現代風景写真表現
第1回

他人に「あなたの写真に『個性』はあるのか?」と言われたときに覚えておきたいこと

長く風景写真を撮っていると、「風景」と「写真」の両方について理解が深まり、結果として写真作品を見る目も培われてくるものです。自分が撮る写真と、他者が撮る写真の違い、それぞれの持ち味に気づくこともあるでしょう。しかしそれは時として多分に感覚的で、言語化しにくいものであったりもします。

現代風景写真表現」では、萩原史郎、俊哉兄弟が長年培った知識、経験、そして風景写真家としての矜持を「1作品、1エッセイ」の形で多数収録。美しい作品とシンプルな言葉を通して「風景写真によって表現するとはどういうことか」を知ることができる一冊です。

四季を写す中で持っておくべき心構えに関する言葉のみならず、テーマとした風景の考察や撮影時の意図、構図、露出、現像設定なども併せて掲載しており、風景写真のハウツーも学べます。

本記事では第一章「春の花々はおぼろで麗しく」より、「個性的な表現」に関する言及を紹介します。

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現代風景写真表現

個性は求めなくとも貴方の中に在る

「個性を持て」と人から言われたり、「個性を出さねば」と自ら思う。これは表現者の深き悩みの一つだ。個性は出さないと、友人や先生に怒られる、笑われる…。

ここで「個性」を調べてみたところ、「その人を特徴付けている性質や性格、あるいはその人固有の特性」とあった。その人固有?それならば、すでに持っているということではないのか。無理に作り出そうとしなくても、その人の中にある風景の見方や感じ方、あるいは表現の仕方に、すでに個性は含まれている、というより自然に表れてくると考えたほうが素直なのではないかと思う。

これまで数多くの作品を見てきた経験から言えば、上手い下手の差こそあれ、個性はどんな写真からもあふれ出ているし、見え隠れしている。これが結論。だから心の求めに応じて素直に撮っていれば、個性はおのずと表出する。

中判カメラ 120mm単焦点レンズ (120mm/35mm判換算95mm) 絞り優先AE(F11・1/80秒) +1.7EV補正 ISO800 WB:太陽光

画題の考察
焼け跡に生きる:野焼きの直後に訪れた遊水地には、枝を減らした貧相な樹々が其処此処に見える。そんな樹が迎えた春に、敬意と希望を込めている。見てわかる「樹」という情報は無駄なのであえて入れていない。

現場の読み
空の色彩が薄く、プラス補正のまま撮影すると、真っ白になってしまうと考えたので、階調補正機能を使い、ハイライト側の調子を残すように意識した。

構図の構築
痛々しくも力強さを感じさせる2つの樹の間に主役を挟むことで視線を誘導。貧相な樹の生き様に注目してもらう意図が明確な構図である。

露出の選択
空が明るいためカメラの露出計通りに撮影すると暗く写るので、少しプラスの露出補正をしている。

撮影備忘録
撮影会での一コマ。この風景には誰もレンズを向けていなかったようだが、個人的には強烈に惹かれていた。プラス補正をして明るく表現したことは、自分らしさの表れかもしれない。

RAW現像
RAW+JPEGで撮影しJPEGを作品として使用。「ハイライト」をマイナスにして微妙な白飛びを抑えたことがポイント。
ハイライト:-25 黒レベル:+20


現代風景写真表現

著者プロフィール

萩原 史郎&萩原 俊哉

萩原史郎(はぎはら・しろう)

1959年山梨県甲府市生まれ。日本大学卒業後、株式会社新日本企画で「季刊(*現在は隔月刊) 風景写真」の創刊に携わり、編集長・発行人を経験。退社後はフリーの風景写真家に転向。現在自然風景を中心に撮影、執筆活動中。2015年に初個展「色X情」を開催。東京を皮切りに、仙台、福岡、名古屋へと巡回。

カメラグランプリ選考委員
オリンパスデジタルカレッジ講師・山コミュ管理人
日本風景写真家協会会員(JSPA)

 

萩原俊哉(はぎはら・としや)

1964年山梨県甲府市生まれ。 広告代理店に入社、食品関連の広告制作に配属、カタログ制作、イベント企画等に携わる。 退社後、フリーのカメラマンに転向。浅間山北麓の広大な風景に魅せられて、2007年に拠点を移し、2008年に本格的に嬬恋村に移住。 現在自然風景を中心に撮影、写真雑誌等に執筆。2014年11月にはBS11テレビ番組「すてきな写真旅2」に出演。2020年4月逝去。

書籍(玄光社):
風景写真の便利帳
自然風景撮影 基本からわかる光・形・色の活かし方
自然風景撮影 上達の鉄則60
RAWから仕上げる風景写真テクニック
風景&ネイチャー構図決定へのアプローチ法

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