長く風景写真を撮っていると、「風景」と「写真」の両方について理解が深まり、結果として写真作品を見る目も培われてくるものです。自分が撮る写真と、他者が撮る写真の違い、それぞれの持ち味に気づくこともあるでしょう。しかしそれは時として多分に感覚的で、言語化しにくいものであったりもします。
「現代風景写真表現」では、萩原史郎、俊哉兄弟が長年培った知識、経験、そして風景写真家としての矜持を「1作品、1エッセイ」の形で多数収録。美しい作品とシンプルな言葉を通して「風景写真によって表現するとはどういうことか」を知ることができる一冊です。
四季を写す中で持っておくべき心構えに関する言葉のみならず、テーマとした風景の考察や撮影時の意図、構図、露出、現像設定なども併せて掲載しており、風景写真のハウツーも学べます。
本記事では第一章「春の花々はおぼろで麗しく」より、「創作のアイデア」に関する言及を紹介します。
アイデアは無限である
いつもと同じ場所で撮影するとき「撮り飽きた」と思うことはないだろうか。そういうときこそ、新しい自分に出合うチャンスだ。いつもと違うものを探したり、違う方向から被写体を眺めたりすることは、表現の引き出しを増やすトレーニングになる。視点を大きく変化させることを意識して撮影すると、次々とアイデアが生まれてくる。そのアイデアを積極的に試し、今までにない表現を生み出していこう。
アイデアが湧かない…という人は、著名な絵画や写真を見ることをオススメする。色、光の扱い方、「ま」の取り方や構図の絶妙さを感じ取ることで、作家がその作品に意図を込めるための手法を学ぶことができるだろう。
作品鑑賞などのインプットと、撮影などのアウトプットを繰り返すことで、アイデアを無限に生み出し、表現の可能性を広げていこう。そうして、新しい自分に挑み続けることができるのだ。
画題の考察
時を刻む:毎日昇っては沈む太陽、止めどなく押し寄せる波、ゆっくりと風化しながら海を眺める岩。悠久の時間のなか、それぞれの時を刻んでいるように感じて、そのイメージを画題に込めた。
現場の読み
有名撮影地での夕焼け、写真が撮れることはわかっている。だからこそ、人と同じ写真にならないように、湧きあがるアイデアを駆使して撮影することが大事だ。
構図の構築
岩の間の真ん中に太陽を配置することも考えたが、岩のシルエットの美しさを最優先して構図を決定。手前の岩に押し寄せる波も捉えて、奥行きを演出している。
露出の選択
印象的に見せるために、4秒の長時間露光を行った。また、美しい空の絶妙なグラデーションを見せるために、少しマイナスに露出補正をした。
撮影備忘録
夕日が沈むとあっという間に暗くなる。岩場は滑りやすいので、滑り止め機能の付いた靴と懐中電灯は必携である。
RAW現像
岩のシルエットが少し黒つぶれをしていたので、「黒レベル」をプラスして岩肌の質感を感じられるよう改善した。
黒レベル:+40