デジタルカメラで撮影した写真を「作品」として出力する際には、用紙選びからプリント面と画面上の色のマッチング、画像処理ソフトによる仕上げにいたるまで、留意するポイントがたくさんあります。それらの過程はすべて、写真を「作品」として仕上げるために必要な過程です。
写真家・岡嶋和幸さんの著書「ファインプリントのための撮影&RAW現像ガイド」では、写真を作品として仕上げ、ファインプリントとして成立させるためのノウハウをわかりやすく解説しています。
本記事では、チャプター1「ファインプリントのための基礎知識」より、ファインプリントを前提として画像を扱う際の考え方を掲載します。
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ファインプリントを意識すれば画像処理が上手くなる
画像処理は撮影とプリントをつなぐ大切な作業です。その目的が撮影での失敗の救済になってしまうと、どうしても調整の度合いが大きくなりがちです。「あちらを立てればこちらが立たず」という状況に陥ることがあり、どんどんエスカレートしていきます。不自然な仕上がりになるだけでなく、画質の低下が目に付くようになります。これではファインプリントにはなりません。
デジタルカメラで撮影した写真は、基本的にそのまま何もしないほうが高画質ということを頭に入れておきましょう。何か手を加えると画質に影響することがあります。プロカメラマンの画像処理の部分だけ真似をしてもファインプリントにはなりません。きちんと撮れているから、あるいは画像処理を計算に入れて撮影しているからこそ、いろいろな調整ができるのです。
パソコンのディスプレイに向かってソフトと格闘しても画像処理の技術は向上しません。適正露出にこだわるなどファインプリントを意識することで撮影が丁寧になるのと同じく、画像処理でも美しく印象的なプリントに仕上げることを目標にするといいでしょう。そうすることで無茶な調整はやらなくなり、すごく細かい部分へのこだわりなどが出てきます。撮影の大切さに気づき、できるだけ元の画像に手を加えないよう作業も慎重になっていくはずです。
行き当たりばったりであれこれ調整してもファインプリントは達成できません。ディスプレイでは気にならないちょっとした粗がプリントでは目に付く傾向があるので、用紙に光で絵を描いていることを意識しながら、少しずつ画像処理の目と腕を養っていくといいでしょう。
上手に撮れた写真だけがファインプリントになる
ファインプリントを目指すなら、画像処理は上手に撮れた写真をより魅力的に見せるためのものという認識を持ちましょう。そうでない写真は画像処理でどんなにがんばっても、上手に撮れた写真よりも調整が過度になるためファインプリントにはなりにくいのです。
明るさ
RAW現像での明るさ調整は、絞り、シャッター速度、ISO感度の組み合わせを変えて露出を調節するのではありません。画像処理が施されるので画質に影響します。
ブレやボケ
ブレやボケが気になる場合、わずかであれば画像処理でごまかすことができます。でも、シャープに撮れている写真とプリントで比較をすると、画質の違いが分かってしまいます。
色
ホワイトバランスなど色味の調整は基本的に画質には影響しません。でも、後から大幅に色を変えると明るさが違って見えて、その調整が必要になる場合があります。
調子
撮影時の光をあとから変えることはできません。コントラストや彩度などは調整できますが、光を打ち消すような仕上がりにすると不自然になり逆効果です。
レンズ
レンズの諸収差はRAW現像ソフトの機能で補正します。デジタルカメラの多画素化で、トリミングによる解像度不足も起こりにくくなっています。
画面構成
不要なものをトリミングで画面から外したり、消したりすることは可能です。写っていないものを後から加えることは、合成を行う以外できません。
画像を触らない勇気を持とう
誰かに写真を見せる場合、特にプリントでは客観的な目で見て自然に感じられるような調整が必要です。クオリティーを見極める目
が養われるまでは、必要最低限の調整に留めましょう。大幅な調整は撮影時の詰めの甘さが原因であるケースがほとんどなので、撮影力と合わせてバランスアップを図る意味でも、控えめな調整を心がけます。特に調整すべき点が見つからない、何をすればいいのか分からないというときには無理をしないのが賢明です。画像を触らない勇気を持つことも大切なのです。調整が前提の画像処理から卒業する意味でも有効です。
画像処理ソフトにはたくさん機能があります。うまく撮れていて特に問題のない画像でも、必ずそれらを操作して何か調整をしなくてはいけないと思ってしまいやすいです。
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