映画のタネとシカケ
第3回

違和感を感じさせない照明と編集の技術

映画の楽しみ方は人それぞれ。ストーリーや出演俳優、監督はじめ参加している制作スタッフそれぞれの仕事を目当てに鑑賞する人もいるでしょう。どのような映画であれ、制作者の持ち味は作品に滲み出てくるものです。では、その「持ち味」とはどのようにして形作られているのでしょうか?

映画のタネとシカケ」では、映画の制作において使われる技術的な工夫(タネとシカケ)に注目し、演出意図に沿った映像作りの方法論を図解によって詳しく解説しています。

収録タイトルは『ジュラシック・パーク』『ラ・ラ・ランド』『パラサイト 半地下の家族』『マッドマックス 怒りのデス・ロード』など11作品。

本記事では『ジュラシック・パーク』の解説より、物語の展開と登場人物の感情を照明によって表現する手法の実例を紹介します。

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映画のタネとシカケ

ブロッキングによる縦ワイプ効果(C)

このシーンの中盤で数学者のマルコムが、蘇った恐竜が自然界のバランスを崩す危険性を話し始めることで、和やかな雰囲気は雲行きが怪しくなっていきます。引き画のショットでは、全身黒づくめのマルコムを大きな影のようにカメラ前を横切らせることで、縦ワイプのような効果を作って、このシーンが転換点に入ったことを見せます。

展開が変わることを見せる照明(D-1)

縦ワイプのショットのあと、グラントたちのグループショットを1つ挟んだあと、マルコムとウー博士は議論をしながら、孵化器の周りから離れて研究室の一角へと動きます。物語が和やかな雰囲気からシリアスな展開に変わることは、 2人に当たる照明の色がアンバー系からブルー系に変わることでも演出されます。

マルコムへ足された照明の効果(D-2)

マルコムが、人間には恐竜の生態系のコントロールはできないと話しているとき、斜め右正面から照明が足されることで、それまで黒いサングラスで見えなかったマルコムの瞳を見えやすくします。彼の瞳を見せることで、マルコムの主張はより強く聞こえます。

マルコムに照明を足しているショットと足していないショットでは、マルコムのサイズ(ニーとバスト)が変わるのと、間にグラントたちのショットが挟まるので、照明が足されていることに気がつく人は少ないと思います。

書くと簡単なことのように思えますが、 1つのシーンの中で意図的に照明を変えながら、それを観客には気づかせないで、しかも狙った演出効果はしっかりと上げている、魔法のような技術です。

可能性と不安を演出する照明(E)

このシーンの最後は、グラントは自分の手の中にいる生まれたばかりの可愛らしい恐竜が、凶暴なヴェロキラプトルの幼生だと知り、パークの安全性に不安を持ち始めます。

このときグラントの立っている位置は、孵化器と向かい合わせでいるカメラ位置 Aから、背けるカメラ位置Bへと変わります。グラントと孵化器(照明)の位置関係が変わることで、グラントへの照明の当たり方は順光から逆光へと変わります。それまで明るかったグラントの顔できる濃い影は、彼の心に生まれた不安を表します。1つの照明がバイオテクノロジーが持つ2面性、可能性と不安を演出します。


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