ステーショナリーディレクターとして文房具の商品企画やPRのコンサルティングを行う土橋正さんは、著書「暮らしの文房具」にて、じっくり使ってみて分かった、本当にいいと太鼓判を押す文房具を紹介しています。普段の生活から仕事まで、暮らしに寄り添い、長く愛用できる文房具とは、どのような逸品なのでしょうか?
ここでは、第7章「永く使う」より「シャープペンシル」と「書類ケース」を紹介します。
今も書類を大切に運んでくれる
ポスタルコ
380×265×50mm/26,500円
リーガルエンベロープ
2005年から使っているので10年以上の付き合いだ。打ち合わせの時に、ヒモをクルクルと緩めてここから書類を出すと、その書類ケースいいですねとよく言われる。なんだか自分が褒められたようでうれしくなる。
10年以上という月日はそこここに現れている。レザーのところに万年筆インクの染みがあったり、圧縮コットンははきつづけたジーンズのようにいい感じにこすれてきている。これらは紛れもなく私が使ってきた証であり、自分だけの限定品という気分に浸ることができる。
ヒモをクルクルととめる中央の塗装が少しばかり剥げてしまい、内側から美しい真しんちゅう鍮が顔を覗かせている。ポスタルコのマイクさんにそのことを話したら、ひと言「特典です」と説明してくれた。使いこんで塗装が剥がれたあとの美しさまで楽しめる仕掛けをしていたのだ。そこまでデザインしていたとは驚きだった。
私は、この「リーガルエンベロープ」に現在進行中のプロジェクトに関する書類を入れている。私にとって書きかけの原稿や企画書は大切な存在である。それを適当に扱うのではなく、とっておきの入れ物に大切に保存すべきだと考えて、ずっと愛用している。これからの10年も私の書類を大切に守ってくれそうだ。
ドクター・ラミーからそのよさを教えてもらった
ラミー
2000 ペンシル(0.5mm、0.7mm)
φ12×137mm/10,000円
ドクター・ラミーに取材して直接話を伺ったことがある。かねてより聞いてみたいと思っていたことを尋ねてみた。「ラミーにとってデザインとはどんな存在ですか?」彼の回答は(通訳者を介してだが)こうだった。
「デザインとは様式を表す言語だ」
少々直訳的な言い回しだが、むしろ無駄なことがそぎ落とされ、却って私の心にグサリと突き刺さった。
つまり、ラミーには哲学が存在し、それがそれぞれのペンの内側からにじみ出た結果としてのデザインなのだ。決して外側を飾り立てるだけのものではない。ラミーは様々な外部デザイナーを起用している。なのにどれもラミーらしさが太い柱のように貫かれている。それこそ同じ様式だからなのだろう。
取材の最後にドクター・ラミーにとっての一番お気に入りのペンについて聞いた。真っ先にあげたのがラミー2000のペンシルだった。「修理を繰り返しながら30年以上も使っています」そう話しスーツの胸ポケットから大切そうに取り出して見せてくれた。
以来私も愛用しはじめた。最初に買った0.5mmタイプは手帳専用ペンとして使っている。このペンでいくつもの未来の予定を書き実現させてきた。言わば未来を形作ってくれるペンである。当初はザラザラとしていたボディはすっかり艶やかさが出てきている。
<玄光社の本>