「腕時計」という装置は、「時間を見る」という機能だけを備えていながら、精密機械、あるいは装飾品として、複数の側面から人々を魅了する力を持っています。市場にはカジュアルモデルから超高級機まで多彩な機種が存在し、その多様性には目を見張るものがありますが、それと同時に、それらの価格差に疑問を感じることがあるかもしれません。
「腕時計の基本がわかる教科書」は、そうした疑問を払拭する一助になりうる一冊です。本書では機械式腕時計をメインに、時計そのものの歴史や腕時計の基本的な構造、市場に参入しているすべてのブランド、そして時計の核となるムーブメントの紹介から簡易的な専門用語集も完備しており、機械式腕時計の魅力を伝える内容となっています。
本記事ではPart2「腕時計の基本」から、最も基本的な腕時計の構造4種類を抜粋してご紹介します。
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すべての時計は機械式時計が基本
ふだんは「内部」についてあまり意識されない腕時計。しかし、種類によってそれぞれ独自の構造を持っています。それを知ることが時計を理解する第一歩です。
時計にはさまざまな種類がありますが、ムーブメントによって大きく2つに分かれます。それは「機械式時計」と「クオーツ式時計」です。ちなみにムーブメントとは時計のケース内の動力機構部分のことを指します。
まず「機械式時計」は巻き上げられたゼンマイがほどける際の力を動力とするムーブメントを持ち、手巻き式と自動巻き式の2種類があります。
手巻き式はリューズと呼ばれる部品を指で回すことにより、ゼンマイが巻き上がります。一方の自動巻き式はローターという部品が回転することによって、自動でゼンマイが巻き上がるしくみになっています。
手巻き式はゼンマイが完全に巻き上がった状態で約40〜50時間動き続けますが、そのためには40〜50回程度リューズを回さなければなりません。
自動巻き式はこの手間を省いたわけですが、腕を動かすことによってゼンマイが巻き上がるしくみなので、動かす量が少ないと止まってしまうこともあります。手巻き式と自動巻き式はゼンマイを巻き上げるメカニズムが違うだけで、構造そのものはほぼ同じと考えてよいでしょう。
「機械式時計」はシンプルな構造を持ち、パーツの数もそれほど多くありません。しかしながらそれぞれのパーツは1千分の1mm単位で設計されており、さらに入念な調整を経て組み立てられます。熟練の職人技があって初めて完成するものなのです。
最近では自動巻き式時計が主流となっており、クロノグラフのようにさまざまな機構が付け加えられた時計が多数作られています。
この「機械式時計」はすべての時計の「基本」になります。時計に対する理解を深めるため、今後掲載予定の記事も含めて、数回にわたって「機械式時計」の構造を細かく紹介していきます。
さらに精度を高めたクオーツと電波時計
一方「クオーツ式時計」は「機械式時計」とは異なり、電池とステップモーターを動力源にしています。その構造を簡単に説明してみましょう。まず内蔵された水晶に電圧がかかると一定の振動が生まれます。これは毎秒3万2768振動といわれていますが、電子回路がそれを感知し、1秒分に達したところで、ステップモーターが針を1秒動かすというしくみです。
クオーツ式時計は機械式時計に比べて精度が飛躍的に向上しています。機械式時計は1日にだいたい数秒から10数秒の誤差が生じるのに対して、クオーツ式時計は月に平均20秒前後の誤差になっています。また超高精度なクオーツの場合は年に10秒程度の誤差だというから驚きです。
そしてさらに精度を高めたもうひとつの時計が「電波時計」です。これは標準電波を内蔵アンテナで毎日受信し、自動的に時刻とカレンダーを修正する機能を持つ時計です。
このように時計は精度を高めるために進化し、さまざまな種類が生まれてきたのです。ここでは4つの種類のムーブメントを図で紹介しながらしくみを解説していきます。
手巻き式
手巻き式の動力機構の構造は非常にシンプルだ。まずリューズを回すと軸が回転し、軸奥にあるキチ車が丸穴車を動かす。続いてその回転が角穴車に伝わり、香箱真が巻かれ、下にある香箱車の中のゼンマイを巻き上げる。これが手巻き式の動力となる。このように簡単な構造になっているため、手巻き式には自動巻きに比べて軽量で薄く作ることができるというメリットがある。
自動巻き式
腕を動かすとローター(回転錘)と呼ばれる部品が回転し、その回転力でゼンマイを自動的に巻き上げるのが自動巻き式だ。ローターは左右のどちらにも回転可能で、その力は第一、第二切り替え車に伝わり、その後一番、二番巻き上げ車を経て、角穴キチ車を回し、それとかみ合う角穴車を回転させる。その後は手巻き式と同じように香箱内のゼンマイが巻き上がるしくみとなっている。
クオーツ式
電池をエネルギー源とするクオーツ式時計。その原理は、まず水晶に電圧をかけると規則的な振動が起き、その振動数がIC 回路に伝えられる。IC回路では振動数が1秒分に達したときに、信号をステップモーターに送り、ステップモーターが歯車を回し、針を1秒ずつ進めるというものである。IC回路による計算ということで、非常に狂いにくいという特徴を持ち、また大量生産にも向いている。
電波時計
10万年に1秒しか狂わないといわれているセシウム原子時計。この時計が刻む標準時刻をもとに、日本の「情報通信研究機構」が送信所から標準電波を発信する。電波時計はこれを内蔵アンテナで毎日受信。受信された電波は時計内の受信ICでデジタルデータへと変換され、CPUへと送信される。その後CPUが時刻コードから時刻情報を解析、それをもとに本体のモーターが時刻を自動修正する。
<玄光社の本>