360度VR動画 メイキングワークフロー
第4回

360度VR映像を制作するうえで留意すべき課題

360度VR動画は、広視野角のレンズを備えた複数台のカメラによって、カメラを中心に前後左右と天地方向を記録した動画コンテンツです。近年においてはYouTubeやVimeoなどの動画投稿サイトやスマートフォンアプリなどで再生環境が整備され、エンターテイメント分野だけでなく、医療、観光、教育など幅広い領域での活用が始まっています。

視覚と聴覚によって空間を疑似体験できる新しいメディアとして注目が集まるVRですが、では実際に360度VR映像を制作するには、どのような機材や手順が必要なのでしょうか。「360度VR動画 メイキングワークフロー」(著・染瀬直人)では、撮影に必要な機材やソフトウェアをカバーしながら、360度VR動画の撮影から映像の合成、音声やテロップの編集、仕上げにいたるまで、一連の作業手順を網羅しています。

本記事では、Chapter1「360度VR動画の基礎知識」より、360度映像の撮影とステッチ時に留意すべきいくつかの課題についての内容を抜粋します。

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複数の動画を合成して360度の映像を実現する

全天球の360度VR動画の制作では、最低2つ以上、多い場合は数十台のカメラやレンズの映像素材をシームレスな1つの映像に合成していく。レンズ1つだけでは、完全な360度VR動画は実現できない。

複眼カメラで撮影した素材を合成する場合、それぞれの画角には必ずオーバーラップする領域が必要だ。ステッチングソフトを使って映像素材の重複した部分に、コントロールポイントという特徴点を用いて、きれいにつなぎ合わせていく。つなぎ合わせる作業はソフトが自動的に処理してうまくいく場合もあれば、手動で丹念につないでいく場合もある。このようにして、複数の映像素材から1つの360度VR動画を完成させていく。

1つのレンズだけでは全天球の映像は撮影できない。複数のカメラを使用し、全方位に向けて撮影された個々の映像をつなぎ合わせることで、360度パノラマ映像を完成させる。上図では6台のカメラ、つまり6つの映像素材を駆使して、全天球映像を作り出している。

360度動画に必要なカメラの数は?

360度VR動画を制作するには、いったい何台のカメラを使うのが適切なのか。その答えは、シチュエーションによって異なる。例えば、動きの激しい被写体を撮影する場合は、つなぎ目の処理の問題からステッチすべきカメラの台数が少ないほうが有利だ。狭い空間で撮影する場合も、カメラ間の視差が少ないコンパクトな配置でカメラ(レンズ)の台数が少ないほうがいい。また、8Kや6Kなど最終的に大きな出力サイズを求めるなら、画素数の多いカメラを複数用いることになる。

一方、超広角の円周魚眼レンズを用いてカメラ1台で撮影したり、半球面状のミラーを使用してそこに映った映像をカメラで撮影し、記録したドーナツ状の画像を変換して360度のパノラマにする手法もある。この方法だと視差がないことや、ステッチの必要性がないなどのメリットはあるが、画素数が比較的小さく、また物理的に映らない死角が発生するので、完全な全天球にはならない。

360度VR動画の3つの課題を理解する

360度VR動画の撮影には、主に3つの課題がある。この課題に留意して、360度VR動画の制作に取り組みたい。

まずは「視差」が挙げられる。360度パノラマ静止画においては、1つの魚眼レンズと専用のパノラマ雲台を用いて、視差が発生しないノーダルポイントを基準にカメラを水平に回転させながら撮影していくのが基本だ。この手法で撮影された素材をステッチングソフトでつなぎ合わせれば、視差のない静止画が得られる。

ところが動画の場合、全天球の360度の映像を得るには最低2台以上のカメラが必要となり、複数のカメラで同時に収録する必要があるので、自ずとカメラ間に視差が発生する。各カメラで記録された動画で近く(近点)と遠く(遠点)の見え方に違いが生じるため、前景でステッチすると遠景にズレが発生し、遠景でステッチすると前景にズレが発生してしまう。

また、カメラから非常に近いポイントでは、隣接したどちらのカメラにも映らない個所が発生する。これを「死角」という。

さらに3D(立体視)の360度撮影では、視差を利用して作る立体視の仕組みと、視差を極力抑えたい360度パノラマの相反する条件の両立という難しさがある。死角や視差の影響を避けるためには、被写体をカメラからある程度離して撮影を行う必要がある。

ステッチの際に起きる問題

イラスト:岩瀬のりひろ
近くのものに合わせると遠くのものが合わない イラスト:岩瀬のりひろ

視差が発生することにより、近点を基準にステッチすると遠点がずれてしまい(上)、逆に遠点を基準にステッチすると近点がずれてしまう(下)。

遠くのものに合わせると近くのものが合わない イラスト:岩瀬のりひろ

次に「同期」の必要性だ。360度動画は、複数のカメラ(またはレンズ)を通して撮影した複数の動画を合成して作成する。その際、撮影された複数の動画の再生を開始する始点が一致していないと、タイムラインにズレが生じてステッチもうまくいかない。GoPro Omniなどではリグから複数のカメラを一斉にコントロールして同時に撮影開始/終了し、撮影中も完全に同期収録してくれる。また、一体型のVRカメラも内部で連結されているため、同期がずれる心配はない。一方、サードパーティー製のリグを使用する場合は、同期への配慮が必要だ。

最後は「ローリングシャッター現象」の問題だ。カメラのイメージセンサーは、一度にすべての映像を記録しているわけではなく、画面上部から順番に映像を記録している。それゆえ、高速で動いている被写体、または動きながら撮影している場合は、映像が歪んで記録されてしまうことがある。これを「ローリングシャッター現象」と呼ぶ。ステッチが必要な360度動画では、映像が歪むとステッチ作業がますます難しくなるわけだ。

昨今のカメラやソフトウェアの技術の進歩は目覚ましく、これらの課題も徐々に克服されつつある。

 


<玄光社の本>

360度VR動画 メイキングワークフロー

著者プロフィール

著・染瀬 直人 編・エディトル


染瀬 直人(そめせ・なおと)

写真家、映像作家、360VR Content Creator

1964年生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。ハナエモリ・インターナショナル「流行通信」THE STUDIOを経てフリーランスに。コマーシャル、雑誌、ポートレート撮影などで活躍。近年は4K動画撮影を手がけるほか、360度VRパノラマ、360度VR動画、ギガピクセルイメージ、タイムラプス、シネマグラフなどの作品を発表し、静止画と動画の狭間における新表現に取り組む。2014年ソニーイメージングギャラリーで、個展「卜ーキョー・バーチャル・リアリティー」を開催。Autopano Video Proの公認アンバサダー。Kolor Academy認定エキスパート・トレーナー。YouTube Space Tokyo 360ビデオ・インストラクター。プ口フェッショナル・デジタルフォトを学ぶための勉強会「電塾」運営委員。VRなど新分野を考察するセミナ「VR未来塾」 主宰。IVRPA会員、VRコンソーシアム会員。

書籍(玄光社):
360度VR動画メイキングワークフロー

ウェブサイト:http://www.naotosomese.com/


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