いわゆる「写真館」では、人々が迎えた人生の節目や記念日の姿を写真に残すことを業としています。こうした写真を一般に「営業写真」と呼びますが、近年の営業写真は写真館の中で撮影するだけでなく、屋外で撮影するロケーション撮影も増えてきています。
「営業写真の撮り方見本帖」では、和装撮影をメインに活躍しているフォトグラファーの北井一大さんによる撮影の手法から心構えを伝えています。結婚式などのイベントや日常のワンシーンを思い出の1枚として残す技術と、それより先に持っておくべき考え方を学ぶことができる1冊です。
本記事ではChapter1「北井一大流 愛される営業写真を撮るために必要な8項目」より、ロケーションに対する考え方を紹介します。
撮影場所も思い出になる
ロケーション撮影では“撮っている場所をきちんと見せる”ことも重要です。お客様に焦点を当てつつ、その場の周囲の様子、空気感もぜひ合わせて記録していきましょう。
ロケーション撮影の意味を考えよう
ロケーション撮影では撮影地がどこなのか、その場所の特徴的な要素を入れ込んだ写真も必ず撮影するように意識しています。
例えば、成人式の撮影をある美しい庭園で行うとします。このとき、寄りのカットばかりでは、わざわざその庭園で撮る意味がなくなります。寄りのカットと合わせて、周囲の風景を取り込んだカットも撮っておきたいです。七五三であれば神社の様子がわかるように、結婚式の前撮りであればロケ地の様子がわかるように。これは写真の内容が単調にならないように意識するためのものでもありますが、お客様に“あの場所で撮ったこと”を、いつか懐かしく振り返ってもらえるからでもあります。
また、季節の要素が加えられるようであれば、そこも意識します。例えば、春先であれば桜を、秋であれば紅葉を意識的に入れ込んだり。こうした季節感の演出も写真撮影では大事です。
ファミリーフォトでは、お客様のご自宅に伺って撮影することもあります。この際も背景に入れ込むものを意識します。家の中では見せたいものと見せたくないものがあります。散漫に見えるものは写らないように画角から外したり、ぼかすなど工夫します。逆に、意図的に入れ込む場合もあります。これも思い出してもらえるからです。例えば、ここにテレビがあったねとか、ここにこんなものを置いて飾っていたねとか。そのときどきの家族の生活感のようなものも、家族写真を通じて残してあげたいなと思うのです。
構図にばかり気を取られないようにする
そういった意味では、ひとつのシーンに対し、望遠側で人物にクローズアップする撮り方もあれば、広角側でダイナミックに風景を入れ込んで撮る場合もあります。もちろんその中間域の写真もたくさん撮るので、画づくりはかなり幅があるかもしれません。
どこで撮るかは、前述の通り光の状態も確認しながら、画になる場所を見定めて撮影に臨みます。周囲を広く取り込む場合は、風景だけでも画が成り立つ程度に画角を決め、そこに人物を配置し微調整しながら撮影します。ロケーション撮影では建物を使った撮影がとても多く、この場合は垂直水平を意識します。
ただ、あまり構図に縛られることはありません。画面構成は、お客様をどう魅力的に撮るかという視点の延長線上にあります。営業写真は構図に執着してしまうと、ほかの大事なことを見落とすように思うのです。わたしの場合、これまでの撮影経験を基に、その場の状況に合わせて構図は自然と決まっていきます。直感的に判断して画角を決めているところもあります。構図は画面に安定感をもたらす大事な要素ですが、構図に対する考えが、前面に出ることはありません。