腕時計ライフ
第7回

ゼニス:先進の自社一貫生産体制が名機エル・プリメロを生んだ

「腕時計」という装置は、「時間を見る」という機能だけを備えていながら、精密機械、あるいは装飾品として、複数の側面から人々を魅了する力を持っています。市場にはカジュアルモデルから超高級機まで多彩な機種が存在し、その多様性には目を見張るものがありますが、それと同時に、それらの価格差に疑問を感じることがあるかもしれません。

腕時計の基本がわかる教科書」は、そうした疑問を払拭する一助になりうる一冊です。本書では機械式腕時計をメインに、時計そのものの歴史や腕時計の基本的な構造、市場に参入しているすべてのブランド、そして時計の核となるムーブメントの紹介から簡易的な専門用語集も完備しており、機械式腕時計の魅力を伝える内容となっています。

Part3「腕時計オールブランド大図鑑」では、国内外で販売している105ブランドの腕時計メーカーにまつわる基本情報と歴史、代表作などのブランドストーリーを掲載。今回は掲載ブランドのうち、「ZENITH」(ゼニス)の頁をご紹介します。

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「ZENITH」(ゼニス)

創業年:1865年
創業者:ジョルジュ・ファーブル=ジャコ
創業地:スイス/ル・ロックル
現在地:スイス/ル・ロックル

1969年、毎時3万6000振動の初代エル・プリメロを搭載したオリジナル。

マニュファクチュールと呼ばれる自社一貫生産体制が、ゼニスが高品質を維持する大きな理由のひとつだ。この方法を築いたのは、創業者のジョルジュ・ファーブル=ジャコ。1865年に自社工房を設立した彼は、腕時計が一般の人々に普及することを予想し、いち早くこのシステムを作り上げた。これで大成功を収めたゼニスは世界各国に販路を広げ、数々のコンテストでも優秀な成績を残す。世界大戦時はミリタリーウオッチの供給も行っており、ドイツやイギリスなどの軍隊に採用された事実はゼニスの優秀さを端的に物語っている。

そして1969年、自動巻きクロノグラフ・ムーブの最高峰ともいわれる「エル・プリメロ」を発表。一般的にテンプの振動数が高いほど、高精度に有利といわれるが、エル・プリメロは毎時3万6000振動という驚異的な高振動。耐久性の問題も7年あまりの歳月をかけてクリアした。エスペラント語で ”ナンバー1”を意味するこのエル・プリメロで、不動の名声を手にしたのである。

1970年代半ば、クオーツの台頭を受けて生産中止となったものの、1980年代には機械式時計が見直され、当時を知る技術者の手により復活。以後、ゼニスはエル・プリメロを軸に次々と傑作を発表していく。

22歳の若さで時計工房を設立したジョルジュ・ファーブル=ジャコ。高い志と誇りを胸に、機械式ムーブメントを作り続けた。
マニュファクチュールとして高精度モデルを次々と生み出し、過去に時計コンテストで2333回もの賞に輝いた。
ル・ロックルに建つ現在のゼニス本社工場。最新機器と熟練職人が同居する。

そんなゼニスが大きく変貌したのは20世紀に入ってからのこと。LVMHグループへの移行に合わせて、ラインナップの高級化が図られた。エル・プリメロ自体にもバリエーションが増え、仕上げのレベルも向上。特に2003年発表の「クロノマスターオープン」が大ヒットを記録し、その勢いのままに、ラグジュアリーな新作を次々と発表していった。

現在もノンクロノグラフの「エリート」と合わせ、技術力を武器に世界中で躍進。往年のゼニスらしいシンプルなモデルも増え、ピュアな「エリート ウルトラシン」や、往年の伝説を甦らせる「パイロット」シリーズも大好評を博している。

エル・プリメロ クロノマスター 1969Ref.03.2040.4061/69.C496/¥999,000。世界で唯一、一体型ハイビート自動巻きクロノグラフムーブメント、エル・プリメロ。その毎時3万6000振動のテンプが、腕に装着したまま文字盤から見られる“オープン”に、1969年の初代エル・プリメロ搭載モデルと同じ色で彩ったインダイヤルを採用。ナイトブルーとチャコールグレーが、一部重なるデザインもユニークだ。
エル・プリメロ クロノマスター グランドデイト ムーン&サンフェイズ Ref.03.2160.4047/21.M2160 /¥1,468,800。放射状のギョシェ装飾が施された6時位置のインダイヤルに、幻想的なムーン&サンフェイズを装備したオープン仕様。3時位置に30分積算計、その上にビッグデイトを備える。多機能にして見やすい文字盤と、スポーティなブレスが好相性だ。
パイロットタイプ20 “GMT” Ref.03.2430.693/21.C723 /¥874,800。ゼニスの伝説的パイロットウオッチに着想を得た人気シリーズのGMT仕様。48㎜径の大型ケースに、飛行士がグローブを装着したままでも操作できる特大リューズを合わせた。古典的な書体のインデックスや大型時分針、先端の赤いGMT針が特徴的だ。

※誌面で掲載している価格は、特に注記されていないものはすべて税込みです。
※本書が発行された2015年10月当時の価格になります。現行の価格はメーカーや正規店にご確認ください。

 


<玄光社の本>

腕時計の基本がわかる教科書
腕時計ライフ

著者プロフィール

花谷 正登

(はなたに・まさと)

1959年札幌生まれ。フリーランス編集・ライター。

時計関連ムックで『時計Begin』(世界文化社)『腕時計王』(KKベストセラーズ)『Watch SENSOR』(ネコ・パブリッシング)『クロノス日本版』(シムサム・メディア)などを創刊から担当。

その他、『ホットドック・プレス』(講談社)『POPEYE』『CASAブルータス』『relax』(マガジンハウス)『日経トレンディ』(日経BP社)『週刊SPA!』(扶桑社)『Gainer』(光文社)『LEON』(主婦と生活社)などでも活躍。著書に『間違いだらけの時計選び』(廣済堂出版)。

書籍(玄光社):
腕時計ライフ」(監修)
腕時計の基本がわかる教科書」(監修)

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