空からのぞいた桃太郎
影山徹 著
(岩崎書店)1,500円+税/BD:鈴木成一デザイン室
日本に長く暮らす人であれば、誰もが知っている「桃太郎」。そんな聞き慣れた昔話が、空から覗きこむことで不可解な顔を見せる。影山徹さんが徹底的に俯瞰して描いたRPGゲーム画面のような「桃太郎」は、「桃太郎は一体何者なのか? なぜ鬼ヶ島に行く、と言い出したのか?」などと、私たちの前提をいとも簡単に覆すのだ。岩崎書店・岩崎夏海社長による付録の解説冊子を読めば、ますます誰かとその謎について話し合いたくなるだろう。
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『長場雄作品集 I DID』
長場雄 著
(PARCO出版)3,000円+税/AD+D:熊谷彰博
長場雄さん初のアーカイブ本。現在の作風で活動を始めた2014年から現在までの多種多様なクライアントワークを中心に、Tシャツやトートバッグといったグッズ、ラフスケッチなど約800点の作品が掲載されている。一見シンプルで淡々とした構成だが、延々と飽きることなくページをめくり続けてしまう魅力的な仕上がりだ。潔く、イマジネーションを掻き立てる『I DID』というタイトルを体現している。
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『西村ツチカ短編集 アイスバーン』
西村ツチカ 著
(小学館)787円+税/装幀:井上則人(井上則人デザイン事務所)
『ビッグコミック増刊号』連載中の「北極百貨店のコンシェルジュさん」第1集と同時発売された、待望の短編集。『ビッグコミック』や『ジオラマ』などで発表された6編と、自主制作の2編を収録。最新作「アイスバーン」をはじめ、どの作品も“人間のおかしみ”を笑ってしまうと同時に、胸をチクリと刺すような読後感がある。コミックスとしてはやや大ぶりで、西村ツチカさんならではの線を存分に堪能出来るのもうれしい。
→「西村ツチカ短編集 アイスバーン」
『2ひきのねこ』
宇野亞喜良 作
(ブロンズ新社)1,400円+税/装丁:名久井直子
ももちゃんの家にある日やって来た、子猫のボンボン。いつも一緒の2人は“すき”に溢れた、幸福な毎日を過ごしている。そんなところに、ちっちゃな新入り“すなこ”が現れて……。細やかに描かれたボンボンの哀しみと嫉妬にはふっと涙ぐんでしまいそうになるが、ラストはよい意味での“大人の余裕と優しさ”が軽やかに描かれている。宇野亞喜良さんが描き下ろしで贈る、自身の愛猫ジタンとの実話に基づく物語。
→「2ひきのねこ」
『モノモノノケ』
tupera tupera作 写真:阿部高之
(アリエスブックス)1,600円+税
tupera tuperaと写真家・阿部高之さんによる新刊は、表紙から不穏で妖しげな空気が漂っている。「サガシテヨ ボクラ マジメニ イキテマス」という姿の見えない誰かの声に誘われて読み進めると、愉快で不思議な“モノモノノケ”たちがあちらこちらから姿を現す。それはまるで、ちょっぴり不安な気持ちで空想を豊かにさせた子どもの頃の留守番のようだ。蛇腹製本の絵本を逆からめくると現れるモノモノノケたちのプロフィールが心憎い。
→「モノモノノケ」
『鏡の国のアリス』
ルイス・キャロル 著
高山宏訳
絵:佐々木マキ
(亜紀書房)1,700円+税/D:祖父江慎+鯉沼恵一(cozfish)
高山宏さんの痛快な新訳と、佐々木マキさん描き下ろしの2色刷り挿絵80点による贅沢な『鏡の国のアリス』。2015年に同社から発売された『不思議の国のアリス』に続く、ルイス・キャロル「アリス・シリーズ」の完結編だ。今まで「アリス・シリーズ」を読んだことのない方はもちろん、愛読書とされている方にもオススメの1冊。祖父江慎さんと鯉沼恵一さんのデザインによる、本文と挿絵のギミックにも注目したい。
→「鏡の国のアリス」
『『濹東綺譚』を歩く』
唐仁原教久 著
(白水社)2,400円+税/装幀+ D:藤井紗和+白村玲子
永井荷風の代表作『濹東綺譚』が発表されてから、80年が経った。小説の舞台となった私娼街・玉の井(現在の東京都墨田区東向島5・6丁目、墨田3丁目)は東京大空襲によって焼きつくされ、物語のなかに姿を残すのみ……。そんな今はなき街並みに思いを馳せながら、イラストレーターである唐仁原教久さんは荷風の歩いた道を辿り、鮮やかにその世界を甦らせた。 50点を越える挿画と巧みな筆致で綴られる渾身の画文集。
→「『濹東綺譚』を歩く」
この記事は「イラストレーション No.217」から転載しています |