デジタルカメラやスマートフォンでは、撮影した写真の記録形式として「JPEG」のほか「RAW」という設定項目を選べることがあります。RAWは一言でいえば「撮影画像の生データ」。データ容量が大きいかわりに、JPEGよりも多くの情報を持っている未圧縮の画像ファイルです。
RAWはほかの画像ファイルに比べて特殊で、専用のソフトが必要になるなど扱いも難しく、「すぐ見られなくて面倒くさそう」「難しそう」といった理由で、RAWでの記録を敬遠している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「Lightroomではじめる 風景写真RAW現像テクニック」では風景写真をメインに、RAW現像ソフト「Lightroom」を使ったプロの現像テクニックを紹介。作例とした写真表現の方向性に「威風堂々」「爽快感」「幽玄」といったテーマを設定し、写真を調整する際の考え方や具体的な手順を学べます。
本記事では第4章「上級編」より、「明暗差」をテーマにした作例の調整について解説します。
錦秋の池畔を流れ逝く落ち葉の行く末に想いを寄せる
秋になると毎年のように訪れる池。前景にモミジの枝を入れられるこの場所はお気に入りのポジションだ。しばらく撮影をしていると、足元にどこからともなく落葉が流れてきた。対岸のモミジたちは色鮮やかで錦秋に見えているが、どうやら落葉が始まっているようだ。ちょうど形よく流れてきた落葉に光が当たり、朽ち逝く前の美しさを魅せる。
そのとき、この落葉の最期の輝きを対岸の盛秋を迎えているモミジと対比させて写り取り、終焉の美を永遠に残したい、そう考えた。とても明暗差の強いシーンだ。RAW現像によって対岸のモミジの華やかさと水面を流れる落葉の輝きを美しく表現したい。
Before(現像処理前)
対岸との奥ゆきを強調するために広角レンズを選択。さらに流れてきた落葉を強調するために水面に近い高さを選んでいる。また露出についてはとくに意識している。対岸の紅葉が明るくなりすぎて紅葉のコクが引き出せないと“錦秋”らしさが得られにくくなるからだ。
After(RAW現像)
- 前景に選んでいるモミジの枝や水面を流れる落葉はとても暗い。そのため、対岸の空を広々と入れてしまうと、白飛びを起こさないまでも青空のコクは引き出しにくくなる。そこで前景に選んでいるモミジの枝でできるだけ空を覆っている。
- 錦秋を迎えている対岸の紅葉のディテールは、撮影の段階でしっかりと引き出しておかないと、RAW現像であっても戻せなくなる。そこで、白飛びを起こさずディテールが引き出せるよう-1.3EVほど補正している。
- 対岸の明るさを基準に露出補正を行っているため、画面下の落葉がすいぶんと暗く写っている。しかし光がしっかりと当たっていることから、RAW現像で調整すれば必要な明るさを引き出すことができると判断している。
Step1
ホワイトバランスは太陽光を選択して撮影しているが、紅葉の色に深みが出るよう少し暖色系に調整する。
Step2
−1.3EVまで露出補正して撮影しているので対岸の紅葉のディテールは得られているが、まだ若干明るい。そこで画像全体を暗く調整する。
Step3
全体的に暗く調整し直したためシャドウ部分も暗くなる。そこで調整前の画像に近づくようシャドウ部分を明るくする。
Step4
流れ逝く落葉の明るさを調整する。このシーンは落葉の周囲にある水の透明感をも引き出したいので、補正ブラシで落葉だけを選択するのではなく段階フィルターで画面手前のエリアを調整する。
Step5
カメラの水準器を基準に水平を出して撮影しているが、対岸が緩いカーブを描いているため、見かけ上傾いて見える。そこで見かけ上の水平を出して完成。