あなたは「いい写真」と聞いてどのような写真を想像するでしょうか。人によってその定義はそれぞれです。なかなか思った通りには転ばない偶発性も写真撮影の面白さですが、結果的には「撮影者の伝えたい事柄がしっかり伝わる」写真が「いい写真」といえるのもかもしれません。
「いい写真を撮る100の方法」では、スナップ写真を中心とした100点の写真について、撮影意図や撮影時のエピソードを交えながら、表現力を鍛える視点や思考法について解説。撮影者として他者に自身の感動やその場の空気感、興味の対象を伝える写真表現に向き合う姿勢を学べる内容にまとまっています。
本記事では第1章「あなたは何を撮ればいいのか」より、「楽しく撮る」秘訣について解説します。
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写真を撮るときは楽しい気持ちで!
ある時期、僕は写真を撮る人をよく撮っていた。たとえば珍しい鉄道に向けられたカメラの砲列も撮ったし、コミケに行って人気のレイヤーさんがカメラに取り囲まれる光景も撮った。でも撮っていて一番おもしろかったのはセルフィー、つまり自撮りをしている人たちだ。それをひとつの作品にまとめようと考えていた。残念ながらそれは他の写真家に先を越されてしまったが、モチーフとして今でも撮ることは多い。
4年ほど渋谷スクランブル交差点を撮り続けた写真で「#shibuyacrossing」という写真展を行ったこともあるが、そこにはスナップやセルフィーを撮る観光客がたくさん登場した。スペイン語(たぶん)をしゃべっていたこのカップルも、これとは別の全身を写したカットを展示している。声を掛けて撮らせてもらったので、実はカメラ目線の笑顔もあるのだが、チャーミングなのは圧倒的にセルフィーを撮っているこちらだ。線路脇の鉄ちゃんもコミケのカメコさんもそうだが、写真を撮っている人は総じて楽しそうに見える。翻って自分は楽しそうだろうか。
フィルムで写真を撮っていた頃は、ちゃんと撮れたかわかるのは先の話。だから撮り終わった人は淡々としていたと思う。記念写真も同じだ。撮り終わったその場で盛り上がるのは、まさにデジカメの恩恵である。
写真を撮ってよかったと思う瞬間はいろいろあるが、僕はこうした撮る方も見る方も楽しさを共有できる瞬間ではないかと思う。本書を手にとったあなたもは、写真を楽しく撮っているだろうか。もしかしてうまく撮れないと、険しい表情になっていないだろうか。そんなときは視野を広げ、目先を変えてみよう。楽しく撮らないと、楽しそうな写真は絶対に撮れないのだ。