かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、デジタルカメラ全盛の現代において「オールドレンズ」と呼ばれて人気を集めています。人気のきっかけとなったのは、ミラーレスカメラの普及でした。オールドレンズのほとんどは、そのままでは現行機種のカメラに装着できませんが、マウントアダプターと呼ばれるパーツを用いれば、現代のミラーレスカメラに取り付けが可能。そこから「レンズ遊び」が支持を集めるようになったのです。
写真家・ライターの澤村徹氏は、書籍「オールドレンズ・ライフ(玄光社刊)」シリーズで7年に渡ってオールドレンズの楽しみ方を紹介してきました。その集大成として刊行されたのが「オールドレンズ・ベストセレクション」。ここで採り上げた172本の魅力的で個性的なオールドレンズの中から、本記事では、Summar 5cm F2をご紹介します。
二重にまとったシルキーベール
ズマール5センチF2は二重のシルキーベールをまとっている。元来このレンズはフレアが出やすいレンズとして有名で、特に開放近辺は紗をかけたような表現だ。1933年に沈胴エルマーの兄貴分、大口径標準レンズとして登場したものの、開放時の甘さは当時から指摘されていた。ただ、改めてその写りを見ると、淡い仕上がりに個性を見出せる。
ズマールにはもうひとつフレアを招く要因がある。それは前玉の傷と曇りだ。ズマールは前玉の材質が柔らかく、拭き傷の多い個体をよく見かける。また、曇りも発生しやすいため、コントラスト低下でフレアっぽい写りになってしまうのだ。ズマール特有のシルキーベールをまとったような描写は、先天性と後天性、ふたつの理由があるわけだ。
後天的なシルキーベール、すなわち経年変化によるフレアは、再研磨という手段で取り除くことが可能だ。とは言え、経年変化さえもズマール固有の問題と言える。オリジナルの状態にこだわらず、ありのままの姿で使い続けるのも悪くない。
<玄光社の本>