Still Life Imaging -素晴らしき物撮影の世界-
第15回

飲料水のイメージビジュアルを想定してシズルカットを撮る

格好良い、美しい、面白い物撮影の世界をビジュアルとプロセスで紹介する連載。ライティングテクニックや見せ方のアイデアなど、ビジュアル提案を行なうためのテクニックを凸版印刷TICビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファーの南雲暁彦氏が解説します。

本記事では、飲料水のイメージビジュアルを想定としたシズルカットの撮影をご紹介します。

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

<完成作品>

1/32000s f16 ISO6400
撮影協力:中島孟世(THS)
ロゴデザイン:井元友香(凸版印刷)
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“今回のビジュアルは飲料水をイメージしたシズルカット。カメラはSONY α9。ライトはストロボではなくHMIを定常光にし、高速シャッター、高速連写にてピッチャーの水の動きを撮影した。”

機材の進化から新しい撮影スタイルを生み出し、それをビジュアルとして昇華させていくというのはいつの時代もフォトグラファーの仕事だと思う。

今回のビジュアルはパッと見てほとんどの人が高速ストロボでの瞬間撮影だと思うのではないだろうか。実はこの撮影、定常光と高速シャッター、高速連写による撮影なのである。光源はHMI、カメラはSONYのα9だ。

α9は、35mmフルサイズカメラとしては最速の20コマ/秒連写と1/32000秒の高速シャッターを誇る。1/32000秒といえばもはや高速ストロボの閃光時間に匹敵するスピードであり、水の動きがガラスのようにピタリと止まる。それを秒20コマで撮影できるのだから歩留まりは向上し、やってみようかという気を起こさせる。高感度での画質も重要で今回はISO6400を使用したが、α9は驚くほどノイズの無いクリアな画像を叩き出した。

ライティング図


【使用機材】
カメラ&レンズ(Sony)
α9…[1]
FE 135mm F1.8 GM…[2]

HMI(broncolor〈アガイ商事取扱製品〉)
DWP800…[3]

 

撮影の流れ

今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。ライティング図と合わせて見ていこう。

1. セットを組む


水受けの大きなアクリルのプールの真ん中にアクリルの筒をたて、その上に被写体となるライムとミントを仕込んだ水の入ったピッチャーを乗せる。レンズは135mmを使用して被写体からの距離を確保し、水しぶきがあまり被らないようにした。レンズを長くしてもっと離したいぐらいだが、被写界深度を深くとりたかったのでこのレンズを選択、画質も素晴らしいレンズだ。

水を大量に撒くのでセットの下にシートを敷く

光源はHMIを3灯、ここまで被写体に近づけるとかなりの熱量になる、被写体が水なので燃えることはないがLEDで光源が用意できればベターだろう。

3灯のHMIでライティング

2.HMIでのライティング

背景は特に黒くしていないのだが、直接光を当てない限りこの超高速シャッタースピードだと真っ黒に落ちる。左上からのライトで全体の輪郭とピッチャーの口の縁の部分を出していく。左奥からのライトで縁のハイライトを繋げ、右側にアクセントとしてハイエストライトを作る。右背後から入れたライトで水が入っている部分に透過光を入れ透明感と立体感、色彩を際立たせる。撒いていく水も基本的に無色透明なのでガラスのピッチャーと同じようなライトの入り方をする。

3. 水を絡ませるシミュレーション

ピッチャーに水が絡みつき巻き上がっていくようなイメージを作る、というのが目標だ。水のコントロールがし易いようにコーヒーケトルを用意、肉眼で見ている分にはケトルひとつでも充分水がかかっているように見えるのだが、実際は貧弱なビジュアルとなる。

口の細いコーヒーケトルを用意

ボリューム感が出るように3人で同時に3本の水流を撒いていくのだが、ケトルを振るスピードや角度、方向などなかなか難しい。散々シミュレーションをして、息を合わせ、何度もトライする。最初のケトルの位置や振り方が決まってくると写真の歩留まりも飛躍的に良くなっていく。

