじっとしていました。わたし はその様子にとても違和感を感じ、まるで金魚ではない、モンスターのようだと思いました。そこで感じた金魚の重たい存在感を出すために、露出はアンダーに振って重厚感を演出しました。