スマートフォンやタブレット、あるいはフィーチャーフォンの普及によって、私たちは「一人一台カメラを持っている」といってさしつかえのない時代に生きています。人々は端末からWebサイトやSNSを利用し、その中で写真を見る、あるいは自ら撮影することも、今や日常の一部といえるでしょう。
いわゆるミラーレスや一眼レフといったレンズ交換式カメラを使った撮影は、スマートフォンでの撮影と比べて難しそうなイメージがあります。しかし実際のところ、両者ともカメラとしての構造は原理的にほぼ同じであり、写真を撮影するうえで留意するポイントに違いはほとんどありません。
「写真の撮り方ガイドブック」では、カメラの構造や設定項目の意味、光の捉え方、構図の作り方からレンズによる効果の違い、デジタルデータとしての写真の扱い方まで、写真の基礎と機材の使い方を一通りカバーしており、写真を本格的に学ぶ始めの一歩として使える一冊に仕上がっています。
本書はミラーレスや一眼レフカメラユーザー向けに作られた書籍ですが、スマートフォンでの撮影に応用できる部分も多いので、本連載では両者で共通して使える概念やテクニックを中心に紹介します。
本記事ではPart2「写真で表現するために」より、「逆光」をはじめとした自然光の使い方についての記述を抜粋して紹介します。
逆光を正しく理解する
逆光は被写体の後方から照射される光源です。この光源は「クセ」があるものの、その特徴をきちんと把握できれば、写真撮影では非常に有効に活用できます。ここでは逆光についてもう少し踏み込んで考えていきたいと思います。
景勝地などで記念撮影をしている人たちが「あちゃ! 逆光だ。顔が暗く写っちゃった」「ここは逆光だからだめだよ」などと話をしているのを見かけたことはないでしょうか。逆光というと、手前の人物が暗く写ってしまう面倒な光という印象を持っている人も少なくありません。しかし、逆光は背後から回り込む光源のため、やわらかく主題を写すことができる非常に優れた光源なのです。とくにポートレートでは、人肌を滑らかな質感で描写でき、重宝します。
逆光を回避する3つの方法
逆光への対策はさまざまです。ストロボやレフ板を用いると、背景の露出を変えずに手前の光量だけ補えます。コントラストもつき、メリハリのある描写になるのも特徴です。
逆光下でうまく撮るには
では逆光を使ってうまく撮るには、どうしたらいいのでしょうか? 一番簡単な方法がすでに述べたプラス補正です。手前に主題がある場合は、その主題が明るくなる程度までプラス補正を行います。ちなみに、暗くシルエットにしたければ、そのまま補正なしで撮るか、マイナス補正で調整するとドラマチックな描写になります。
ポートレートなどの場合は、被写体手前にレフ板を配置したり、ストロボを弱めに発光し、光量を補う方法も有効です。もともと逆光は、手前の主題よりも背景のほうが明るく写ります。この際プラス補正を行うと、背景はさらに明るくなります。レフ板やストロボを使うことで、手前の被写体のみの光量を補うことが可能になるのです。逆光利用時はこの3つの補正方法を駆使することで、露出に関わる悩みを解決できます。
逆光は太陽の高さを意識する
しかし、本当の意味で逆光を使いこなしたければ、逆光自体の吟味も非常に大事なポイントになります。具体的に、逆光には「扱いやすい逆光」と「扱いにくい逆光」があります。
扱いやすいのは、太陽が高い位置にあるときの逆光です。背後からの光の射し込み方がそこまで強くないため、生じる明暗差も小さく、あまり逆光にとらわれずにやわらかい雰囲気を演出しながら撮影が行えます。逆に扱いにくいのは、太陽が低い位置にあるときの逆光です。強く射し込むため明暗差も大きくなり、コントロールがしづらくなります。フレア(ハレーション)と呼ばれる白い光の像が広範囲に及んで入り込むこともあります。しかし、強くドラマチックな光線で夕景独特のアンバーな空気感を醸し出せるのは、この低い位置から射し込む逆光以外にありません。フレアに関しては、カメラアングルや撮影ポジションを太陽光が直接入らないように調整することで軽減できます。レンズフードを装着するだけでも大きな効果があります。
うまく使いたい半逆光
逆光は高い位置にある太陽光で利用しやすい側面を持ちますが、少し角度を変えることでも、非常に汎用性の高い光源になります。それが左または右斜め後方から照射される半逆光です。この光源は片側からの逆光になる影響で、光の当たった側面にハイライトが入り、やわらかい質感でありながら立体感も合わせて演出できるのが特徴です。真後ろから照射される逆光よりも、白く飛ぶ背景にもグラデーションが残り、単調さも軽減できます。
このように見てくると、逆光とひと口に言っても高さや角度でさまざまな種類が存在することがわかります。もっとも扱いやすいのは高い位置から照射される半逆光でしょうか。しかし、逆光は個々に魅力があり、その光源でないと表現できない描写があります。確かに夕方の逆光は強力すぎて失敗しやすいわけですが、結局は扱い方次第です。冒頭で述べたように、「光はどれも美しい」のです。当然、これは逆光も例外ではありません。
扱いやすい曇天時の光
晴天時は確かにさまざまな光の向きを試せますが、曇天時はそれほど光の向きに気を遣わず被写体と向き合える魅力があります。雲によって拡散したやわらかい光源を使い、陰影の少ない軟調気味の色調で撮影が行えます。光の向きが選べず、グレー調の雲の影響で色味も乏しくなるため、画づくり自体は単調になりますが、撮影は晴天時よりもやりやすいです。なお、薄曇りの明るい曇天時には太陽の位置を意識する必要があるので注意しましょう。雲で光が拡散しているものの逆光や順光の特徴が光源に現れるからです。また、曇天時の光源はコントラストが低くなる分、描写が重たくなることがあるため、プラス補正を行うとやわらかい色調が強調できます。
日陰と窓際の光源で撮る
晴天時にうまく利用したい光源が日陰です。外から回り込んでくる明るくやわらかい光源を使って撮れるのが魅力で、陰影の少ないやわらかい質感で写真をつくることができます。一見、日陰は暗く見えますが、これは日向と比較して見ているためです。日陰の露出にだけ焦点を合わせれば、光量は十分です。
また、室内で撮影する際に活用したいのが窓際の自然光です。非常にやわらかい面光源で被写体を撮影できます。陰影がきつい場合は、窓の反対側にレフ板を配置してみると自然なトーンで光量を補うことができます。外からの光が強い場合は、白いレースのカーテン越しに撮ってみましょう。光がやわらかくなります。窓際の自然光はポートレートやテーブルフォトなどで有効な光源です。
これらの光もプラス補正がひとつの決め手になります。明るめに撮ることで、光のやわらかさが強調できます。なお、日向で撮るよりも、当然光量は落ちてしまいますが、ISO感度を適宜上げるなど調整し、手ブレしないように注意しましょう。とくに大幅なプラス補正を行う際は意識したいです。