写真の撮り方ガイドブック
第2回

「シャッター速度」と「絞り」の関係【写真を撮るための基礎知識】

スマートフォンやタブレット、あるいはフィーチャーフォンの普及によって、私たちは「一人一台カメラを持っている」といってさしつかえのない時代に生きています。人々は端末からWebサイトやSNSを利用し、その中で写真を見る、あるいは自ら撮影することも、今や日常の一部といえるでしょう。

いわゆるミラーレスや一眼レフといったレンズ交換式カメラを使った撮影は、スマートフォンでの撮影と比べて難しそうなイメージがあります。しかし実際のところ、両者ともカメラとしての構造は原理的にほぼ同じであり、写真を撮影するうえで留意するポイントに違いはほとんどありません。

写真の撮り方ガイドブック」では、カメラの構造や設定項目の意味、光の捉え方、構図の作り方からレンズによる効果の違い、デジタルデータとしての写真の扱い方まで、写真の基礎と機材の使い方を一通りカバーしており、写真を本格的に学ぶ始めの一歩として使える一冊に仕上がっています。

本書はミラーレスや一眼レフカメラユーザー向けに作られた書籍ですが、スマートフォンでの撮影に応用できる部分も多いので、本連載では両者で共通して使える概念やテクニックを中心に紹介します。

本記事ではPart1「写真を撮るための基礎知識」より、「絞り」と「シャッター速度」の関係、「被写界深度」についての記述を抜粋して掲載します。

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シャッター速度と露出の関係

カメラはレンズ内の絞り穴を開き、光の情報を取得しますが、この際はシャッター幕を開き、光をカメラ内に取り込みます。シャッター速度とは、つまりこのシャッター幕が開いて閉じるまでの時間を指します。コップに水を注ぐ例で言えば、水をコップに入れている時間がシャッター速度です。

シャッター速度の数値変化は、F値ほどイメージが難しくありません。数値の増減が、そのままカメラ内に光を取り込む時間になります。

シャッター幕の仕組み
シャッター幕には先幕と後幕があり、まず先幕がセンサーの前を下り、そのあとに後幕が下がる仕組みになっています。低速時は先幕が下がりきったあとに後幕の移動がはじまりますが、高速になると、この図のように先幕が下がりきる前に後幕が移動しはじめその間を通った光がセンサーに届きます。

絞りとシャッター速度の組み合わせはいく通りもある

例えば標準露出で撮影を行う場合、絞りは開くほど速いシャッター速度で標準露出に達するようになり、逆に絞り込むほど遅いシャッター速度で標準露出に達することになります。これは見方を変えると、「同じ露出で撮りたいだけであれば」、絞りとシャッター速度の組み合わせは、いく通りも存在することを意味します。

ではここで、下の写真を見てください。標準露出を目指して撮影した写真です。絞りF5.6、シャッター速度は1/125秒で撮影されています。例えば、この写真に対し、絞りをF11まで絞ったとします。すると、シャッター速度は1/30秒まで遅くなりました。一方、絞りをF2.8まで開いたところ、シャッター速度は1/500秒まで速くなりました。コップに水を注ぐ例で言えば、蛇口を大きく開けば、それだけコップの水は速くいっぱいになり、蛇口を締めれば、水の出る勢いは弱まり、コップが水で満たされるのにかかる時間は長くなります。これと同じ調整をカメラに設定することができるわけです。

この「F5.6・1/125秒」「F11・1/30秒」「F2.8・1/500秒」という3つのパターンは、各々数値は違いますが、露出は同じです。では、写真の描写に関してはどうでしょうか。どの組み合わせで撮っても同じなのでしょうか。答えはNOです。

絞りやシャッター速度は、その数値変化で明らかな違いを描写に与えます。つまり、この3パターンの露出はみな同じでも、描写がそれぞれに異なるのです。わたしたちは、露出の精度を意識しながら、この「描写性」にも目を向け、写真を撮影していかなくてはいけないのです。

絞りとシャッター速度が描写に与える影響

F値は一度に入る光量をコントロールできましたが、F値の変化による作用はこれだけではありません。絞り穴の大きさは、ボケ味に直結します。つまり、絞り穴を変えることでボケ味が調整できるのです。

具体的には、絞りを開く(F値を小さくする)ほど、ピントの合う範囲が狭まりボケ味が増します。逆に、絞りを絞り込む(F値を大きくする)ほど、ボケ味が乏しくなりピントの合う範囲が広がります。

一方、シャッター速度の変化は動く被写体で効果の違いが鮮明です。具体的にシャッター速度を速くするほど動く被写体をぴたりと止めて撮影できるようになり、遅くするほど動く被写体をぶらして表現できるようになります。

このように見ると、先に示した「F5.6・1/125秒」「F11・1/30秒」「F2.8・1/500秒」の3パターンも、それぞれに描写が大きく変化することがわかります。

「F11・1/30秒」の組み合わせはピントの合う範囲が広く、それでいて相対的にぶれやすい描写となり、逆に「F2.8・1/500秒」の組み合わせはピントの合う範囲が狭く、ぶれにくい描写となります。

絞りとシャッター速度の関係
コップの中を水で満たすことが目的なのであれば、蛇口の開き具合や、費やす時間に応じて、さまざまな組み合わせ方(パターン)が可能です。つまり、ある標準露出で撮影する際の絞りとシャッター速度の組み合わせはひとつではないのです。

「ピントの合う範囲」とは何か

先ほどF値を調整することで、ピントの合う範囲が変わるという話をしましたが、このピントの合う範囲についてもう少し説明をしたいと思います。まず、注意したいのはピントの合う範囲は「点ではなく面で合う」ということです。下図のように、ピントを合わせたポイントに対して、「カメラと同じ距離にある面」でピントは合います。そのため、平面的にとらえた被写体は、仮にF値が小さくても画面全体にピントが合って見えます。

そして、ピントを合わせた面を中心に、その「前後で」ピントの合う範囲は狭まったり、広がったりすることも意識したい大事な要素です。F値を小さくして人物を撮影すると、背景が大きくぼけたりしますが、これは一方で、実は手前も同じようにぼけているのです。

そして、このピントの合う範囲を「被写界深度」と呼ぶことも覚えておきましょう。これはピントを話題にする際によく使う写真用語です。絞りを開くなどしてボケ味が豊かな状態を「被写界深度が浅い」、逆に絞りを絞るなどしてボケ味が乏しくピントが広く合った状態を「被写界深度が深い」と言います。

ピント面の内容
このように被写界深度はピントを合わせた面で合い、前後に広がります。

被写界深度の変化
絞りを絞り込む(F値を大きくする)ほど、ピントの合う範囲は“ 前後に” 広がります。逆に絞りを開く(F値を小さくする)ほど、ピントの合う範囲は前後に狭まります。


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