「ビデオSALON.web」からの転載記事です。
Report●酒井洋一/HIGHLAND Supported by FUJIFILM
10月1日、メイキング映像”HORSE JERKY”BEHIND THE SCENEをアップしました。
HORSE JERKY / SHOT BY FUJIFILM X-H1 & T3 from HIGHLAND on Vimeo.
X-H1の情報をきちんと得たのは、実は本誌のこのカメラを使った作品撮影レポートだった。それまで友人のカメラマンから聞こえてくるレンズ性能や色味の素晴らしさにはとても興味を持っていたが、何を隠そう、私は今まで富士フイルムのカメラを仕事としては触ったことがなかった。しかし、どうしても静観できないカメラ機能を搭載しているのを知り、今回のショートフィルムのメインカメラに選んだ。その機能こそが「ETERNA」(エテルナ)という映画用フィルムシミュレーションである。つまりカメラを選んだというのと同時にフィルムを選んだという感覚もあるのがおもしろい。
「ETERNA」と聞いて、はて? となる方もいるかもしれないが、かつて富士フイルムが映画用のフィルムとして発売し、世界的にも評価を受けていた高性能フィルムのブランド名である。今から10年以上前、このETERNAが発売され間もないころ、ちょうど私はハリウッドで映像制作を学んでいたこともあり、授業の課題や自主制作として、このフィルムを使ったことがある。
少し感覚的な話かもしれないがコダックの暖色が強く出る傾向に対して富士フイルムのETERNAは寒色やグリーンが綺麗に表現されており、狙って使っていたことを覚えている。
加えて、今でもウェディングの映像作品にはETERNAの粒子や色味を再現したフィルムシミュレーションを最終のカラーグレーディングで好んでかけている。それに求めるものは色の発色傾向と画全体の透明感だと考えている。
今回のX-H1を用いた撮影で個人的に確認したいテーマとしては3つある。まず1つめに、カメラの機能は充分なのかということ。もちろん評判が良いことは耳に入ってきているが撮り直しが効かないウェディングや予算や時間がタイトな難しい現場で使うとなると、また話が違う場合もあると考えていたからだ。撮影前にもカメラに触る機会があり、操作に慣れる時間を充分に取れたのだが、改めて現場で触っていると、新しい魅力がまた見えてきた。ISOやシャッタースピードの大きいダイヤルの存在である。昔のマニュアルカメラを使い慣れている方にとって、このカメラ本体のビジュアルや操作感は、大いに親近感の湧くところだろう。
当日は自然光が入るスタジオで準備を始めたのだが、太陽が出たり隠れたり目まぐるしく変わるような難しい状況。すぐにダイヤルでISOを直感的に動かせるのは、操作に間違いや迷いが生じずかなり使いやすい。また、視覚的という話をすると、グリップ上部にある小窓の液晶画面も嬉しい。現在の設定がパッとすぐにわかることと、電源を切ってもバッテリー残量が表示されるのでバッテリーチェックの手間が省け、これが撮影にかなりの余裕をもたらした。
そして2つめには、やはりコンパクトに普段使いの撮影で導入できるかどうかだ。実際に高機能なカメラでも、自身の撮影スタイルや考えの相違で使わなくなってしまった経験がある身として、現場に持っていけるかどうかが大変興味があるところだった。
今回は、本来であれば三脚に乗せて撮影することも考えたが、撮影時間にも制約があり、昼間の間に窓を遮光して、ナイトシーンも迅速に撮影する必要があった。そのため、普段の使い方として一脚でスピーディーに画を変えながらサクサク撮っていくスタイルで試してみたかった。結果としては大満足だったと言える。その理由として、単焦点レンズ群のコンパクトさと描写はかなり優秀で、とてもスムーズにフレーム内の決定ができたこと。そして新しいボディ内手ブレ補正機構(IBIS)を搭載しているということで、作品の中で女性が歩いているシーンなどでは手持ちでの撮影も行なっている(補正の恩恵も受けつつ、逆にこちらが意図的にカメラを揺らしている)。
