写真の撮り方ガイドブック
第1回

写真の「露出」って何?

スマートフォンやタブレット、あるいはフィーチャーフォンの普及によって、私たちは「一人一台カメラを持っている」といってさしつかえのない時代に生きています。人々は端末からWebサイトやSNSを利用し、その中で写真を見る、あるいは自ら撮影することも、今や日常の一部といえるでしょう。

いわゆるミラーレスや一眼レフといったレンズ交換式カメラを使った撮影は、スマートフォンでの撮影と比べて難しそうなイメージがあります。しかし実際のところ、両者ともカメラとしての構造は原理的にほぼ同じであり、写真を撮影するうえで留意するポイントに違いはほとんどありません。

写真の撮り方ガイドブック」では、カメラの構造や設定項目の意味、光の捉え方、構図の作り方からレンズによる効果の違い、デジタルデータとしての写真の扱い方まで、写真の基礎と機材の使い方を一通りカバーしており、写真を本格的に学ぶ始めの一歩として使える一冊に仕上がっています。

本書はミラーレスや一眼レフカメラユーザー向けに作られた書籍ですが、スマートフォンでの撮影に応用できる部分も多いので、本連載では両者で共通して使える概念やテクニックを中心に紹介します。

本記事ではPart1「写真を撮るための基礎知識」より、露出にかかわる「絞り」についての記述を抜粋して掲載します。

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写真の露出とは何か

写真を撮っていると、わたしたちは「露出」という写真用語に触れることがあります。ここで使われる露出には、ふたつの意味があります。ひとつは「明るさ」という意味と置き換えて使われるケースです。例えば、「この写真の露出はいまいちだ」などと言った場合、その写真の明るさが気に入らないことを意味します。

もうひとつは「写真を写す行為自体」を指して使われるケースです。レンズから取り込んだ光の情報をセンサーに定着させる行為自体を露出、または「露出する」と言います。一般的に用いられる意味合いとしては前者のケースが多いですが、いずれにせよ、写真と露出は表裏一体、非常に深い関わりを持っています。この露出に対し、大きな役割を果たすものが「絞り」と「シャッター速度」の関係です。

コップの中を水で満たす行為に置き換える

写真を撮る行為をわかりやすく解説するためによく用いられるのが、蛇口をひねってコップを水で満たす例です。蛇口はひねるほど、水は一度に多く放出され、コップはすぐに水で満たされます。一方、蛇口を絞り、水の通る穴を小さくすると、今度は一度に排出される水量は弱まり、結果、コップが水で満たされるには、それだけの時間が必要となります。

蛇口は開いて水の通る穴を大きくするほど、水の出る勢いが増します。コップが水でいっぱいになるまでの時間も短くなります。

このコップを水で満たす行為が、つまりは露出の作業です。すなわち、水は光を表しています。そして、コップの中が満遍なく水で満たされた状態が「ちょうどいい露出」の写真を指します。ちなみに、このちょうどいい露出の状態を「標準露出」または「適正露出」と言います。

標準露出と適正露出

先ほど「ちょうどいい露出」という意味で、標準露出と適正露出をひとまとめにしましたが、厳密にはこのふたつは、意味合いが異なります。標準露出とは、肉眼で見たままの嘘偽りのない露出が基準になっています。カメラまたは露出計が判断したちょうどいい露出と言うふうにも言えます。例えば、シャッターボタンを押すだけで、カメラ任せにきれいに撮れる全オートなどは、まさしくこの標準露出を目指して撮影が行われています。

対して、適正露出は撮り手が判断するちょうどいい露出です。ですから極端な話、見た目よりも明るかろうが暗かろうが、撮り手がちょうどいいと判断したら、それは適正露出になります。標準露出は基本的にひとつしか存在しませんが、適正露出は撮り手の数だけ存在します。

露出オーバーと露出アンダー

標準露出や適正露出と合わせて覚えておきたいのが、露出オーバーと露出アンダーです。露出オーバーとは、標準露出を基準に明るく写っている状態の写真を指します。一方、露出アンダーとは標準露出を基準に暗く写っている状態の写真を指します。ですから、見た目がだいぶ明るく写っている写真に対しては、「この写真はだいぶ露出オーバーになっているね」なんていうふうに言ったりできるのです。

なお、コップに水を注ぐ例で言えば、露出オーバーとはコップに入れた水が溢れ出ている状態です。逆に露出アンダーとはコップの中の水が満たされずに途中で注ぐのをやめてしまった状態です。

つまり、写真は光を過剰に入れ込むと明るくなり、入れ込む光量が少ないと逆に暗くなります。

露出オーバーの写真

標準露出の写真

露出アンダーの写真



絞りと露出の関係

ここまで露出そのものを概要的に説明してきましたが、ではどうやってカメラは光をセンサーに取り込んでいるのでしょうか。ここで大きな役割を担うのが「絞り」です。

絞りとはレンズに搭載されている、光の量を調整するために使われる機構です。簡単に言えば、光を取り込むための穴です。複数の絞り羽根で円形の穴をつくり、その穴を通じて光をカメラ内に取り込みます。

この絞り穴のサイズは数値に置き換え、カメラ側で調整できます。この際に使う絞りの数値をF値、または絞り値と言います。

F値は…F2、F2.8、F4、F5.6…というふうに、複雑な数値の列で連なり設定できます。ここではF値自体の変化の仕方は重要ではありません。それよりも、F値が絞り穴にどのような変化をもたらすかのほうが圧倒的に重要です。どうしてF2.8の次はF4なのかは、とりあえず横に置いておいても差し支えありません。

F値と絞り穴の関係は以下です。

  • F値を小さくすると、絞り穴は大きくなる。
  • F値を大きくすると、絞り穴は小さくなる。

F値の数値変化
ちなみに、利用(変更)できるF値はレンズの性能に依存します。例えば、F 2.0までF値を小さくできるレンズもあれば、F5.6までしかF値を小さくできないレンズもあります。

このF値の変化と絞り穴のサイズの連動性は、少しだけ慣れが必要かもしれません。F値が大きくなるほど、絞り穴も合わせて大きくなるのであれば、イメージしやすいわけですが、実際には逆だからです。このあたりは、カメラを触っていれば、自然と受け入れられるようになるはずです。

この絞りの機構はコップに水を注ぐ例に置き換えると蛇口の部分です。F値を小さくし、絞り穴を大きくすれば、それだけ一度に大量の光をカメラ内に取り込むことが可能になります。標準露出を可能な限り早く達成したければ、その分F値を小さくすればいいわけです。ここは非常に大事な絞りの特徴です。なお、F値を小さくし、絞り穴を大きくする行為を「絞りを開く」、F値を大きくし、絞り穴を小さくする行為を「絞りを絞る」と言います。

絞り穴の仕組み
絞りは絞り羽根の重なり具合で穴の大きさが変化します。

※スマートフォン内蔵カメラの絞りは長らく固定でしたが、近年では絞りを搭載する機種も登場してきています。


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