被写体としての「空」は、誰もが見上げればいつでも目にすることができ、その時々で様々な表情を見せてくれる、身近で手軽な存在です。しかし誰が撮っても「それなり」の絵になる一方で、写真映像作品として「それなり以上」を目指すのであれば、技術を磨き、機材を整えるだけでは足りず、さらにひと工夫もふた工夫も必要になる奥深さがあるジャンルでもあります。
「四季の空 撮り方レシピブック」では、日本の四季に見られる気象現象を中心として、「空」にまつわる様々な作例と、撮り方のコツを解説しています。また、機材選びやカメラ設定についても言及しており、様々な条件がありうる気象撮影における勘所を掴むのにも役立つ一冊となっています。
本記事では「四季の空を撮る・春の空」の章より、「花粉光環」の作例を抜粋して紹介します。
花粉光環
憂鬱な春の花粉の季節、空に花粉による美しい光環ができることがわかってきた。太陽や月のまわりに現れるので撮影は難しいが、色はとても鮮やかだ。
太陽の花粉光環
日中の眩しい太陽光を電柱で隠した。幾重にも取り巻く虹色の輪は、外側ほど暗くなる。液晶ファインダーを見ながら、適度な明るさで写るように調整した。
光環は、薄いうろこ雲や霧などの空中に存在する小さな水滴によって現れる。しかし、3月頃に見られる花粉光環は、スギ花粉などが空気中に大量に存在するために出現するということがわかってきた。雲があるとわかりにくいが、晴れた青空の太陽のまわりに虹色の輪ができる。春は空気の透明度が低いので、雨が上がり、空気がクリアになった後に現れると特にきれいだ。また、満月の前後の月のまわりにも花粉光環ができる。花粉はほぼ球形で、大きさが揃っているため光環をつくりやすい。
月の花粉光環
月のまわりに花粉光環を見つけたので、明るい望遠レンズと三脚を利用して長時間露出した。月の光環は空がかなり暗い場所でないと撮影できない。感度を上げ過ぎない方が虹色ははっきりと写る。
月の出の花粉光環
昇ったばかりの月はオレンジ色をしている。そのため光環も赤みを帯びた色になった。まったく雲がないのに、こうした光環が見られるのは、やはり花粉のしわざであろう。
花粉光環は、太陽や月のすぐ近くに現れるので撮影は大変だ。晴天時の太陽は、肉眼でもファインダー越しであっても直接見るのはとても危険なので、街灯や建物などで太陽光を遮って撮影する。色の濃いフィルターを使うと安全だが、太陽に対して光環がかなり暗いので撮影は難しい。太陽の光がそれほど強くない朝日や夕日、または月であれば、光環と一緒に写すことができる。カメラの液晶ファインダーを利用すると撮影しやすい。月の場合は三脚を利用しよう。
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