長く風景写真を撮っていると、「風景」と「写真」の両方について理解が深まり、結果として写真作品を見る目も培われてくるものです。自分が撮る写真と、他者が撮る写真の違い、それぞれの持ち味に気づくこともあるでしょう。しかしそれは時として多分に感覚的で、言語化しにくいものであったりもします。
「現代風景写真表現」では、萩原史郎、俊哉兄弟が長年培った知識、経験、そして風景写真家としての矜持を「1作品、1エッセイ」の形で多数収録。美しい作品とシンプルな言葉を通して「風景写真によって表現するとはどういうことか」を知ることができる一冊です。
四季を写す中で持っておくべき心構えに関する言葉のみならず、テーマとした風景の考察や撮影時の意図、構図、露出、現像設定なども併せて掲載しており、風景写真のハウツーも学べます。
本記事では第一章「春の花々はおぼろで麗しく」より、「シャッターチャンス」に関する記述を紹介します。
ファインダーを見るな
「ファインダーを見るなとは、どうやって撮影するのだ」と言う声が聞こえてきそうだ。問題はファインダーを見ることで、風景を見逃してしまうことだ。
雲海や光芒などの劇的に状況が変わる場面では、常に五感で情報を収集する必要がある。風はどこからどこへ吹くのか、空の明るさに変化はないか、雨の匂いはしないか、など。全身で現場の状況の変化を読み取り、予測して被写体を狙うことが大切なのだ。
例えば濃霧の峠において、風が強く空が明るいときは、霧が流れて雲海が現れる可能性がある。分厚い雲海が覆い、雲の下の景色が見えないときでも、雲間からふと姿を現すことがよくある。
フレーミングしたファインダーばかり覗いていては、せっかくのチャンスを撮り逃してしまう。状況の変化が激しいときには、五感を活用して風景を感じよう。
画題の考察
浄土景趣:天国からの眺めは、このような光景であろうか。雲間から時折見える下界に想いを馳せて、静かに見守っているイメージを画題に持たせた。
現場の読み
勢いよく雲海が流れ、雲の下の風景が時折垣間見える。風が左から右へ流れていると読み、現場をじっくり観察していると、どこにチャンスが現れるかがわかる。
構図の構築
浄土と下界、というようなイメージが浮かんだ。雲上にある手前の樹々を画面に取り込み、仏様が浄土から眺めているような印象を演出した。下界の風景に視線を誘導するため、手前の樹々の配分は少なめにしている。
露出の選択
黒い樹のシルエットを引き締めるため、少しだけマイナスに露出補正した。雲の流れが速いため、高速のシャッタースピードを確保した。
撮影備忘録
雲海は広角側のレンズで広く狙いがちだが、望遠レンズを使うとドラマチックな部分だけを効果的に切り取ることができる。
RAW現像
雲の白色と樹々の黒色のコントラストを強めるため、「白レベル」をプラスに「黒レベル」をマイナスにして、メリハリを付けた。最後に「露光量」で全体の明るさを整えた。
露光量:+0.60 白レベル: +70 黒レベル: -40