営業写真の撮り方見本帖
第1回

「いい写真を撮るだけでは成立しない」。営業写真フォトグラファーに求められるものは何か?

いわゆる「写真館」では、人々が迎えた人生の節目や記念日の姿を写真に残すことを業としています。こうした写真を一般に「営業写真」と呼びますが、近年の営業写真は写真館の中で撮影するだけでなく、屋外で撮影するロケーション撮影も増えてきています。

営業写真の撮り方見本帖」では、和装撮影をメインに活躍しているフォトグラファーの北井一大さんによる撮影の手法から心構えを伝えています。結婚式などのイベントや日常のワンシーンを思い出の1枚として残す技術と、それより先に持っておくべき考え方を学ぶことができる1冊です。

本記事ではChapter1「北井一大流 愛される営業写真を撮るために必要な8項目」より、営業写真の撮影者として、顧客と向き合う際の考え方について紹介します。

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営業写真の撮り方見本帖

人生に寄り添う写真を撮りたい

カメラの性能が上がり、誰もがある程度のクオリティーの高い写真を撮れるようになった現在、改めてプロのフォトグラファーに求められることとは何でしょうか。その答えはお客様とのコミュニケーションの中にあります。

営業写真では撮影テクニックとコミュニケーション能力の両方が等しく求められます。お客様が撮ってほしいと思う写真が何なのか、常に念頭に入れて撮影に臨みます。

撮影が楽しかったと思ってもらえる空間づくりを

わたしがフォトグラファーとして活動する上で常に意識しているのが、お客様とのコミュニケーションです。会話のキャッチボールを通じて、お客様が望む写真の方向性を探ります。撮影中も撮った写真をその場で見てもらい、喜んでもらえているのか、この世界観でいいのかを確認します。ちょっと違うなと思えば、すぐに軌道修正。異なる方向性を提案します。

わたしたちの仕事は、単に“いい写真を撮る”だけでは成立しないと常々考えています。誰でもきれいな写真が気軽に撮れるようになった今、一般の方々がプロのフォトグラファーに期待することとは何でしょうか。わたしはお客様と過ごす時間の中にも充実を図るべき大事なことが含まれていると思うのです。つまり、写真がいいことに加え、その体験自体も楽しんでもらいたいと思っているのです。

営業写真には正解がありません。あるとしたら、お客様に喜んでもらえているかどうか。例えばファミリーフォトの場合、大抵撮影は1時間程度。その限られた時間をどれだけ喜びに満ちたものにできるか。ここにも気を配りたいです。わたしはご家族の人生に寄り添う写真を残すことをひとつのテーマにしています。そんな節目ごとの写真は、とびきりに楽しくなければ。だからこそ、お客様との確かなコミュニケーションが欠かせないのです。

わたしはとにかく人が好きです。だからこそ、お客様に喜んでいただける写真や時間をつくり出していきたい。営業写真家は、わたしにとって天職です。

提案できるテクニックの引き出しは多ければ多いほどいい

いい写真が撮れたとしても相手に喜ばれなければ、それは営業写真家としての仕事をまっとうしたとは言い難いのだと思います。フォトグラファーには誰しも好みがあります。しかし、営業写真では自分の世界観にこだわりすぎないことも大切です。

これはテクニックが不要という意味ではありません。テクニックがあれば、お客様からの要望にも即座に対応できます。提案できるテクニックの引き出しをたくさん持っているほうが撮影のリズムもよくなります。写真を撮影する際は、お客様の想像を超えるプラスαの感動を付加することが理想。そのためにも撮影テクニックは重要です。わたしは撮影にこだわりすぎず、お客様からいただく要望に応えられるように余白をつくっておくようにしています。テクニックは固執するものではなく、必要なときに引き出していくものだと思うのです。

一方で、テクニックが足りなくても悲観することはありません。わたしの場合、駆け出しの頃は経験値やテクニックの差を埋めるために、ひたすら動き回ってさまざまなシーンを撮ろうと努めました。写真が下手なら、バリエーションの数で勝負しようと思ったのです。そういう一生懸命な姿というのは相手に伝わるものです。やはり、気持ちが一番大切です。テクニックはその情熱があれば、自然と身につくものだと思います。


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