また、このクラスのカメラとして「小さすぎてカメラが持ちにくい」という意見もあるが、X-H1のグリップは「そうそう、これなんだよ」と言えるグリップで、ホールド感が良く、私自身が好んで使う一脚雲台を用いてじんわり動きをつけるカメラワークも容易にできた。グリップ自体は、男性の手のひらが少し余るかなという大きさなので、女性の手でも問題なくホールドできる絶妙なバランスを実現している。
そして3つめはETERNAを用いた撮影で吐き出される色味やトーンは実際どうなのか?ショートフィルム撮影を通して、様々な画を撮った実感として、巷を賑わすLogやRAWではなく撮って出しで使える「すでに素晴らしい画」ということこそが潔くて素晴らしいと思う。
皆さんもご存知の通り、フレーム内に大きな輝度差がない状況や、輝度差があったとしても「ここは飛ばしたい」「ここは潰したい」という明確な演出目標があれば、何でもかんでもLogやRAWで撮る必要はないと思っている。そしてこのETERNAのフィルムシミュレーションこそが何か撮影者、制作者を試している、いや、導いてくれているような気がしてきた。
今回は昼のシーンで白いドレスや赤いワンピースが登場。夜のシーンでは赤や青のカラーライティングを施し、LEDや白熱電球などもごちゃ混ぜにして世界観を作っていった。
まずは昼のシーンだが、結論から言ってしまうと、なんて素直な発色なのだろう。ETERNAを用いていることも多いに関係していると思うが、決してただ彩度が下がっただけではなく、一定のトーンを保持したまま素直で綺麗なスキントーンを表現できている。また、先ほど赤いワンピースと言ったが実際は朱色に近いワンピースで、この難しい色の表現も難なくクリアしてくれた。普段使っている他社のカメラは暖色が強く出る方向で、ウェディング用途として新婦のスキントーンを少し「盛る」表現にはとても助かっている。一方でX-H1の画は、何度も言ってしまうが、とても素直な表現で、目で見たとおりの被写体の魅力がそこに存在している感覚だ。
私が確認したかったこと、期待したかったことをすっと超えてきてくれたX-H1だったのだが、当日現場で思わぬプレゼントとして、発売前のX-T3のデモ機が間に合い、ナイトシーンで実際に試すことができた。X-H1と画とマッチングさせるため、今回は10bit、H.265での収録は検証していないが、多少感度を上げてもノイズの粒状感もほとんど感じられず、フルサイズセンサーかと思うほど、かなり優秀だった。個人的な趣向で、最終のグレーディングでは逆に粒子を足していったほどだ。
昨今カメラメーカー各社が競い合ってより素晴らしいカメラが次々とリリースされている中、富士フイルムもここに来て動画にかなり力を入れていることを感じることができ、大変嬉しく思う。富士フイルムのカメラをすでに手にされている方は、すでに充分ご理解されていることかと思うが、私も今回の撮影を通して「富士フイルムはフイルムを作ってきた」というプライドのようなものを改めて感じた。それはカメラ本体の機能だけをただ向上させていけば良いというアプローチではない。私たちフィルムメーカーにとって、優れた基本性能のカメラの上に、細分化されたフィルムシミュレーションという表現方法の選択を用意してくれていることに感謝の念を抱く。
仕事以外のプライベートではあまりカメラを持ち出すことがない私でも、自然と持ち出す回数も増えてしまうかもしれない。このワクワクさせられるカメラならば。
●出演:武石 愛未/小原 恵美/河名 慎平
●ヘアメイク:吉井 めぐみ
●制作:日内地 摩美(HIGHLAND)/宝 隼也
●美術アシスタント:今野 彩花
●美術:今井 伴也(ナラの樹)
●脚本:酒井 洋一(HIGHLAND)/今井 伴也(ナラの樹)
●監督/撮影:酒井 洋一(HIGHLAND)
転載元:ビデオSALON.web
https://videosalon.jp/pickup/fujifilm-x/