心に響く蔵元──醤油を巡る旅
第8回

九州の蔵元を訪ねる

『醤油本  醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本』では、先人や周りの人に敬意を払い、熱心に勉強し、日々の経験の積み重ねから多くの人に愛される醤油を造る全国の蔵人達を紹介しています。

本連載の第8回では、九州で地元に密着した魅力的な蔵元7軒をご紹介します。

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醤油本 醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本

 

■ミツル醤油
若き蔵人が自社醸造を復活

多くの蔵を見てきた上で、最もいいと思った大きさの麹箱を使って麹を造る。

昭和40年代から止まっていた自社醸造を復活させ、2013年2月に当時28歳の城慶典さんが濃口醤油「生き成なり、」を発売すると、全国各地の蔵元や各界の食のプロから喜びの声があがった。これだけ応援される蔵元は珍しい。それもそう、自社醸造の復活に挑む人など滅多に出てくるものではない。醤油造りに必要な場所や道具を揃えるのにかかる資金を減価償却させるのは難しいのだ。さらに謙虚かつ熱心に取り組む城さんの姿勢が声援を呼ぶ。

高校生の時から自社醸造の夢を胸に秘めていた城さんは、東京農業大学に在学中から長期休暇になると各地の醤油蔵に短期間の修業に出かけた。卒業後は醤油蔵に勤め、醤油の周りのことも学ぼうとフードコーディネーターの学校にも進学した。25歳で戻り、2年目には設備を整え、その年のうちに仕込みを開始。設備はサイズやコストを抑えつつ、細かくこだわれる道具を揃えた。数十年後にもっと造りやすい体制に変えることを前提にしたという。年々進化を遂げていくミツル醤油から目が離せない。

桶の周りに柿渋を塗って雑菌から守る。
種麹の種類を変えたり、数種類を 配合してみたりと、多様のパターンで試した醤油。驚くほど違う個性を持つ。
醤油の風味を劣化させる産膜酵母(白カビ)の繁殖を防ぐためのカバー。
2014 年には、無肥料・無農薬の原料を使った醤油も仕込んだ。

【製品紹介】
城さんが一から造り上げた醤油
生成り、

「自分の手で最初から醤油を造りたい」という城さんが想いが形になった醤油。2012 年の仕込から、大豆、小麦、塩、全てが地元糸島産に。
100㎖ビン ¥515(税込)
300㎖ビン ¥1,234(税込)
1.8ℓビン ¥5,966(税込)
原材料 :大豆、小麦、食塩

ミツル醤油
福岡県糸島市二丈町深江925-2
TEL 092-325-0026 / FAX 092-325-0654
http://mitsuru-shoyu.com/
見学可


■橋本醤油(屋号「ヤマモリ」)
アイデア溢れる商品作り

2014年に移転した新工場。

玉子かけご飯の専用醤油を2001年に手掛ける。子供が朝ごはんを食べていない現実を目の当たりにし、子供が自発的に食べたいと言ってほしいと想いを込めた。その後の専用醤油ブームのきっかけを作る。一工夫を加えた商品づくりに心躍らせる橋本和彦さん。2014 年に稼働した新工場は風が流れる構造で雑菌の繁殖を防ぐ工夫が散りばめられている。安全な商品開発のベースを整えた。

雑菌の繁殖を防ぐためにドライ状態を保つ工夫が散りばめられた工場内。
充填設備も清潔に保つ。
4代目の橋本和彦社長。

【製品紹介】
玉子ごはん専用昆布醬油

150㎖ペットボトル ¥359(税込)
原材料 : しょうゆ(本醸造)、オリゴ糖、昆布エキス、昆布、調味料(アミノ酸等)、アルコール、甘味料(ステビア)、ビタミンB1、(原材料の一部に小麦、大豆を含む)

橋本醤油
熊本県熊本市北区貢町780-7
TEL 096-288-0811 / FAX 096-288-0837
http://tamagosyoyu.com/
見学可(要予約)


■松合食品(屋号「ヤマア」)
醤油を通して健康をお届けする

工場には売店も併設。

「自然と健康」を掲げる松浦さんが世界一安全だと思える原料を探し求めたのは30 年前。周囲から無理だと言われても、こだわった商品には顔の見える契約農家の無農薬・無化学肥料の丸大豆と小麦を使い、昔の製造帳を基に本醸造で仕込んだ。どんなに売れずとも信念を曲げず、農家に定期的に出向き一緒に汗を流す関係を続けた。今は原料が不足するほどになり、自社農場での栽培にものりだした。

無農薬麦契約栽培農場での研修会。
明治33年の帳面。
「幼少期は体が弱かった」と話す松浦茂社長。今では会社全体が健康を追求する雰囲気に。

【製品紹介】
丸大豆醤油
有志農家に無農薬無化学肥料で契約栽培してもらった熊本の阿蘇高原の大豆と菊池の小麦を使った醤油。

900㎖ビン ¥850(税込)
原材料 : 大豆、小麦、食塩

松合食品
熊本県宇城市不知火町松合188
TEL 0964-42-2212 / FAX 0964-42-2213
http://matsuai.co.jp/
学可(要予約)


■チョーコー醤油
品質優先で全国に攻める大規模メーカー

120 年さびないというスーパーステンレスの仕込みタンク

昭和16 年に長崎県内の有名醸造元29 軒が共存共栄と合理化を目的に共同生産と販売の組合として発足。当時としては全国初の形態で、それ以降は最高品質を目指して最新設備の導入と技術改善を現場主導で実現している。品質の向上に向けた改善提案が各部門から挙がる社風がある。その結果、「超特選」等級の醤油が主力商品となり、長崎のメーカーながら6 割以上を本州に出荷している。

