かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、デジタルカメラ全盛の現代において「オールドレンズ」と呼ばれて人気を集めています。人気のきっかけとなったのは、ミラーレスカメラの普及でした。オールドレンズのほとんどは、そのままでは現行機種のカメラに装着できませんが、マウントアダプターと呼ばれるパーツを用いれば、現代のミラーレスカメラに取り付けが可能。そこから「レンズ遊び」が支持を集めるようになったのです。
写真家・ライターの澤村徹氏は、書籍「オールドレンズ・ライフ(玄光社刊)」シリーズで7年に渡ってオールドレンズの楽しみ方を紹介してきました。その集大成として刊行されたのが「オールドレンズ・ベストセレクション」。ここで採り上げた172本の魅力的で個性的なオールドレンズの中から、本記事では、Ultron 50mm F2をご紹介します。
温かみのあるオーバードライブのように
大口径レンズは芸術家肌、スタンダードクラスのレンズは職人肌。レンズの明るさによる描写テイストは、おおむねこのような傾向がある。大口径タイプは危うさを秘めたセンシティブな描写が魅力。スタンダードタイプは安定感のある描写が魅力だ。ライカのズミルックス(大口径タイプ)とズミクロン(スタンダードタイプ)の関係を思い浮かべればわかりやすいだろう。
ところが、ウルトロン50ミリF2はさにあらず。プロミネントには、大口径タイプのノクトン50ミリF1.5と、スタンダードタイプのウルトロン50ミリF2がある。ノクトンは開放でわずかに滲みこそするが、実に堅実な写りをするレンズだ。一方、ウルトロンは開放F2の割りに滲みがあり、ぐるぐるボケを感じさせるカットもめずらしくない。スタンダードクラスのレンズなのに、思いの外描写が暴れがちなのだ。
クセ玉と言うほどではないが、ウルトロン50ミリF2は隠れクセ玉的な妙味がある。真空管アンプをオーバードライブさせたような、マイルドな収差が心地良い。
プロミネント用の普及価格帯標準レンズだ。製造は1950年代で、5群6枚のダブルガウス型である。カプラー経由でM型ライカに装着できる。
<玄光社の本>