シネマティック・フォトの撮り方
第4回

「香港映画」をイメージして夜の街をドラマチックに仕上げる

撮影した写真を他者に見せる目的は様々です。ただ記録として見せるならば「撮って出し」でも十分ですが、そこに撮影者が持った感情や、直接関係ないなんらかの意味合いを乗せたいと考えたとき、それはたとえ最終的に何も手を加えなかったとしても、表現を試みたことにほかなりません。

画面の色合いは写真や映像の印象を一変させます。例えば映画の画面をよく見てみると、シーンによっては現実の風景とはかけ離れた色合いで表現されていることに気づくでしょう。こうした映画的なカラー表現は、しばしば写真の調整でも用いられます。

シネマティック・フォトの撮り方」では、写真に映画的な演出を加えることを大前提に、撮影時に留意すべきポイントや編集方法、鑑賞する際の心構えも解説。著者の上田晃司さんは写真と映像の両方で作品の撮影を続けており、静止画の画作り解説を主たるテーマに据えた本書の製作においても、映像製作の考え方を採用しています。

本記事ではChapter2「シネマティック・フォトの撮り方」より、「香港映画」をイメージした仕上げの例を紹介します。

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シネマティック・フォトの撮り方

香港映画のような雨の路地

絞り:F1.4 シャッター速度: 1/200 秒 ISO:1400 WB:晴天 カメラ: NIKON Z7  レンズ: AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED

CINEMATIC IMAGE
雨上がりの香港。夜も遅くなると、活気のあるモンコックの市場も静かになる。路面の反射が鮮やかに輝いている。そこに後ろ姿の素敵な1人の女性が通った。香港映画のワンシーンをイメージして切り取った。

LIGHT:被写体が街灯の下を通り舞台照明のように照らされた瞬間を狙う
このシーンでは地面の反射と街灯の位置が重要だ。香港の夜は暗いので、まばらにある街灯の下を被写体が通る瞬間を狙う。街灯の光に露出を合わせることで、被写体がスポットライトを浴びたように照らし出される。雨の後とはいえ、路面が濡れているのは一部なので、路面の反射が綺麗な部分にピントを合わせ、人が通り過ぎる瞬間にシャッターを切る。路地は写真で見る以上に暗いので、瞬時にはピントが合いにくい。置きピンの方が正確にピントが合う。

CINEMA & LENS:105mm F1.4のレンズで被写体と離れていてもボケを生み出す
市場が静かになるタイミングに合わせて、22時頃現地に向かった。路地全体を見渡せる場所に構図を決めて待ち、女性が通った瞬間に105mmの望遠レンズで背景をグッと引き寄せた。望遠で開放F値がF1.4という明るいレンズを使うことで、被写体と離れていても大きなボケを得ることができる。

  • 奥行を表現しやすい放射状構図を意識し、被写体が際立つように撮影をした。
  • 放射構図の中央に女性が入るようにする。

CINEMATIC RETOUCH:トーンカーブでシャドウをグリーン寄りに
Photoshopのプラグイン「Alian Skin Exposure」を使いシネマティックな色合いにしている。プリセットの中の「Color Film-Polaroidの669 Shadows Cyan」を選択。トーンカーブのレッドのシャドウ側を調整してグリーンを入れている。

玄光社オンラインストアにおいて、著者の上田晃司さんが作成したCUBE形式のLUTファイルを販売中です。本連載を参考にシネマティック・フォトを試してみたいとお考えでしたら、ぜひ購入をご検討下さい。


シネマティック・フォトの撮り方

著者プロフィール

上田晃司

(うえだ・こうじ)
写真家。広島県呉市出身。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強をしながらテレビ番組、CM 、ショートフィルムなどを制作。現在は雑誌、広告を中心に活動し、ライフワークとして世界中の街や風景を撮影する。ニコンカレッジ、LUMIXフォ卜スクール、Profotoオフィシャルトレーナーなど、年間100回以上の写真教室や講演を行う人気講師でもある。
http://www.koji-ueda.com/

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