人物写真を撮る際に重要なテクニックは数多ありますが、その中でも特に重要度の高い技術は「光を読む力」でしょう。頭の中にあるイメージ通りに作品を撮影するにあたり、光を読む力を鍛えることは、機材選び以上に重要な要素です。
撮影時の光源として使える最も身近な光源機材は内蔵もしくはクリップオンストロボですが、作品づくりを念頭に撮影へ臨むならば、単に直射、バウンスするばかりでなく、ときにはストロボ自体を使わない、あるいは、そこまではせずとも光源の扱いを一工夫する必要も出てくることでしょう。
「光の魔術師イルコのオフカメラ・ストロボライティング」では、カメラから離れた位置にストロボを配置するライティングテクニックを中心に、オフカメラライティングの基礎知識から多灯ライティング、ストロボ撮影時の構図の考え方など、「光を読む」技術を多数紹介しています。
本記事では、Chapter2「オフカメラ・ストロボライティング8つのルール」より、「オフカメラストロボ」の考え方と、発光のコツについての記述を抜粋してご紹介します。
RULE1:クリップオンストロボはカメラにつけない
カメラとストロボを離すと光の自由度が上がる
最初に試すストロボライティングは、クリップオンストロボをカメラのホットシューにつけてTTLオートで撮影する、という使い方が多いと思いますが、オフカメラ・ストロボライティングでは、クリップオンストロボをカメラから離し、別の場所に置いて遠隔操作します。これが第1ルール!
なぜカメラから離す必要があるのかというと、光の自由度が広がるからです。下は、カメラにストロボをつけて、直にストロボ光を被写体に当てた、いわゆる「オンカメラ・ストロボライティング」の状態です。被写体の後ろに濃い影ができているのがわかります。
一方、右ページはストロボをカメラから離して、被写体の斜め45度から光を当てて撮影した写真です。ストロボには、傘の形状をしたアンブレラをつけて光を拡散しました。方向性のある光になり、左の写真とは違う印象になっているのがわかります。
カメラにストロボをつけて撮影
カメラにストロボをつけて、自分が見ている方向から光を直で当てると、目で見たままの光と影に。
カメラからストロボを離して撮影
カメラをストロボから離し、斜め45度上から被写体に光を当てて撮影。ストロボの位置によって、自在に光の回り方を変えることができます。
光の方向性と質を変えられると、写真が面白くなる!
光を被写体の前から照らすと、立体的な感じになりませんが、少しアングルを変えて違った角度から光を当てると、好きなところに影を作ることができます。光の角度によって、立体的に見せることもできれば、隠したい部分を影の中に入れて隠すこともできるので、写真の面白さが増えます。
さらに、ストロボにつけるアクセサリーによって、光の質を変えることができます。ストロボの位置で光の方向性を、アクセサリーで光の質を変えることができ、組み合わせ次第で無限に光を作ることができます!
RULE2:ストロボはマニュアルで発光する
いい露出=いい作品ではない!
2つめのルールは、カメラのTTLオートを使わないことです。TTLは「Through The Lens」の頭文字をとったものです。ストロボ光が発光すると、光が被写体に反射して、レンズを通ってカメラに届きます。その光をカメラが測光して、ストロボを制御する機能がTTLです。TTLの露出は、カメラがいいと思ってはじき出した露出なので、いい露出にはなります。
でも、この「ちょうどいい」明るさは、カメラのエンジニアが一生懸命作った露出なので、自分が欲しい露出と同じとは限りません。もっと明るくしたり、暗くしたいことがあります。そこで、自分好みの明るさにするために、ストロボの光量を調節する必要があるのです。それが、マニュアル露出です。
TTLオートで撮影
絞り優先AEとTTLオートで「いい露出」にはなる。
マニュアルで撮影
背景を暗くして被写体の後ろからもライティング。
「いい露出」と「いい作品」は違います。たとえば上の2枚は、同じ場所、同じ時間帯に撮影した写真です。左の写真は、カメラの設定、ストロボの設定ともにカメラがはじき出したオート露出で撮影したものです。露出を自分で決めれば、右ページのように背景をもっと暗くして、夜のような雰囲気に仕上げることもできます。最初にTTLオートで操作方法などを練習するのはいいかもしれませんが、なるべく早くTTLオートから卒業したほうが、自由に作品を作れるようになります。私自身はTTLオートは1週間くらいで卒業しました。
RULE3:ストロボ使用時の数値は五角形で考える
ストロボを使ったときの露出への影響は?
露出には2通りの考え方があります。1つは自然光だけのときの露出、もう1つはストロボを使ったときの露出です。自然光だけのときは、「絞り」「シャッタースピード」「ISO感度」の3つで明るさが決定します。組み合わせによって同じ明るさを得ることができ、たとえば絞りを1段絞ったら、シャッタースピードを1段遅くすることで同じ明るさを得られます。
ストロボが加わると、この3つに「ストロボのパワー」「ストロボと被写体との距離」という2つの要素が加わります。この2つは、「被写体の明るさ」だけに影響します。ストロボのパワーを強くしても背景は明るくならないし、被写体と距離を近づけても背景の明るさは変わりません。背景の明るさを変えたいときは、シャッタースピードを変更します。ISO感度、絞りを変えると、背景と一緒に被写体の明るさも変わってしまうので、背景の明るさだけを変更するときはシャッタースピードで調整します。
ストロボの露出を決めるのは5つ
自然光の露出三角形に、「ストロボのパワー」と「ストロボと被写体との距離」を加えると、ストロボの露出五角形に。
ストロボ発光時の明るさへの影響
絞り、ISO感度、シャッタースピードのうち、シャッタースピードだけがストロボの影響がありません。