かつてフィルムカメラで使われていた交換レンズは、デジタルカメラ全盛の現代において「オールドレンズ」と呼ばれて人気を集めています。人気のきっかけとなったのは、ミラーレスカメラの普及でした。オールドレンズのほとんどは、そのままでは現行機種のカメラに装着できませんが、マウントアダプターと呼ばれるパーツを用いれば、現代のミラーレスカメラに取り付けが可能。そこから「レンズ遊び」が支持を集めるようになったのです。
写真家・ライターの澤村徹氏は、書籍「オールドレンズ・ライフ(玄光社刊)」シリーズで7年に渡ってオールドレンズの楽しみ方を紹介してきました。その集大成として刊行されたのが「オールドレンズ・ベストセレクション」。ここで採り上げた172本の魅力的で個性的なオールドレンズの中から、本記事では、Ektar 50mmF1.9をご紹介します。
コダックはエクター、エクタノン、エクタナーなど、様々なレンズを製造していたが、本家ロチェスター工場で製造した高性能レンズにのみ、エクターの称号を与えていたと言う。デジタル時代のオールドレンズファンなら、シグネット35の改造エクター44ミリF3.5がおなじみだろう。
ここで取り上げるエクトラのエクター50ミリF1.9は、言わば大本命エクターである。エクトラは1940年に登場したコダック製のレンジファインダー機で、ズームファインダーという高性能ギミックを搭載していた。レンズは広角から望遠までエクターが揃い、いかに力を注いでいたカメラシステムであるかが伝わってくる。
本レンズは1940年代のレンズということもあり、開放は滲みが多く、ぐるぐるボケも発生しやすい。しかし、F4〜F5.6あたりまで絞った際の硬く鋭い描き方は突出している。エクターは高性能レンズの称号だが、本レンズは単に優等生的な描写ではなく、絞りによる描写のギャップを楽しめる。オールドレンズの妙を実感しやすいレンズだ。
<玄光社の本>