撮影した写真を他者に見せる目的は様々です。ただ記録として見せるならば「撮って出し」でも十分ですが、そこに撮影者が持った感情や、直接関係ないなんらかの意味合いを乗せたいと考えたとき、それはたとえ最終的に何も手を加えなかったとしても、表現を試みたことにほかなりません。
画面の色合いは写真や映像の印象を一変させます。例えば映画の画面をよく見てみると、シーンによっては現実の風景とはかけ離れた色合いで表現されていることに気づくでしょう。こうした映画的なカラー表現は、しばしば写真の調整でも用いられます。
「シネマティック・フォトの撮り方」では、写真に映画的な演出を加えることを大前提に、撮影時に留意すべきポイントや編集方法、鑑賞する際の心構えも解説。著者の上田晃司さんは写真と映像の両方で作品の撮影を続けており、静止画の画作り解説を主たるテーマに据えた本書の製作においても、映像製作の考え方を採用しています。
本記事ではChapter1「シネマティック・フォトの基本」より、シネマティック・フォトに向いたレンズ選びについて解説します。
レンズワークでシネマティックに見せる
標準から105mmくらいまでの中望遠域がおすすめ
シネマティック・フォトでは様々なレンズを使用するが、基本は標準から105mmくらいまでの焦点距離が望ましい。もちろん超広角などを使用することもあるが、映像的に写真を撮影するのなら標準から中望遠くらいが使いやすい。標準から中望遠域は主題をある程度明確にすることができ背景の整理もしやすい。中望遠になると望遠の圧縮効果までしっかりと使えるので街スナップなどでは役立つ。前ボケや後ボケのボケ感も、広角と比べて作りやすい。
シネマティック・フォトのレンズワークの基本は「前ボケ」「ピント位置」「後ボケ」の3レイヤーと覚えておこう。前ボケに使える物がない場合は、アングルを低くすることで地面もボケの要素として使える。レンズはズームよりも大口径の単焦点レンズがおすすめだ。F値を小さくして撮影すればボケは得やすくなる。大口径の単焦点レンズを使い、前ボケと後ボケをイメージしながら撮影するとシネマティックな世界になるので試してほしい。
玄光社オンラインストアにおいて、著者の上田晃司さんが作成したCUBE形式のLUTファイルを販売中です。本連載を参考にシネマティック・フォトを試してみたいとお考えでしたら、ぜひ購入をご検討下さい。