隅々まで綺麗にし、動線もスムーズ。
社員を100人以上抱える大きなメーカー。

【製品紹介】
有機醤油 こいくち
有機JAS 認定の大豆、小麦、米を使用。大豆の旨味に米の甘味も加わった、濃厚な味わいの醤油。

170㎖ビン ¥325(税込)
原材料 : 有機小麦、有機大豆、食塩、有機米

チョーコー醤油
長崎県大村市溝陸町815(工場見学先)
TEL 0957-53-4678
http://choko.co.jp/
見学可(要予約)


■フンドーキン醤油
日本最大の木樽に圧倒される

スーパーステンレスタンクと木樽が並ぶ。

九州一の醤油生産量を誇り、紫色のラベルが特徴的な「ゴールデン紫」は地元の調味料売場ではお馴染みの存在。そして、もっと美味しい醤油を追求したいと木樽熟成に取り組む。その規模は圧倒的で、1991年に初期型の4 万ℓ樽が完成し、さらに大型化させる試行錯誤を経て2002 年には54万ℓの日本最大の木樽を完成させる。スーパーステンレス製と木製の醸造タンクが並ぶ姿は壮観。

醤油工場、味噌工場、ドレッシング工場を有する。写真は味噌工場。

【製品紹介】
ゴールデン紫
本醸造特級品質と味わいを追求したフンドーキンの看板商品。地元で知らぬ人がいないロングセラー品。

500㎖ペットボトル ¥248(税込)
原材料 : 脱脂加工大豆、小麦、食塩、砂糖・ぶどう糖果糖液糖、アルコール、調味料(アミノ酸等)、甘味料(甘草)

フンドーキン醤油
大分県臼杵市大字臼杵501
TEL 0972-63-2111 / FAX 0972-63-1505
http://www.fundokin.co.jp/
見学可(要予約)


■長友味噌醤油醸造元(屋号「カネナ」)
地元にも海外にも目を向ける

太平洋のそばに位置し、南国の風が吹き抜ける作業場。

海外の銀行マンから醤油屋に転身した塩見裕一郎さん。飛行機に乗って東アジアに味噌の実演販売に出かけるのが定例で、「直線距離だと東京より近いですから」という。九州では麹造りから手掛ける蔵元は少ないが、先代が頑なに守り続けた仕込み場を前に、「自分達の環境下で造る醤油にはカネナならではの風味がある。どこに出しても恥ずかしくない甘い醤油を造る」と裕一郎さんは意気込む。

一本一本丁寧に充填する。
4 代目見習い中の塩見裕一郎さんと女将・陽子さん。

【製品紹介】
こいくちしょうゆ「福」

1ℓペットボトル ¥460(税込)
原材料 : アミノ酸液、食塩、脱脂加工大豆、小麦、果糖ぶどう糖液糖、カラメル色素、甘味料(ステビア、サッカリンNa、甘草)、調味料(アミノ酸等)、保存料(パラオキシ安息香酸)

長友味噌醤油醸造元
宮崎県宮崎市青島5-8-1
TEL 0985-65-1226 / FAX 0985-65-1227
http://kanena.jp/
見学可(要予約)


■藤安醸造(屋号「ヒシク」)
日本一甘い醤油を造る

外観。

明治3年創業。鹿児島で一番歴史の長い蔵元。県内の飲食店やスーパー、学校などに20 台以上のトラックを使い、商品の7 割を自社流通で届けてきた。鹿児島の味である「甘くてうまい」を支え続けてきた自負もある。地元への感謝とつながりを大切にしていきたいと、平成17 年から開催している「ヒシク ほれぼれ祭り」は本社工場を舞台にしたお祭り。地元客2500 名以上が集まり大いに盛り上がる。

醤油は自社の車で届ける。
「ヒシク ほれぼれ祭り」は社員総出で地元客を迎え入れる。

【製品紹介】
専醤

1ℓペットボトル ¥648(税込)
原材料 :アミノ酸液、砂糖、ぶどう糖果糖液糖、脱脂加工大豆、小麦、食塩、発酵調味料、調味料(アミノ酸等)、酒精、カラメル色素、甘味料(ステビア、サッカリンNa、カンゾウ)、ビタミンB1

藤安醸造
鹿児島県鹿児島市谷山港2-1-10
TEL 099-261-5151 / FAX 099-262-1357
http://www.hishiku.co.jp/
見学可(要予約)

 


<玄光社の本>

醤油本 醤油を見つけて 醤油を知り 醤油を楽しむ本

著者プロフィール

高橋 万太郎&黒島 慶子


高橋 万太郎(たかはし・まんたろう)

日本全国選りすぐりの醤油を100mlで統一して販売する「職人醤油」代表。各地の醤油蔵の訪問件数は300を超える。伝統産業・地域産業の中で「つくり手」と「使い手」の「つなぎ手」となる組織を目指して日々挑み続ける。1980年群馬県前橋市出身。

 


黒島 慶子(くろしま・けいこ)

醤油とオリーブオイルのソムリエでwebとグラフィックのデザイナー。小豆島の醤油のまちに生まれ、蔵人たちと共に育つ。20歳の時に体温が伝わる醤油を造る職人に惚れ込み、小豆島を拠点に全国の蔵人を訪ね続けては、さまざまな人やコトを結びつけている。

 

書籍(玄光社):「醤油本

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