Still Life Imaging -素晴らしき物撮影の世界-
第1回

プロフェッショナルのスーパー物撮りテクニック〜商品カタログを想定してアンティークカメラを撮る

格好良い、美しい、面白い物撮影の世界をビジュアルとプロセスで紹介する連載。ライティングテクニックや見せ方のアイデアなど、ビジュアル提案を行なうためのテクニックを凸版印刷TICビジュアルクリエイティブ部 チーフフォトグラファーの南雲暁彦氏が解説します。

本記事では、モチーフとしてカメラのカタログを想定した撮影をご紹介します。

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Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

第1回目のモチーフとして、カメラのカタログを想定した撮影を行なった。使用した被写体はハッセルブラッド1000Fという、もはやクラシックカメラの領域に入るものだが、その美しさは今になって輝きを増して見える。この時代のカメラ達は本当に様々なデザインの物がありディテールも非常に面白い物が多いが、撮影にもそういった多様性を喚起させるべく、あえてこのようなカメラを被写体に選んだ。

<完成作品>

1/80s f16 ISO100
撮影協力:中村雅也(凸版印刷) / 中島孟世(THS)
スタイリング&小道具:鈴木俊哉(BOOK.INC) / 竹内義尊
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撮影のテーマは「光、闇、反射」という写真の3大要素とも言えるものをビジュアルの基軸にし、写真機のイメージを創り上げること。ファインダーから伸びる強い光の束、闇に鈍く光るボディの金属部分、水面に映る少し歪んだ鏡像、この3つの要素が作り上げるカメラと写真の世界観である。

要は、なんかカッコイイ!と思わせるのが目的であるが、テクニック以前に「何を表現するか」は大事なのである。

ライティング図

【使用機材】
カメラ&レンズ(Canon)
EOS 5DS R…[1]
TS-E135mm F4L マクロ ストロボ (Profoto)…[2]
Pro-10…[3]
ProHead Plus…[4]

アクセサリー (Profoto)
Zoom Reflector…[5]
RFi Softbox Rectangular 2×3…[6]
RFi Softbox Rectangular 3×4…[7]
Air Remote TTL-C…[8]

 

撮影の流れ

今回のビジュアルをどのように撮影するのか順を追って説明していく。ライティング図と合わせて見ていこう。

1. 光束


まずはキービジュアルとなるファインダーから伸びる光線のライティングである。カメラと被写体の位置を決め、後ろにバウンス板を使ってスリットを作る。あとボケの領域なので使う絞りによってこのスリットは太さが変わる。使用する絞り値を決めて撮影画像を確認しながらスリットの位置と幅を決めていく。暗闇の中に光る光束を表現するために、バウンス板には黒いウールペーパーを貼り不要な反射を避ける。スリットの後ろにLバンク、光に色味をつけるためブルー系のフィルターをかける。

スリット背面
カメラ側
光束を出した状態

2. カメラ左側面

バウンス板とユポでボックスを作り、柔らかく光を回す。BOXの上方外向けにストロボを向けてバウンス。ハッセルの金属の縁取りを鈍く浮かび上がらせる。

左側のライト
左側のみライトを当てた状態

3. カメラ右側面

左と同じようにボックスを作り、光を回していく。黒い皮の部分には強いハイライトが入らないようにし、全体的にしっとりとした質感を出すようにする。

右側のライト
右側のみライトを当てた状態
背面・左右のライティングセット

この時点でのセットを上方から見るとこのようになっている。ただ柔らかく光を回しているわけではなく、光の方向性がはっきりしているのがわかる。この高さが必要なのはハッセルの金属の縁取りやファインダーがラウンドしており、その部分のハイライトを綺麗に繋げるため。

4. カメラ正面

レンズの大きさの穴を開けたユポを垂らし、レンズ上部からバンクを使ってライティングをする。左右のライトでできた金属のハイライトを繋げていくように光量と位置を決める。

レンズ上部のライト
ユポの穴からレンズを出す
正面のみライトを当てた状態

5. 天面

金属部分の上部に残った濃いシャドーをなじませるためにボックスの上を白で塞ぐ、金属のシャドー部が柔らかくなり、鈍い金属の質感が出てくる。今回はスタジオの巨大なディフューザーを使ったが、ここまで大きい必要はない。

セット上部を塞いだ状態
上部正面左右にライトを当てた状態

Tips

Profoto PRO-10

ストロボはProfoto「PRO-10」を使用した。1/10f-stopというかなり細かい光量の調整が可能でアクセサリーも豊富だ。ダイヤルやコネクト部分、ハンドルなど各部の操作性も優れている。

Canon TS-E 135mm F4 L マクロ

レンズは新鋭Canon「TS-E 135mm F4 L マクロ」を使用。カメラをなるべく下向きにしないようにシフトさせ、被写体となるハッセルのボディにパースがつかないようにする。またティルトでフォーカスをコントロールし、絞りだけに頼らないフォーカス深度を設定。被写体をシャープに写し出す。

6. 水による反射の演出

ハッセルが少し歪んで映り込むように少しずつ水を足しながら写り込み画像を作っていく。スリットからの光を活かすように右側には少し水のないスペースを残した。

水の形状を整える
デコラを置いて水の反射をシミュレーション

7. 細部の補正

現像時の調整でスリットのライトに仕込んであったブルーのフィルターを活かす方向に全体の色調を持っていく。その上で光束のボケ(にじみ)部分が青く発光しているようにトーンカーブで調整、またファインダーから光が伸びているように画像処理で光束を伸ばした。

補正前

補正後

バリエーション

セットやライティングを活かして別パターンの撮影。アレンジアイデアのひとつとしてチェックしておこう。

1/80s f16 ISO100
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今回のメインカットは光、闇、反射の3要素で写真機や撮影のイメージを構築した。水面に映った鏡像は本体と全く同じものではなく、波立ち、歪み、欠けている部分もある。そこに被写体と写真の関係性を見出すのである。絵を作っていて思ったのは、スターウォーズとかガンダムIIIのポスターにいかに自分が影響を受けていたかということ。ライトセーバーやビームライフルの光がハッセルから伸びている光束となって再構築されている。カメラとは、フォトグラファーにとって被写体に立ち向かっていくライトセーバーでありビームライフルなのかもしれない。

バリエーションカットではあえてメインの光束を取り除き、その現実世界と、フォトグラファーが切り取る写真の部分だけをフィーチャーしたシンプルなビジュアルを抽出した。デザイナーもこれなら文字が入れやすくて喜ぶのかもしれない。


Still Life Imaging スタジオ撮影の極意

著者プロフィール

南雲暁彦


南雲 暁彦 Akihiko Nagumo
1970 年 神奈川県出身 幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。
日本大学芸術学部写真学科卒、TOPPAN株式会社
クリエイティブ本部 クリエイティブコーディネート企画部所属
世界中300を超える都市での撮影実績を持ち、風景から人物、スチルライフとフィールドは選ばない。
近著「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」 APA会員 知的財産管理技能士
多摩美術大学統合デザイン学科・長岡造形大学デザイン学科非常勤講師

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