ステーショナリーディレクターとして文房具の商品企画やPRのコンサルティングを行う土橋正さんは、著書「暮らしの文房具」にて、じっくり使ってみて分かった、本当にいいと太鼓判を押す文房具を紹介しています。普段の生活から仕事まで、暮らしに寄り添い、長く愛用できる文房具とは、どのような逸品なのでしょうか?
ここでは、第6章「集中する」より「電卓」と「ハサミ」を紹介します。
指が自然に導かれていく
ブラウン
電卓
138×77××6mm/113g/6,000円
これを目の前にすると「美しい・・・」というため息が思わずこぼれ出てしまう。要素としては、いつも見慣れている数字と記号だけなのに、どうしてこんなに美しいのだろう。それはたぶん余計なものがなく、全てが考え抜かれたバランスで配置されているからなのだろう。
ただ、いざ計算に取りかかると、美しいと感じた気持ちは心の水面下に沈んでなくなる。計算するということに集中させてくれるのだ。
ボタンの配置は日本のものと微妙に違う。たとえば、「=(イコール)」は日本のものでは右下角にあるが、ブラウンではひとつ左側にずれている。しかしながら、ほどよく目立つイエローのおかげで指が自然と導かれていく。指が導かれると言えば、なるほどと思ったことがある。使い続けてしばらくしてから気づいたのだが、ボタンの種類に応じて表面の質感が違っているのだ。黒い数字のボタンはツルツルしていて、それ以外の「+」「−」「×」「÷」といった記号系ボタンは表面がザラザラしている。色が違うことに加えて質感も変えて、目と指先の感触でわかるようにしているのだ。
どのボタンだっけ? といちいち探すことなく自然に指が導かれるのは、こうしたさりげない配慮のおかげなのだろう。
どこまでも、いつまでも切っていたくなる
アドラー
ハサミ
157mm
三菱鉛筆のジェットストリームではじめて書いた時の感動は、今も私の手が覚えている。これまで何百回、いや何千回とボールペンで書いてきたが、それらとは全くちがう書き味だった。このハサミで紙を切った時、それに近い感動があった。
最近のハサミは軽く切れたり、粘着が付きづらかったりなど、機能派が多い。そんな中、このハサミはそれらとは一線を画し、武骨にも紙を切るということだけに焦点をあてている。だから、これを手にすると紙を切ることそのものに集中できる。
紙を切らずに、空気を切ってもこのハサミのすばらしさはしっかりと感じられる。わっかに指を入れて、おもむろに刃を開き指に力を入れて刃を静かに閉じてみる。いかにも切れ味鋭い研ぎ澄まされた刃と刃が触れ合う。その感触とともに余計なすき間なく作りこまれた金属同士が擦れていく。そして刃を閉じ切った時に、わっか同士がぶつかって「チョキン」という音がこぼれる。久しぶりに正しいハサミの音を聞いた気がする。そして確かに空気を切ったという実感がある。
次に本来の仕事である紙を切ってみる。刃の根元の切りはじめから刃先に至るまで鋭い切れ味は変わらない。あまりに気持ちよいので、いつまでもどこまでも切り続けていたくなる。
<玄光社の本>