360度VR動画 メイキングワークフロー
第3回

360度VRカメラが「8K」を目指す理由

360度VR動画は、広視野角のレンズを備えた複数台のカメラによって、カメラを中心に前後左右と天地方向を記録した動画コンテンツです。近年においてはYouTubeやVimeoなどの動画投稿サイトやスマートフォンアプリなどで再生環境が整備され、エンターテイメント分野だけでなく、医療、観光、教育など幅広い領域での活用が始まっています。

視覚と聴覚によって空間を疑似体験できる新しいメディアとして注目が集まるVRですが、では実際に360度VR映像を制作するには、どのような機材や手順が必要なのでしょうか。「360度VR動画 メイキングワークフロー」(著・染瀬直人)では、撮影に必要な機材やソフトウェアをカバーしながら、360度VR動画の撮影から映像の合成、音声やテロップの編集、仕上げにいたるまで、一連の作業手順を網羅しています。

本記事では、Chapter1「360度VR動画の基礎知識」より、360度映像の原理に関する記述を抜粋してお伝えします。

360度VR動画 メイキングワークフロー

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エクイレクタングラーで360度パノラマ映像を再現

一般的に360度のパノラマ画像を表現する元となる投影法に「エクイレクタングラー(Equirectangular/正距円筒図法)」という形式がある。メルカトル図法などと同じく立体を平面として表す地図投影法の一種で、球体を意味する「スフィア(Sphere)」と呼ばれることもある。

2:1の比率で水平が360度、垂直が180度を表し、緯度と経度はこの図法上では縦横に置き換えられ、天地に行くほど引き伸ばされて、左右は大きく歪んでいる。描画の計算処理が容易という利点があり、360度VR動画の場合もこの形式がスタンダードとなっている。

360 度のパノラマ画像を地球になぞらえれば、エクイレクタングラーなどの投影法は、三次元の地球儀と二次元の世界地図の関係に似ている。

 

エクイレクタングラー(Equirectangular /正距円筒図法)。紀元120年頃、古代フェニキアの都市・テュロスのマリノスが考案した古来からある地図投影法だ。

この他に主な投影法として「キューブ・マップ(CubeMap)」、または「キューブ・フェイス(Cube Face/立方体分割)」と呼ばれるものがある。これは、サイコロ(立方体)を展開した形になっている。

キューブ・マップ(Cube Map)。歪みがないので、360度VR動画の底面の修正などを行う際、この形に書き出すことがある。「立方体分割」を意味する「キューブ・フェイス」とも呼ばれる。

ちなみにプラネタリウムのようなドーム型シアターで全天周(半球)として映像を投影する際には、魚眼レンズを天に向けて撮影したような「ドームマスター」という形式が使われる。全天球の場合は垂直方向が180度の「ハイパードームマスター」という形式を使用する。

パノラマ映像を実現するその他の投影法

球体を平面化して描写する投影法には、他にもさまざまな種類が存在する。エクイレクタングラーやキューブ・マップと同様の完全な全天周のプロジェクションとしては、「リトルプラネット(Little Planet)」がある。部分的なパノラマのプロジェクションには「ミラーボール(Mirror Ball )」や、エクイレクタングラーのように直線を歪めることなく本来の直線のまま表現できる「レクティリニア(Rectilinear/標準平面投影)などがある。

リトルプラネット(Little Planet)。ステレオグラフィック(立体射影)や二点遠近などとも呼ばれる。惑星のように見える状態から180度回転させると、トンネル効果(インサイドアウトプラネット)となる。
ミラーボール(Mirror Ball)。クリスタルボールに映った世界を彷彿とさせる投影法。回転させて初めて、全体を見ることができる。

VRは全天球映像の一部を切り出して見せている

360VR動画の視聴者は、全天球映像の一部を切り取るような形で見ていることになる。そのため、本来のエクイレクタングラーの状態の動画の解像度がそのまま目の前の動画の解像度になるのではなく、実質的には4分の1程度のサイズで見ている。従って、例えば4K(4,096×2,048ドット)を謳う360度VRカメラで撮影した動画だとしても、目の前の解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)に満たないため、HDの解像度に慣れた視聴者にとってはやや粗い映像として写る可能性がある。HD相当の見た目に仕上げるためには8K(7,680×4,320ドット)などの高い解像度が必要となり、最新の360度VRカメラが8K対応を目指しているのは、これが理由のひとつと言える。

一方で、大容量のデータのハンドリングは、それを扱うパソコンなどの環境に大きな負荷がかかる。そのため高速なGPUとCPUを備え、高速で大容量のストレージを搭載した高性能なパソコンでなければスムーズな作業は難しい。また、それだけのサイズの映像を再生する環境も限られる。

イラスト:岩瀬のりひろ

 


<玄光社の本>

360度VR動画 メイキングワークフロー

著者プロフィール

著・染瀬 直人 編・エディトル


染瀬 直人(そめせ・なおと)

写真家、映像作家、360VR Content Creator

1964年生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。ハナエモリ・インターナショナル「流行通信」THE STUDIOを経てフリーランスに。コマーシャル、雑誌、ポートレート撮影などで活躍。近年は4K動画撮影を手がけるほか、360度VRパノラマ、360度VR動画、ギガピクセルイメージ、タイムラプス、シネマグラフなどの作品を発表し、静止画と動画の狭間における新表現に取り組む。2014年ソニーイメージングギャラリーで、個展「卜ーキョー・バーチャル・リアリティー」を開催。Autopano Video Proの公認アンバサダー。Kolor Academy認定エキスパート・トレーナー。YouTube Space Tokyo 360ビデオ・インストラクター。プ口フェッショナル・デジタルフォトを学ぶための勉強会「電塾」運営委員。VRなど新分野を考察するセミナ「VR未来塾」 主宰。IVRPA会員、VRコンソーシアム会員。

書籍(玄光社):
360度VR動画メイキングワークフロー

ウェブサイト:http://www.naotosomese.com/

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