ステーショナリーディレクターとして文房具の商品企画やPRのコンサルティングを行う土橋正さんは、著書「暮らしの文房具」にて、じっくり使ってみて分かった、本当にいいと太鼓判を押す文房具を紹介しています。普段の生活から仕事まで、暮らしに寄り添い、長く愛用できる文房具とは、どのような逸品なのでしょうか?
ここでは、第9章「持ち運ぶ」より「ツールボックス」と「ペンケース」を紹介します。
引き出しを持ち運ぶ
ポスタルコ
ツールボックス
213×93×30mm/20,000円
私はこのツールボックスをいつも事務所の机の上に置いている。使い方は少し変わっていて、机の引き出し代わりにしているのだ。私の事務所の机には引き出しがない。このツールボックスに日々の仕事に必要なペンを入れている。
私はこれまでの経験から「ものはそのために用意された器ギリギリまで増える」と痛いほど感じている。もし、大きな引き出しを用意したら間違いなくその中にはものが溢れていったことだろう。ものを増やしたくなかったので、引き出しを設けず、このツールボックスという小さな空間で済ませようと決心した。小さければ、その中に収まるものだけにしようという発想になる。入っているペンはわずか数本しかないが、日々の仕事で全く支障はない。というか、むしろ集中力は高まった。
このツールボックスはペンの取り出しやすさも考えられている。開けるとスペースが二つに分かれる。それぞれの深さも半分になるので、手を入れてガサゴソと探さなくても、必要なペンがすぐ見つかる。
日頃は引き出しとして使っているが、外に持ち出すこともある。その時は、フラットになって荷物のすき間にスッと収まってくれる。いつも使っている引き出しを気軽に持ち出せるのはありがたい。
一軍万年筆専用ケース
サイプロダクト
ペンケース4冠あり
244×157×2mm/6,000円
万年筆コレクターというわけではないが、それでも40本程の万年筆を持っている。一度に一本の万年筆しか使えないのだから、そんなにたくさん持っていてもしょうがないじゃないかと心のどこかで思っている。一方で普段使わない余力を楽しむという風にも考えている。スポーツカーは公道ではそんなにスピードは出せないが、出そうと思えば出せるという余力がある。普段使ってはいないが、いざとなれば極太で書くこともできるんだぞ、と誰に言う訳でもないのだが、そんな万年筆の余力。ちょっと例えが違うか……。
それらの万年筆を一軍、二軍、三軍と分けている。この赤のペンケースには一軍万年筆を入れて、いつも持ち歩いている。中に入れているのは、草稿執筆用の「パイロット カスタム823」、「ペリカンM800」、ノートや一筆箋用の「ラミー2000」、そして原稿校正用の「パイロット カスタム742 EF」という顔ぶれ。これが現在の一軍メンバーだ。ほぼ同じメンバーなので、ペンケースを広げて外側から見ると、まるで万年床のようにそれぞれの万年筆のフォルムがすっかりかたどられている。書き終わったら万年筆を収納してヒモをギュッと縛る。それを握りしめると、大切な道具を手にしているという満足感が手から伝わってくる。
<玄光社の本>