写真はカメラ、スマホ任せでシャッターボタンを押すだけできれいに撮れる世の中になりました。しかし、それで本当に自分の表現したい写真を撮れているのでしょうか?
写真家の大村祐里子さんは、『「光」をよく知ること、「光」を読むこと、そして「光」を作ることで写真が変わる』と言います。カメラ任せではなく、自分の目で被写体をよく見て、そこから表現したい光を作っていくことがプロの技なのです。
この連載では、シェフに扮した大村祐里子さんが、料理をするのではなく、撮影テクニックとしての露出のレシピを公開していきます。
第1回目、2回目……と身近なものの露出を計り、スナップ撮影をしてきました。第3回目は、人物の撮影において単体露出計を使用してみたいと思います。
今回使用する機材
セコニック フラッシュメイト L-308X
前回に引き続き、フラッシュメイト L-308Xを使います。操作が簡単で、胸ポケットに入るコンパクトさが魅力です。屋外で人物撮影をする際も、サッとポケットから出して露出を計れるので、撮影の流れを阻害しません。人物撮影で多用する「絞り優先」モードも使えます。暗いところだと、自動的に液晶画面のバックライトが点灯するので、暗所での撮影でも数値を確認しやすく安心です。
サイドから光の入る室内での撮影
まず、モデルさんが、横にある大きな窓から差し込む光に照らされている状態を撮影してみます。皆様もよく撮影されるシチュエーションではないでしょうか。
撮影者である私の方からモデルさんの顔を観察してみると、左側面からの光に照らされ、向かって左側の頬は明るく、右側の頬に向かって暗くなっています。そして、顔全体には適度な陰影感がついていることがわかります。
デジタルカメラの露出モードを「評価測光」にして、カメラ任せで撮影した結果
露出計 L-308Xを登場させる前に、まずはカメラ内蔵の露出計を使ってみましょう。
絞り優先モードにして、測光方法は「評価測光」を選択し、シャッターを切ってみます。評価測光は、カメラ側が画面を上下左右いくつかのブロックに分けて、それぞれで明るさの程度を計る方式です。バランスの良い露出で撮ることができるので、一般的に利用されることの多い測光方式です。
カメラ内蔵の露出計は「反射光式」であることは第1回目でお話しました。反射光式露出計という「機械」は被写体が白なのか黒なのかを判断できないため、一律で測定した部分がグレー(中庸な濃度)になる露出値を表示します。そのため、反射光式露出計で光を測定すると、白いものがグレーに再現される値が表示されます。
実際に撮影した写真を見てみると、全体的に少し暗いような気がします。ISO800、F4のとき、シャッタースピードは1/800となっています。構図の中に、白っぽい部分が多かったので、そこがグレー化する露出になった、と推測されます。
露出計でハイライト部(窓側・右頬)、中間部(顔正面)、シャドウ部(奥側・左頬)を測光する
それでは、L-308Xを使ってモデルさんの顔周りに注目して、露出を計ってみましょう。光が当たって明るくなっている頬がハイライト部、鼻のあたりが中間部、暗くなっている頬がシャドウ部です。ハイライト部とシャドウ部のお話は、第1回目でお花を撮影する際にご説明しました。
測光するときは、露出計の光球の丸みの向きを、お顔の丸みの向きに合わせて計るのがポイントです。
薄暗い室内だったので、ISOは800に設定しました。モデルさんをキリっと描写しつつ、背景を適度にぼかしたかったので、F4で撮影したいと思いました。そこで、露出計は「絞り優先モード」を選びF4で測光してみました。
ハイライトの測光結果に合わせて撮影
ハイライト部で測光するとISO800、F4のとき、シャッタースピードは「1/250」と表示されました。その値で撮影してみると、ハイライト部が標準的な明るさになります。したがって、シャドウ部はだいぶ暗くなります。
ちなみに、さきほどカメラ内蔵の露出計を使用したときは、同じ条件でシャッタースピードが「1/800」と表示されました。L-308Xを使いハイライト部で測光したときよりも、1段半くらいアンダーとなる値で表示されたということですね。
