いわゆる「写真館」では、人々が迎えた人生の節目や記念日の姿を写真に残すことを業としています。こうした写真を一般に「営業写真」と呼びますが、近年の営業写真は写真館の中で撮影するだけでなく、屋外で撮影するロケーション撮影も増えてきています。
「営業写真の撮り方見本帖」では、和装撮影をメインに活躍しているフォトグラファーの北井一大さんによる撮影の手法から心構えを伝えています。結婚式などのイベントや日常のワンシーンを思い出の1枚として残す技術と、それより先に持っておくべき考え方を学ぶことができる1冊です。
本記事ではChapter1「北井一大流 愛される営業写真を撮るために必要な8項目」より、良い画づくりのためのコミュニケーションについて解説します。
写真の画づくりにストーリーを込めていく
ドラマチックなストーリーが加わると、その写真の世界観はより大きく広がり、魅力が増します。これはお客様といっしょにつくり上げていく側面もあります。
ドラマや映画のワンシーンのように写したい
わたしはドラマや映画のワンシーンのようなストーリー性のある画づくりを常々意識しています。例えば、ウエディングの前撮り(挙式とは別に時間をつくって行う写真撮影)では、ポーズやライティングにこだわってみたり、少し演出を加えることがあります。成人式やファミリーフォト、七五三などの撮影も同様です。記念写真の中にこうしたドラマチックなワンシーンが加わることで、お客様の満足度もアップします。
ストーリーを感じる描写に関しては、前職での経験が生かされているように思います。わたしのフォトグラファーとしてのキャリアは、ホテルウエディングの写真室に就職したことから始まりますが、その前は映像の制作会社に勤めていました。ドラマ撮影の現場が多く、そこでは音声の仕事に従事していました。音声は現場でカメラの画角ギリギリのところまでマイクを突っ込みます。どんな映像になるのか理解していなければマイクが入れられない。想定される映像を、常に頭の中に入れておかなくてはいけないのです。
ドラマは画になるワンシーンの積み重ねです。このときに現場で見たり、感じてきた画づくりの流れが、多少なりとも体に染み込んでいるように思います。今現在も、ストーリーを感じる画づくりがすっと頭に浮かんだり、ドラマチックな演出のアイデアが臨機応変に出てきたりするのですが、それはこのときの経験あってのことでしょう。そういった意味では、ドラマや映画には写真撮影のヒントが満載。こうした映像を自分の画づくりの手本にしてみるのもおすすめです。
具体的にシーンを伝えいっしょに画をつくっていく
ここでも欠かせないのが、お客様とのコミュニケーションです。互いにイメージを共有して撮影に臨みます。それもなるべく具体的に伝えます。例えば、美しい桜の並木道を新郎新婦が歩く姿を撮りたいと思ったとします。このとき単に「ここからここまで歩いてみてください」と言うのではなく、「この先に挙式会場があります。互いに笑顔で桜を見ながら、会場に向かうようなイメージで」などと、相手が思い浮かべやすいストーリーを伝えて撮ります。このほうが新郎新婦の表情や仕草もぐっとよくなります。
家族撮影では、親子の後ろ姿を好んで撮影するのですが、これは親子の身長差がわかるようにあえて撮ります。お子様が成長した際、あのときはこんなに小さかったねと振り返ってもらえるからなんです。こうしたカットもその意図を伝えるようにしています。そうするとお客様も撮影により気持ちが入ります。撮影時はお客様が緊張していることが多々ありますが、ストーリーや意図が伝わると、緊張の糸もほぐれ、リラックスして楽しく撮影に臨んでもらえます。