香川久×馬越嘉彦 バトルヒロイン作画&デザインテクニック
第3回

初代と同じコンセプトで「2代目ヒロイン」をデザインする

香川久×馬越嘉彦 バトルヒロイン作画&デザインテクニック」では、「戦う女性キャラクター」(バトルヒロイン)を切り口として、キャラクターデザインの方法論を解説しています。

著者の香川氏と馬越氏は1990年代より活躍しているアニメーター。様々な作品に作画監督や原画として参加しています。とりわけテレビ朝日系で毎週日曜日に放映されている「プリキュア」シリーズには両氏が共通して作画に関わっており、その内容はまさに「戦うヒロイン」を描いた作品群です。

本書では、前後編からなる「バトルヒロイン」のオリジナルストーリーをもとに、それぞれの作品に登場するキャラクターをデザインするうえで留意すべきポイントを中心に解説。キャラクター自身の設定や性格、表情やポーズの付け方、モチーフに合わせたコスチュームのディテールから描写のちょっとしたコツにいたるまで、愛されるキャラクターをデザインするためのノウハウを伝えています。

本記事では、馬越氏が担当する後編「フレッシュチャージ!ピュア★プリンセス!」より、「主人公(タイプA)」のデザインを一部抜粋してご紹介します。

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香川久×馬越嘉彦 バトルヒロイン作画&デザインテクニック

後編「フレッシュチャージ!ピュア★プリンセス!」のストーリー設定

テーマ:
女子中学生が活躍するバトルヒロインアニメ

舞台設定:
前作から3年後、人間界に潜んでいたケミカリアンが怪物を生み出す。ラブリンセスから使者が送り込まれて新たなヒロインが誕生し戦いが始まる。

ストーリー設定:
ラブリンセス、そして人間界の運命を賭けた戦いから3年。ケミカルーンの残党・ケミカリアンは人間界に潜み、体の健康に悩む人々を化学物質の怪物・フトルーナに変えて仲間を増やしていた。人間界の危機を察知したビタミーナの長老は、かつてラブリンセスを救ったせとかたちの恩に報いるため、使者として妖精・デコタンを人間界に送り込む。

そのころ、人間界では中学2年生の女の子・瀬戸内みかみが、ひょんなことから学校の教師がフトルーナに変えられたことを知ってしまい、幹部のアセルスに追われていた。自分もフトルーナに変えられる寸前、デコタンに助けられたみかみは流されるままに伝説の戦士・ピュアマンダリンに変身する。だが、突然のことに戸惑ったみかみは、追い詰められて大ピンチに。そんな彼女を助けたのは、かつて世界を救ったラブプリンセスのひとり、ラブリーオレンジ。しかし、数多くの戦いを経たオレンジは力の大半を失っていた。

はたして、新たなみかんの戦士・ピュアマンダリンとデコタンはケミカリアンの魔の手から世界を救うことができるのか!?

馬越嘉彦氏による「ピュア★プリンセス!」のキービジュアル

ポイント:
・前作で活躍した橘せとかたちは中学を卒業し、高校生に。力を失いかけているラブリープリンセスの跡を継ぎ、みかみたちは新たな戦士・ピュアプリンセスとして戦う!
・前作と違い、ピュアプリンセスは現実世界で戦うため、より多くの自然の力を借りることが可能に。自然の力の恩恵を受けて、能力だけでなくコスチュームや髪型もパワーアップ!

以上のストーリーコンセプトをもとに、キャラクターを設定し、デザインしていきます。

主人公(タイプA)

中学2年生。シシド=カフカのようにクールな女性に憧れる、明るく元気なポジティブ娘。不幸体質が原因で、戦いに巻き込まれてしまった女の子で、最初こそ頼りなくみえるものの、戦いや出会いを通して少しづつ成長していく。

Order Point
元気で明るい2代目主人公にしてください!

Umakoshi’s Point
「元気で明るい」ということで、フードをつけてみたり、胸に文字をいれるなどスポーティーなデザインにしてみました。

 

Name:
ピュアマンダリン
瀬戸内みかみ
※名前の由来は瀬戸内みかん

Character Data:
モチーフ: 2代目みかんの戦士
年齢・性別: 14歳・女性
性格: 不器用だが明るく元気。不幸体質だが、ポジティブ
好きなもの: 音楽。女性ドラマーに憧れている
趣味: バンド演奏。ドラムが得意
家族構成: 写真家の父とふたり暮らし。母はみかみが幼いころに亡くなっている。
能力・得意技: 戦闘時には大地の力を借りて、自分や味方をパワーアップさせる

主人公(タイプA)変身後

変身後はまゆ毛でキリっとした感じを表現。髪飾りのオレンジは色がオレンジ色なだけで、細かいディテールはいれていません。

Umakoshi’s Point
年齢が低いほど額を広くします

元気な性格を表現するのに、目の位置を低く、瞳を大きく描きます。年齢を下げていく時のひとつの手段として、額の幅を広くすることで表現します。

 

Umakoshi’s Point
まつ毛はシンプルに2本で

まつ毛は2本にしています。キャラによって1本、2本、3本と使い分けをしたりもします。キャラ分けのテクニックで『おじゃ魔女どれみ』の時に使っていました。今回は下まつ毛もつけています。

(左)悔しい、ふがいないイメージの表情。首の角度がポイントになります。このまま目線が上がると対象ができてしまい、なんとなくうらめしそうになるので、地面をみつめさせることで自分と向き合っている印象になります。

(右)ややアオリの角度が遠くをみている感じで不安感を演出します。

(下)コミカルなシーンであれば、多少は頭の大きさと身体の大きさの対比も変わっていいと思います。

Umakoshi’s Point
表情を崩す際は頭のボリュームを大きくして目とあごの距離を縮めます。

女の子っぽくないタクティカルグローブのようなアイテムはミスマッチな感じがおもしろいと思って採用しています。

Umakoshi’s Point
タクティカルグローブのような女の子らしくないアイテムで意外性を出します

靴底までデザインすることはあまりありませんが、作品によっては足のアップが多用されることがあります。

Umakoshi’s Point
靴底もデザインしています

主人公(タイプA)変身前

Umakoshi’s Point
太いまゆ毛で元気で芯の強そうな性格を表現

表情は基本的にノーマルに。元気で芯の強そうな性格を出そうと、太いまゆ毛にデザインしています。

髪型は動いていない時は地味でシンプルなシルエットですが、動きのなかでいろいろな表現ができるようにイメージしています。

 


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香川久×馬越嘉彦 バトルヒロイン作画&デザインテクニック

著者プロフィール

香川 久&馬越 嘉彦

香川 久(かがわ・ひさし)

大阪美術専門学校出身。卒業後はムッシュオニオンに入社。スタジオコクピットに移籍後、『美少女戦士セーラームーン』や『少女革命ウテナ』、『フレッシュプリキュア!』『ソウルイーター』などの作画監督・キャラクターデザインを担当する。近年では『タイガーマスクW』のキャラクターデザインを手掛けるなど、活躍の幅を広げている。

 

馬越 嘉彦(うまこし・よしひこ)

東京アニメーター学院出身。ムッシュオニオンに入社。スタジオコクピットに移籍後、『スーパービックリマン』で初の作画を担当。1994年OVA『グラップラー刃牙』で初のキャラクターデザインを担当。『ハートキャッチプリキュア!』で、第10回東京アニメアワード個人部門キャラクターデザイン賞を受賞。

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