2000年代以降、デジタルカメラを内蔵する携帯端末が広く普及し、私たちの日常生活は「写真撮影」と共にあるといっても過言ではありません。その一方で、近年になってフィルム写真も再評価されており、「古くて新しい写真表現」を評価する価値観の中で、写真表現に新たな広がりが訪れています。
写真は「現像」作業によっていかようにでも変化します。その性質は、デジタルでもフィルムでも変わりません。しかし根本的な部分で、デジタル写真はフィルム写真とは似て非なるものです。そしてそれは、デジタルがアナログに近づく余地を残しているということでもあるのです。
書籍「デジタルでフィルムを再現したい」では、デジタル写真現像ソフト「Lightroom」を用いて、デジタル写真をフィルムの風合いに近づけるテクニックを紹介しています。まったくのゼロからフィルムの色合いを再現するのは大変な作業ですので、本書で色調やトーンなど、各種パラメータコントロールの基本を身につけるのも一つの手でしょう。
本記事では第1章「デジタルでフィルムを再現する編集プロセス」より、デジタルカメラで撮影した写真にフィルム写真の特徴をもたせる現像パラメータの設定方法を紹介します。今回は前回に引き続いて、色相や色温度など色に関わる項に触れる「カラー調整」についての頁を抜粋して紹介します。
カラー調整
続いて、フィルムの再現において最も重要なカラーの調整を行います。はじめにカラーミキサーの機能を使って色系統ごとに色相 / 彩度 / 輝度を調整し、フィルムライクなカラーバランスを作っていきます。 フィルムの再現において特に重要なのが、グリーン / ブルー / オレンジの調整です。
グリーンの調整
ネガフィルムに決まった色はありませんが、SNS時代のフィルムユーザーが好むKodak Portra 400をリファレンスとした場合、グリーンはやや青味がかり、彩度がかなり低い傾向にあるように感じます。 この点を意識したパラーメーターは次のとおりです。
色相
プラス(ブルー寄り)にする。
彩度
思い切ってマイナスにする。
グリーンは他の色と比較して、色相のパラメーターを少し動かすだけで大きく変化します。色相をプラス寄りにすると色飽和を起こしやすくなりますので注意してください。彩度を下げることでバランスを取りましょう。下の例では、色相+10くらいがほどよいと判断しました。
色相0
色相+10
グリーンがややブルー寄りに変化、ナチュラルなフィルム再現。
色相+20
ブルーに寄せすぎた。また、色飽和を起こしかけている。
ブルーの調整
標準的なデジタルカメラのブルーはややパープルに寄る傾向があります。フィルムは逆にグリーンに寄る傾向があります。また、光線状態やカメラ、レンズにもよりますが、ブルーが暗く濃く出る傾向が見られます。
これらの点を踏まえた調整が次のとおりです。
色相
マイナス(グリーン寄り)にする。
彩度
元画像の光線状態などにより、適宜マイナスもしくはプラスにする。
輝度
マイナス(暗く)にする。
ブルーをグリーン(色相マイナス側)に寄せると、雰囲気がガラッと変わります。そのため、楽しくなってついついやりすぎてしまうこともあると思われますが、グリーンに寄せすぎると不自然なため、色の変化に十分注意しながら調整します。
色相0
色相-25
ほどよくグリーン寄りの空で、流行り廃りのないナチュラルなフィルム再現。
色相-50
過剰にグリーンに寄せすぎた。ぱっと見のインパクトはあるが、見ていて疲れる色合い。
オレンジの調整
オレンジの調整は主に人肌の色再現においてフィルムらしさを演出するために行います。当然ですが、人物が写っていない場合は本調整の効果はほとんど感じられないと思います。
フィルムの再現においては、オレンジの赤味を引いてイエローに寄せていきます。その結果、彩度が下がった印象となりますので彩度を上げてバランスを取ります。
色相
プラス(イエロー寄り)にする。
彩度
色相をプラスにすることで、人肌の血色が悪く見えるのでプラスにしてバランスを取る。
カメラメーカーによって異なりますが、下の写真のように、人肌の再現において赤味を加え、健康的な印象を目指す傾向があります。
色相0
色相+36
フィルムの再現においては、健康的に見せることが必ずしも最優先事項ではありません。
色相をプラスに振ることで、赤味を減らします。赤味が減った分、彩度が低くなり血色が悪くなるため、彩度を上げてバランスを取ります。
その他の色については、次のように補正しました。
色温度や色合いの調整
個別に色調整を行ったうえで、写真全体の色調を色温度や色かぶり補正で微調整します。本来は「白い物を白く」再現するためのツールですが、フィルムの再現においてはあえて「色を転ばせる」ために使います。
色温度
色温度を高く(-12)第2回「基本補正」 で 調整したシャドウが少し青かぶりするくらいに調整。
彩度
グリーン側に(-16)全体が軽くグリーンかぶりするように調整。
以上のカラー調整によって、彩度の低さと鮮やかさが同居したようなフィルムらしいカラーバランスとなりました。