Lightroomではじめる 風景写真RAW現像テクニック
第9回

アンダーめに写した花の明るさを持ち上げて「可憐さ」「透明感」を蘇らせる

デジタルカメラやスマートフォンでは、撮影した写真の記録形式として「JPEG」のほか「RAW」という設定項目を選べることがあります。RAWは一言でいえば「撮影画像の生データ」。データ容量が大きいかわりに、JPEGよりも多くの情報を持っている未圧縮の画像ファイルです。

RAWはほかの画像ファイルに比べて特殊で、専用のソフトが必要になるなど扱いも難しく、「すぐ見られなくて面倒くさそう」「難しそう」といった理由で、RAWでの記録を敬遠している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

Lightroomではじめる 風景写真RAW現像テクニック」では風景写真をメインに、RAW現像ソフト「Lightroom」を使ったプロの現像テクニックを紹介。作例とした写真表現の方向性に「威風堂々」「爽快感」「幽玄」といったテーマを設定し、写真を調整する際の考え方や具体的な手順を学べます。

本記事では第4章「上級編」より、「可憐」をテーマにした作例の調整について解説します。

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Lightroomではじめる 風景写真RAW現像テクニック

森の中で楚々と咲く妖精の可憐な姿を愛おしく想う

薄暗い森の中で楚々と咲くレンゲショウマ。森の妖精とはよくいったものだ。花の咲くタイミングを見計らって訪ねた甲斐もあり、まだ痛んでいない美しい花に出合うことができた。可憐な花の姿を捉えようと考え、花の下にもぐり込むようなアングルを選択。背景に美しい玉ぼけを配置できるよう慎重に撮影ポジションを決めている。

逆光での撮影ということもあり、カメラの階調補正機能を〝より強め〟にして撮影している。そのためLightroomで開くと画面全体がかなり暗い印象となっている。RAW現像ではこのとき感じた楚々と咲くレンゲショウマの姿を可憐に表現したいと考えた。

Before(現像処理前)
使用したカメラの階調補正機能は撮影時にアンダーめに写す仕様。そのためLightroomで開くと暗く写っているように見える。RAW現像では画像全体の明るさを見たときの印象に戻し、レンゲショウマの花の透明感と可憐な印象を清々しく表現したい。

After(RAW現像)

  • 花の向きは下向きと判断できる。そこで、三分割法の交点付近に花の中心を配置したうえで画面の左下方向に空間を開け、安定感を得ている。その際、背景に見える玉ぼけとピンク色の花との重なりを意識している。
  • レンゲショウマの花は白い。また逆光気味に被写体に対してアプローチしているので、透明感がある。カメラの階調補正機能を使用することで暗く写った花の白さや透明感はRAW現像によって引き戻す。
  • フラットな光線だが、逆光で撮影していることもあり、背景の玉ぼけやピンク色のトーンがやや硬い印象に写っている。緑とピンクのコクを残しながら少し明るくすることで柔らかい印象を得たい。

Step1
使用したカメラの階調補正機能により暗く写っている。そこで画像全体の明るさを見たときの印象に近い明るさまで戻す。

レンゲショウマを逆光で見たときの印象に近い明るさまで戻すため、「露光量」を「+1.00」に調整。

Step2
薄暗い森の奥深くに咲いているイメージと、楚々としたイメージを強調したい。そのためには「色温度」をコントロールして暖色系から寒色系へと色味を調整する。

「色温度」を「4500 」に調整。ホワイトバランス太陽光よりも青みが加わることで、日陰の森の印象が加わり、楚々とした印象も加わった。

Step3
レンゲショウマの可憐な印象を背景で表現したい。そのためには画像の周囲を明かるくすれば、全体的にふんわりと柔らかな印象が得られ、レンゲショウマへの視線誘導も図られると考えた。

「レンズ補正」の「適用量」を「+100」、「中心点」を「10」に調整。全体に華やかな印象を得ながらも、花のすぐ背景は暗いままにすることで森の奥深さを残している。

Step4
画像の周囲が明るくなったことで、背景の緑とピンクのコクが若干低下したように感じられる。そこで花の可憐なイメージを損なわないよう、ナチュラルに鮮やかさを加える。

自然な印象に彩度を上げるためには「自然な彩度」を使用する。画像を見ながら不自然にならないよう「+40」に調整する。

Step5
背景は整ったが肝心のレンゲショウマの花が暗いため透明感や可憐さが感じられない。ほぼ円形の花であることからここでは円形フィルターで花の明るさと色味を調整する。

「円形フィルター」をレンゲショウマに適用。「露光量」を「+1.00」にして花を明るく表現。さらに「色温度」を「25」に調整し、可憐な印象を加えて完成。


Lightroomではじめる 風景写真RAW現像テクニック

著者プロフィール

萩原 史郎&萩原 俊哉

萩原史郎(はぎはら・しろう)

1959年山梨県甲府市生まれ。日本大学卒業後、株式会社新日本企画で「季刊(*現在は隔月刊) 風景写真」の創刊に携わり、編集長・発行人を経験。退社後はフリーの風景写真家に転向。現在自然風景を中心に撮影、執筆活動中。2015年に初個展「色X情」を開催。東京を皮切りに、仙台、福岡、名古屋へと巡回。

カメラグランプリ選考委員
オリンパスデジタルカレッジ講師・山コミュ管理人
日本風景写真家協会会員(JSPA)

 

萩原俊哉(はぎはら・としや)

1964年山梨県甲府市生まれ。 広告代理店に入社、食品関連の広告制作に配属、カタログ制作、イベント企画等に携わる。 退社後、フリーのカメラマンに転向。浅間山北麓の広大な風景に魅せられて、2007年に拠点を移し、2008年に本格的に嬬恋村に移住。 現在自然風景を中心に撮影、写真雑誌等に執筆。2014年11月にはBS11テレビ番組「すてきな写真旅2」に出演。2020年4月逝去。

書籍(玄光社):
風景写真の便利帳
自然風景撮影 基本からわかる光・形・色の活かし方
自然風景撮影 上達の鉄則60
RAWから仕上げる風景写真テクニック
風景&ネイチャー構図決定へのアプローチ法

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