中間部の測光結果に合わせて撮影
今度は、鼻の前(中間部)で測光してみます。ISO800、F4のとき、シャッタースピードは「1/125」と表示されました。その値で撮影してみると、中間部が標準的な明るさになるので、ハイライト部はやや明るく、シャドウ部も少し明るくなります。
シャドウ部の測光結果に合わせて撮影
最後に、シャドウ部で測光してみます。ISO800、F4のとき、シャッタースピードは「1/60」と表示されました。その値で撮影してみると、シャドウ部が標準的な明るさになるので、ハイライト部はかなり明るく、中間部もだいぶ明るくなります。
【シェフゆり子の調理結果】光を判断して露出を決めて撮った
単体露出計に表示された値で撮影すると、色がきちんと出る、というのもメリットです。
私はハイライト部の肌色がきちんと描写されているほうが好きなので、ハイライト部で測光した値(F4 1/500 ISO800)を採用して撮影をしました。シャドウ部はだいぶ暗くなりますが、このくらい陰影感がついてしっとりしている方が好みです。
ここで大切なのは、顔の左右の露出差です。今回、ハイライト部(1/250)とシャドウ部(1/60)の露出差は「2段」です。ということは、顔の左右で2段の露出差がある、ということになります。
また、顔の左右で2段の露出差がつくと、このくらいの陰影感が出る、と知っておくことが重要です。
屋外のフラットな順光下での撮影
屋外へ出て、光のやわらぐ高架下で撮影をしてみました。
モデルさんの顔周りの露出をL-308Xで計ってみると、左右の頬は、ともにISO200、F4.0 6、1/125でした。ということは、左右の頬の露出は同じ=左右の頬に同じ量の光が当たっている、ということになります。さきほどの室内の写真と比べると、顔の陰影感はありませんね。
【シェフゆり子の調理結果】光を判断して露出を決めて撮った
L-308Xの値どおりに撮影をしてみました。結果は、モデルさんの顔が明るく、洋服のディティールも白飛びせず、とても良い感じに写りました。
屋外での人物撮影では、このような高架下や屋根の下では、直射日光が当たらず柔らかい光が全体に回るのでオススメです。
屋外でトップ光ありの撮影
今度は、屋外で、天からの光が降り注ぎ、モデルさんの髪の毛にハイライトが入る状態で撮影をしてみます。よく晴れた日の、午前11時ごろです。お昼に近いので、ほぼ真上から太陽の光が降り注いでいます。
L-308Xでモデルさんの顔周りの露出を計ってみると、左右の頬は、ともにF4 1/500 ISO100でした。ということは、左右の頬の露出は同じ=左右の頬に同じ量の光が当たっている、ということになります。
次にL-308Xで、太陽の光が強めに当たっている、頭頂部を測光してみます。F4 1/1000 ISO100という値が出ました。
とすると、顔の正面部と、頭頂部は、1段の露出差があるといえます。晴れた日のお昼近くは、顔の正面部と頭頂部で1段の露出差がつく、とも言えます。もっと差があるように見えるのですが、意外と、1段しか違わないのですね。
【シェフゆり子の調理結果】光を判断して露出を決めて撮った
L-308Xの値どおりだと、モデルさんが少しだけ暗いように感じられました。そこで、少しだけ明るくしたいと思いました。今回は、絞りをF4からF2.8に変えて、1段明るくしてみました。
まとめ
人物撮影でL-308Xを使用して、顔周りの露出を計ってみると、そこにどのくらいの露出差があるのかを知ることができます。そして、その露出差によって、陰影感も変わってくることもわかりました。
この「露出差」を知ることができる、という点こそが、単体露出計の最大のメリットです。次回は、今回の写真をベースにして、さらに一歩進んだ撮影をしてみたいと思います。
モデル:希
ヘアメイク:堀江裕美
メーカーサイト:セコニック フラッシュメイト L-308X
販売サイトはこちら
協力:セコニック https://www.sekonic.co.jp/