3人で同時に水を撒く

4. 20コマ/秒のシークエンス

水の動きは想像以上に速い、1/32000の超高速シャッタースピードが肉眼では捉えられない不思議な水のフォルムを20コマ/秒でザクザクと撮影していく。こういったフォルムを連続で追いかけていくという撮影企画はこのα9のスペックがなければ考えなかったかもしれない。そしてCGでは無い本物のシズル感が写真家としてはやはり気持ちがいい。撮影後、カットを選ぶのは一苦労だが…。斯くして、シャープな立体感、かつ動きを持った水のフォルムを纏ったピッチャーの写真が出来上がった。

シークエンスの一部

 

Tips

細かい水滴をつけるフェイシャルスプレー

今回使用した小道具は、本物のライムとミント、ダミーの氷と本物の氷、ピッチャーにシズル感をつけるフェイシャルスプレー。本物の氷は浮いてしまうのとライトの熱ですぐ溶けてしまうので、一番上にだけ使用した。ライム、ミントのグリーンと氷の質感は爽やかで美味しそうなビジュアルを生み出してくれる。

清涼感を出すためのライムとミント
HMIの熱に耐えるダミーの氷

ソニー α9+FE 135mm F1.8 GM
この時代のStill Life Imagingを面白くしてくれる機材のひとつα9。超高速電子シャッターと連写、素晴らしい高感度性能が今回の撮影企画を産んだといっても過言ではない。今回はISO6400で撮影したが、ISO100だと言っても分からないレベル。また今回使用したレンズFE135mm F1.8 GMの描写が素晴らしい。

DWP800
光源はブロンカラーのHMI、フリッカーが出にくく、20コマ/ 秒でシャッターを切り続ける撮影で一度もフリッカーは確認できなかった、また防滴性能も兼ね備えており、これもまた今回の撮影になくてはならない機材なのである。

バリエーション

セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。

1/32000s f16 ISO6400  ※画像をクリックすると別ウィンドウで拡大表示

こちらのカットでは光に方向性を持たせ画面のコントラストを強調。ピッチャーの中のグリーンに立体感を持たせ、水の動きもピッチャー全体から吹き出していくような力強いイメージを作った。水流はメインカットで使用した注ぎ口の細いコーヒーケトルではなく普通サイズのヤカンを使用、太い水流で水をかけまくった。おかげでより刺激的な爽快感のあるドリンクのイメージカットが出来たのではないかと思う。

撮影していて感じたのは、どんなに高速でシャッターが切れ、カメラ任せな部分が強いとはいっても、瞬間を切り取っている撮影の快感は残っており、撮ったぞ!感がしっかりあるということ。膨大な撮影データから1枚を選ぶのは大変な作業だが、その中から光り輝く1枚を見つけ選び出す喜びは、写真の楽しさとして脈々と続いているものであり、新しい撮影方法でもそれは変わらないものであった。

 

Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

コマーシャル・フォト 2019年11月号

著者プロフィール

南雲暁彦

(なぐも・あきひこ)
1970年神奈川県生まれ。幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷(株)TICビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファー。「匠」エキスパートクリエイター。コマーシャルフォトを中心に映像制作、執筆、セミナー講師なども行う。海外ロケを得意とし、世界300以上の都市で撮影実績を持つ。APA広告年鑑、全国カタログ・ポスター展グランプリなど国内外で受賞歴多数。APA会員。知的財産管理技能士。長岡造形大学非常勤講師。

著書「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」2019年10月28日発売

様々な広告撮影の現場で活躍するフォトグラファー南雲暁彦氏が、月刊コマーシャル・フォトにて連載していた、ブツ撮りテクニック企画「Still Life Imaging -素晴らしき物撮影の世界-」をまとめたものです。

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