「身近なものを作品にする」大村祐里子さんの撮り方辞典、第2回のテーマは「雨粒」。光に透かすことで文字通り多彩な表現ができる被写体です。あえてピントを外して写した光の粒は、時として言葉にできない「人の感情」を表現する触媒にもなりえるでしょう。
「大村祐里子の身近なものの撮り方辞典」が書籍にまとまりました。本連載で取り扱ったテーマに加えて、新たに「クレーン」「炭酸」「排水溝」など合計100テーマを収録。日常の中で目にする、しかし被写体としてはあまり気に留めない様々なモノたちを記録する一つの視点を提案します。
撮影のポイント
1. 雨粒を被写体にする時は、背景の光の色を意識する。
2. まずは夜、車のフロントガラスの雨粒を狙ってみよう。
車の助手席から、窓についた水滴を撮影しました。背景のネオンに照らされた白く細かい雨粒と、ざっくりとした大きさの青や赤のネオンの光が混ざり合って、まるでシャンパンの泡の中にたくさんの光が浮かんでいるように見えました。このように、雨粒とネオンの大きさに差をつけてみても面白いです。ちなみにこの時は爽快な気分だったので、全体的に白っぽくさわやかな光になった瞬間にシャッターを切りました。
今の気持ちはどんな色?
雨粒は、背景の光の色次第で、どのような色にでも仕上げることができます。私は、雨粒をその時の気分に合わせた色に仕上げるのが好きです。キラキラして爽快な気分だったら、さわやかさを感じられる白系にしますし、ドロドロとして陰鬱な気分だったら、血のような濃い赤にします。自分なりの、楽しい気分の時の色、悲しい気分の時の色などを持っておくと良いと思います。今の気持ちを色で表現できるようになると、よりあなたの感情が乗った写真が撮れるようになります。
逆光での撮影がおすすめ!
雨粒を輝かせてインパクトの強い作品にするには、被写体を立体的に見せる効果がある「逆光」で撮影すると良いです。一番簡単なのは、夜、車のフロントガラスについた雨粒を撮影すること。ネオンや車のヘッドライトが雨粒を逆光で、しかも様々な色で照らしてくれます。車のフロントガラスは撥水加工が施されているので、雨が粒になりやすく、またガラスの傾斜によって流れ方が変わったりもするので、いろいろなフロントガラスで試してみると面白いですよ。
車の助手席から、フロントガラスについた水滴を撮影しました。この時はちょっと憂鬱な気分だったので、前方に停まっていた車のテールランプに照らされて、窓全体が赤っぽくダークな雰囲気になっているのに惹かれシャッターを切りました。赤信号を入れてみたり、背景をできるだけ「赤」で統一することにこだわってみました。
雨の日の夜、信号待ちをしている時に、差していたビニール傘越しに信号機を撮影したものです。雨粒にしっかりとピントを合わせるのもよいですが、このように、マクロレンズをつけて、どこにもピントを合わせず、玉ボケだけが暗闇にふわーっと浮いているような感じにすると、どこか記憶の中をさまよっているよう
な雰囲気になって面白いです。
こちらは、車の助手席から窓の外を撮影したものです。撮影方法はひとつ上の写真と似ています。カメラをマクロモードにして極限まで窓に寄り、どこにもピントを合わせず「きれいな色だな」と思った瞬間にシャッターを押します。様々な光が混ざり合って、抽象画のような雰囲気に仕上がりました。